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平成15年横審第57号
件名

貨物船第十一とよふじ丸・漁船大弘丸漁船大弘丸漁具衝突事件
二審請求者〔理事官 松浦数雄〕

事件区分
衝突事件
言渡年月日
平成15年11月28日

審判庁区分
横浜地方海難審判庁(稲木秀邦、大本直宏、黒田 均)

理事官
松浦数雄

受審人
A 職名:第十一とよふじ丸船長 海技免許:一級海技士(航海)
B 職名:第十一とよふじ丸一等航海士 海技免許:二級海技士(航海)
C 職名:大弘丸船長 操縦免許:小型船舶操縦士
指定海難関係人
D 職名:大弘丸船舶所有者
E 業種名:水産業

損害
とよふじ丸・・・船首部に擦過傷
大弘丸・・・漁網を全損
基凱丸・・・引き綱に逆引きされて転覆、船長が海中転落したが救助された

原因
とよふじ丸・・・船員の常務(避航動作)不遵守(主因)
大弘丸・・・警告信号不履行(一因)

主文

 本件漁具衝突は、第十一とよふじ丸が二そう引き網で操業中の主船の大弘丸と従船の大弘丸の存在する密集した漁船群を大幅に迂回しなかったことによって発生したが、従船の大弘丸が、汽笛不装備で、警告信号を行わなかったことも一因をなすものである。
 受審人Aを戒告する。
 受審人Bを戒告する。
 受審人Cを戒告する。
 
理由

(事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
 平成14年4月25日06時30分
 三河湾
 
2 船舶の要目
船種船名 貨物船第十一とよふじ丸  
総トン数 4,010トン  
全長 124.64メートル  
機関の種類 ディーゼル機関  
出力 3,736キロワット  
船種船名 漁船大弘丸 漁船大弘丸
総トン数 13.0トン 9.7トン
登録長 16.70メートル 14.35メートル
機関の種類 ディーゼル機関 ディーゼル機関
漁船法馬力数 160 120

