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平成15年横審第75号
件名

漁船第七政吉丸漁船遷昭丸衝突事件

事件区分
衝突事件
言渡年月日
平成15年11月28日

審判庁区分
横浜地方海難審判庁(西山烝一、大本直宏、稲木秀邦)

理事官
松浦数雄

受審人
A 職名:第七政吉丸船長 操縦免許:小型船舶操縦士
C 職名:遷昭丸船長 操縦免許:小型船舶操縦士
指定海難関係人
B 職名:第七政吉丸甲板員

損害
政吉丸・・・右舷側船首外板にペイントはく離
遷昭丸・・・左舷側中央部を大破、右舷側船首部を破損、のち、全損処理船長が2週間の加療を要する腰部打撲の負傷

原因
政吉丸・・・居眠り運航防止措置不十分、船員の常務(避航動作)不遵守(主因)
遷昭丸・・・警告信号不履行、見張り不十分、船員の常務(衝突回避措置)不遵守(一因)

主文

 本件衝突は、第七政吉丸が、居眠り運航の防止措置が不十分で、漂泊中の遷昭丸を避けなかったことによって発生したが、所定の形象物を表示せずに揚縄中の遷昭丸が、見張り不十分で、衝突を避けるための措置をとらなかったことも一因をなすものである。
 受審人Aを戒告する。
 受審人Cを戒告する。
 
理由

(事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
 平成14年12月27日09時15分
 熊野灘
 
2 船舶の要目
船種船名 漁船第七政吉丸 漁船遷昭丸
総トン数 9.7トン 1.4トン
全長 17.60メートル  
登録長   7.50メートル
機関の種類 ディーゼル機関 ディーゼル機関
出力 88キロワット  
漁船法馬力数   45

3 事実の経過
 第七政吉丸(以下「政吉丸」という。)は、まき網漁業船団の灯船に従事する、船体中央部に操舵室を備えたFRP製漁船で、A受審人(昭和50年12月5日一級小型船舶操縦士免状受有)及びB指定海難関係人が乗り組み、操業の目的で、船首0.60メートル船尾1.75メートルの喫水をもって、平成14年12月26日16時00分僚船7隻と三重県長島港を発し、同県鵜殿港南東方沖合6海里ばかりの漁場に向かい、18時ごろ同漁場に着いて操業を開始し、翌27日07時00分操業を終え、網船の甲板員2人を移乗させて帰途に就いた。
 ところで、政吉丸の操業実態は、毎日17時ごろ出漁し、翌日06ないし07時ごろ操業を終え、基地の長島港に昼ごろ帰港する日帰り操業で、B指定海難関係人は、週に1日の休漁日に休息をとっていたものの、連日、1日の睡眠時間が自宅及び漁場への往航中を合わせて4ないし5時間であった。
 A受審人は、発進時、いつもどおり、帰航中の船橋当直をB指定海難関係人に行わせることにしたが、普段と同じ操業模様なので、同指定海難関係人がまさか居眠りに陥ることはないと思い、眠気を催したときには直ちに報告するよう厳重に指示することなく、針路模様を引き継ぎ、操舵室後部の寝台で休息した。
 B指定海難関係人は、単独で船橋当直に就いて長島港に向け北上し、08時46分少し過ぎ三木埼灯台から095度(真方位、以下同じ。)1.5海里の地点に達したとき、針路を010度に定めて自動操舵とし、機関を全速力前進にかけ、15.0ノットの対地速力で、操舵輪後方のいすに腰掛けて進行したところ、連日の操業で疲労が蓄積していたうえ、睡眠不足気味になっていたこともあって、同時51分ごろ眠気を催すようになったが、いすから立ち上がり、外気にあたって眠気を覚ますなり、それでも眠気がとれないときはA受審人に報告して同当直を替わってもらうなど、居眠り運航の防止措置をとることなく、当直を続けているうち、いつしか居眠りに陥った。
 B指定海難関係人は、09時13分桃頭島灯台から069度3.3海里の地点に至ったとき、正船首930メートルのところに左舷側後部を見せた遷昭丸が存在し、同船が漁ろうに従事していることを示す形象物(以下「鼓形形象物」という。)を掲げていなかったうえ、後方から接近していたので、はえ縄漁具と乗組員の操業模様が分からなかったこともあって、同船を漁ろう中と認識することができず、単に、漂泊中の漁船として視認できる状況で、その後、衝突のおそれのある態勢で向首接近したが、居眠りしていてこのことに気付かず、A受審人に報告できず、遷昭丸を避ける措置がとられないまま続航した。
 こうして、政吉丸は、09時15分桃頭島灯台から062度3.6海里の地点において、原針路、原速力のまま、その右舷船首が、遷昭丸の左舷中央部に後方から20度の角度で衝突した。
 当時、天候は晴で風力2の南東風が吹き、潮候は上げ潮の中央期であった。
 A受審人は、衝突の衝撃で目を覚まし、事後の措置に当たった。
 また、遷昭丸は、船体中央部に操舵室を備えたFRP製漁船で、C受審人(昭和50年11月21日一級小型船舶操縦士免状受有)ほか1人が乗り組み、アマダイはえ縄漁の目的で、船首0.30メートル船尾1.00メートルの喫水をもって、同月27日04時00分三重県引本港を発し、江戸鼻東方沖合1.5海里の漁場に向かった。
 ところで、遷昭丸のアマダイはえ縄漁は、直径2ミリメートルの化学繊維製幹縄約20メートルに46本の枝縄を取り付けたものを1組とし、これを20組繋げて(つなげて)約400メートルとした幹縄の両端に、浮き及び標識を取り付けた漁具を、2時間かけて投縄し、3ないし4時間かけて揚縄するもので、いつも正午までには操業を終えて帰港していた。
 C受審人は、05時00分前示漁場に着き、漁ろう中を表示する鼓形形象物を掲げないまま、同時30分ごろ南から北に向かって投縄作業を開始し、同作業を終了したあと、08時から機関を極微速力前進と中立運転とを繰り返しながら、船首を北方に向けてほぼ漂泊した状態で、自らは右舷側前部甲板上の縄巻揚機の側で幹縄の揚縄作業にかかり、甲板員は操舵室後部ではえ縄漁具の整理作業を始めた。
 09時13分C受審人は、前示衝突地点において、船首が350度を向いて揚縄作業を行っていたとき、左舷船尾20度930メートルのところに政吉丸を視認でき、その後衝突のおそれのある態勢で接近するのを認め得る状況であったが、同作業をすることに気を奪われ、周囲の見張りを十分に行わなかったので、同船の存在と接近とに気付かず、幹縄を切って機関を操作するなど、衝突を避けるための措置をとらないで、漂泊したまま同作業を続けた。
 C受審人は、09時15分わずか前左舷船尾方至近に政吉丸を初認したが、どうすることもできず、遷昭丸は、船首が350度を向いて、前示のとおり衝突した。
 衝突の結果、政吉丸は、右舷側船首外板にペイントはく離を生じ、遷昭丸は、左舷側中央部を大破したほか右舷側船首部に破損を生じて全損処理され、C受審人は2週間の加療を要する腰部打撲を負った。