3 事実の経過
 第十一とよふじ丸(以下「とよふじ丸」という。)は、船首船橋型の鋼製貨物船で、A、B両受審人ほか9人が乗り組み、車両383台を積載し、船首4.66メートル船尾5.90メートルの喫水をもって、平成14年4月24日18時30分京浜港横浜区を発し、愛知県三河港に向かった。
 ところで、伊勢湾及び三河湾では、毎年3月から5月にかけて、二そう引きによるいかなご船びき網漁業が、多数の船団により密集する状態で行われている状況であった。
 A受審人は、船橋当直をB受審人、二等航海士及び三等航海士にそれぞれ甲板部員を加えて、4時間3交替2人体制とし、自らは出入港時、狭水道通過時、視界制限時及び船舶輻輳海域通航時に昇橋して操船指揮を執ることとしていた。
 翌25日05時15分A受審人は、伊良湖水道航路の南入口付近で昇橋して操船指揮を執り、船橋当直中のB受審人に補佐させながら同航路を北上したあと、06時05分同人に同当直を任せることとしたが、伊勢湾及び三河湾は、漁船の多い海域であると認識していたものの、任せておいても大丈夫と思い、船橋当直者に対し、漁船群に出会うときは、報告するよう指示せず降橋した。
 船橋当直に就いたB受審人は、06時14分トーノ瀬灯浮標を右舷正横近くに並航し、立馬埼灯台から242度(真方位、以下同じ。)2.9海里の地点で、針路を035度に定め、機関を全速力前進より少し減じた15.0ノットの速力(対地速力、以下同じ。)で、甲板員を手動操舵に当たらせ進行した。
 定針したときB受審人は、3海里レンジとしたレーダーにオフセンターを利かせ、右舷船首方3ないし5海里ばかりのところに、70隻ばかりの漁船群の映像を探知し、同映像が転針後の予定針路線上付近となることを知ったが、A受審人に密集した漁船群に出会うことを報告しないまま船橋当直を続けた。
 06時22分B受審人は、立馬埼灯台から285度1.4海里の地点に達し、転針予定地点に至ったが、漁船群のレーダー映像が徐々に南北に二分して瓢箪(ひょうたん)形となり、北側で幅約1.6海里、奥行き約0.6海里の範囲に約40隻、南側で幅約0.8海里、奥行き約1.0海里の範囲に約30隻の漁船群に分断したのを認め、分断して少し空いている漁船群の中央をなんとか航過できると思い、北側漁船群の北側に1海里ばかりの可航水域があったから、同じ針路を維持するなど、密集した漁船群を大幅に迂回することなく、予定針路の066度に転じて続航した。
 06時25分B受審人は、立馬埼灯台から316度0.9海里の地点に達したとき、右舷船首2度1.3海里のところに、南東方に向首した主船の大弘丸(以下「廣太郎丸」という。)と、左舷船首8度1.3海里のところに、運搬船の大弘丸(以下「久二丸」という。)を初めて視認したが、廣太郎丸の南西側130メートルで、右舷船首2度1.2海里のところにいた従船の大弘丸(以下「基凱丸」という。)が廣太郎丸とともに二そう引き網で操業中の船団(以下「大弘丸船団」という。)を構成していることに気付かずに進行した。
 06時27分B受審人は、立馬埼灯台から349度0.9海里の地点に至り、廣太郎丸が右舷船首4度0.8海里となったとき、大弘丸船団が曳いている漁具に向首進行していたが、久二丸の南A方100メートルばかりに、大弘丸船団が曳いている漁具の存在を示す大型オレンジ色浮標(以下「大ボンデン」という。)を認め、廣太郎丸と久二丸との間に400メートルばかりの間隔があったので、互いに単独で操業中の漁船と見込み、その間を航過することとし同じ針路で続航した。
 06時30分少し前B受審人は、大ボンデンを左に見て替わすつもりで進行中、06時30分立馬埼灯台から023度1.3海里の地点において、とよふじ丸は、原針路原速力のまま、その船首部が基凱丸の右舷船尾5度210メートルのところの漁具に後方から84度の角度で衝突した。
 当時、天候は曇で風力4の北西風が吹き、潮候は上げ潮の初期で、視界は良好であった。
 B受審人は、漁具を乗り切ったことを知らないまま進行し、追走してきた漁船に対して汽笛を吹鳴したところ、その汽笛を聞いたA受審人が昇橋し、漁船から漁具衝突の知らせを受けて事後の措置に当たった。
 また、基凱丸及び廣太郎丸は、いずれも船尾甲板上に巻揚ローラーを装備し、二そう引き網漁業に従事するFRP製漁船で、船首0.3メートル船尾1.5メートルの喫水の基凱丸にC受審人(昭和50年2月21日一級小型船舶操縦士免状取得)が、船首0.3メートル船尾1.5メートルの喫水の廣太郎丸にD指定海難関係人がそれぞれ単独で乗り組み、いかなご漁の目的で、両船のほか久二丸とともに、同月25日04時00分愛知県日間賀島漁港を発し、立馬埼北方沖合の漁場に向かった。
 D指定海難関係人は、基凱丸の船舶所有者で平成2年に同船の動力漁船登録を行い、同船の全長が12メートル以上であったが、汽笛を装備せずに使用させていた。
 指定海難関係人E(以下「E」という。)は、昭和24年10月20日設立され、所属する大弘丸船団を含め、全長12メートル以上の漁船を所有する組合員に対して、汽笛を装備するよう指導していなかった。
 C受審人は、25日05時ごろ漁場到着後、鼓型形象物を船橋上のマストと船尾マストとの間に掲げ、自船の左舷正横約130メートルのところに、鼓型形象物を表示した廣太郎丸と二そう引きで漁具を曳き、両船の後方に久二丸が位置して操業を開始した。
 ところで、大弘丸船団の漁網は、直径28ミリメートル、長さ80メートルの化学繊維製引き綱に連結された、長さ約180メートルの手網と長さ約120メートルの袋網からなり、袋網の網口付近には直径約1.2メートル、長さ約1.5メートルの大ボンデンを、袋網の末端には直径約0.5メートル、長さ約0.6メートルの小型オレンジ色浮標をそれぞれロープで取り付け、曳網時には、両船の船尾から漁網の最後部まで約380メートルに達していた。
 06時25分C受審人は、廣太郎丸との船間距離を保ちつつ、立馬埼灯台から024度1.2海里の地点で、網口を広げるため針路を155度に定め、廣太郎丸が針路を145度とし、大弘丸船団の針路は150度となって、機関を1.0ノットの前進にかけ、手動操舵によって進行した。
 定針したとき、C受審人は、右舷船尾88度1.2海里のところに、東行するとよふじ丸を初めて視認し、その動静監視をしたところ、06時27分立馬埼灯台から025度1.2海里の地点に達したとき、とよふじ丸が大弘丸船団の曳いている漁具に0.8海里に近づき、その後同船が漁具に向首したまま接近するのを認めたが、汽笛を装備していなかったので同船に対して警告信号を行うことができず、大弘丸船団は、原針路原速力のまま、前示のとおり衝突した。
 衝突の結果、とよふじ丸は、船首部に擦過傷を生じただけであったが、大弘丸船団の漁網を全損し、基凱丸は、引き綱に逆引きされて転覆し、のち日間賀島漁港に引きつけられ修理され、また、転覆の際に海中転落したC受審人は久二丸に救助された。