(航法の適用)
 本件は、昼間、三重県桃頭島北東方沖合において、漁場から帰航中の政吉丸とほぼ漂泊してはえ縄漁の幹縄を揚収中の遷昭丸とが衝突したもので、以下適用する航法について検討する。
 政吉丸は、漁場から長島港に向かって15.0ノットの速力で進行していたことにより、航行中の動力船に当たる。
 一方、遷昭丸は、アマダイはえ縄漁に使用している約400メートルの幹縄を衝突地点付近で南から北へ投入したのち、同縄を巻揚機により揚げている最中で、はえ縄漁による操業中であった。
 しかしながら、遷昭丸が漁ろうに従事していることを示す鼓形形象物を掲げていなかったうえ、後方から接近していた政吉丸は、遷昭丸の操舵室などに遮られ、同船の船首方に延びているはえ縄漁具と右舷側船首部で揚縄作業を行っていた乗組員を視認することができず、また、同船が何らかの漁業を行っていると分かったとしても、漁ろう中の船舶として識別することは困難であったと認められる。
 したがって、遷昭丸が実態的に漁ろうに従事していたとしても、政吉丸からは、そのことを認識できない状況であるから、海上衝突予防法第18条の各種船舶間の航法を適用するのは相当でない。
 つぎに、遷昭丸は、南北方向に流している約400メートルの幹縄を、3時間ばかりかけて北方に向かって揚げていたことから、1分間に平均約2メートルの速度で巻き上げながら移動していることになり、北上中の政吉丸が、遷昭丸を2分前に視認したとすると、衝突するまでの同船の移動距離は4メートルばかりと推測され、同船をほとんど動きのない、漂泊中の船舶として認識することになる。
 以上のことから、本件は、船員の常務によって律するのが相当であり、政吉丸は、遷昭丸を漂泊中の漁船と認めることができる状況なので、同船を避航するべきであり、一方、遷昭丸は、漂泊して揚縄中であったが、C受審人が、「政吉丸の接近模様が分かっていれば、ナイフで幹縄を切るなり、機関を操作して少しは移動することができた。」と供述していることから、衝突を避けるための措置をとることができたと認められる。 

(原因)
 本件衝突は、三重県桃頭島北東方沖合において、政吉丸が、漁場から帰港中、居眠り運航の防止措置が不十分で、漂泊中の遷昭丸を避けなかったことによって発生したが、鼓形形象物を表示せずに揚縄中の遷昭丸が、見張り不十分で、衝突を避けるための措置をとらなかったことも一因をなすものである。
 政吉丸の運航が適切でなかったのは、船長が、船橋当直者に対し、眠気を催したときは報告するよう指示しなかったことと、同当直者が、居眠り運航の防止措置をとらなかったこととによるものである。
 
(受審人等の所為)
 A受審人は、鵜殿港南東方沖合での操業を終えて漁場を発進し、甲板員に単独の船橋当直を行わせる場合、連日の操業で睡眠不足気味であることを知っていたのだから、眠気を催した際、直ちに報告するよう厳重に指示すべき注意義務があった。しかし、同受審人は、普段と同じ操業模様なので、甲板員がまさか居眠りに陥ることはないと思い、眠気を催した際、直ちに報告するよう厳重に指示しなかった職務上の過失により、甲板員が居眠り運航に陥り、遷昭丸を避けることができないまま進行して同船との衝突を招き、政吉丸の右舷側船首部外板にペイントはく離を、遷昭丸の左舷側中央部を大破させて右舷側船首部に破損を生じさせ、C受審人の腰部に打撲傷を負わせるに至った。
 以上のA受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。
 C受審人は、三重県桃頭島北東方沖合において、漂泊して揚縄作業を行う場合、左舷後方から接近する他船を見落とさないよう、周囲の見張りを十分に行うべき注意義務があった。しかし、同受審人は、揚縄作業に気を奪われ、周囲の見張りを十分に行わなかった職務上の過失により、向首接近する政吉丸に気付かずに漂泊を続けて衝突を招き、前示の損傷及び負傷を生じさせるに至った。
 以上のC受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。
 B指定海難関係人が、単独で船橋当直について漁場から長島港に向け北上中、眠気を催した際、居眠り運航の防止措置をとらないで居眠りに陥ったことは、本件発生の原因となる。
 B指定海難関係人に対しては勧告しない。

 よって主文のとおり裁決する。


参考図
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