(航法の適用)
 本件漁具衝突は、海上交通安全法が適用されない三河湾内で起きたもので、海上衝突予防法(以下、「予防法」という。)の適用について検討する。
 大弘丸船団が法定の形象物を表示して二そう引き網で操業中であることから、予防法第18条第1項の規定である各種船舶間の航法が考えられるが、とよふじ丸は、二そう引き船団が密集する漁船群の二分したなかにいて、大弘丸船団の周囲に衝突を回避できる海域がなく、本件は、2船間の航法を定めた同条を適用できない。
 したがって、本件は、他に適用する航法規定がないので、予防法第38条及び同法第39条を適用し、船員の常務をもって律するのが相当である。

(原因の考察)
 東行中のとよふじ丸が、予定針路線上に密集した漁船群を3海里ばかりで認め、船首方の廣太郎丸と久二丸との間に400メートルばかりの間隔があったので、互いに単独で操業中の漁船と見込み、その間を航過するつもりで同じ針路で進行し衝突したもので、大弘丸船団の存在する密集した漁船群を大幅に迂回しなかったことは、本件発生の原因となる。
 一方、南下中の基凱丸が、二そう引き網で操業し、曳いている漁具に向首するとよふじ丸を右舷船尾88度1.2海里で初認し、衝突を避けるために十分な動作をとらずに接近していることを認めたが、汽笛不装備で、警告信号を行えなかったことは、本件発生の原因となる。
 両原因のうち本件は、海上交通ルールの原則で、操縦性能の優れている船舶が、操縦性能の劣っている船舶の進路を避けることになり、操縦性能の優れているとよふじ丸の原因を主因とし、法定の形象物を表示し操業中の基凱丸が、相手船に避航を促すため信号を行っていれば、漁具衝突を回避できる可能性が残されているので、同船の警告信号を行わなかった点を一因として律したものである。
 大弘丸船団各船の全長が12メートル以上で、予防法第33条の規定により、汽笛を装備する必要がありながら、総トン数20トン未満で本邦12海里以内において従業する漁船は、船舶安全法第32条の「施設強制の規定の不適用」規定により、同法第2条の「船舶の所用施設」の適用がなかったことから、汽笛を装備しなかったものと推定できる。
 したがって、D指定海難関係人が、基凱丸の所有者として同船に汽笛を装備しなかったことと、Eが、全長が12メートル以上の漁船を所有する組合員に対して汽笛を装備するよう指導していなかったことは、原因として摘示しなかったものの、同種海難を防止する見地から、予防法第33条及び同法第34条の規定により、早期に汽笛を装備して、所定の警告信号が行える条件を満たすことが望ましい。 

(原因)
 本件漁具衝突は、三河湾において、東行中のとよふじ丸が、二そう引き網で操業中の大弘丸船団の存在する密集した漁船群を大幅に迂回しなかったことによって発生したが、基凱丸が、汽笛不装備で、警告信号を行わなかったことも一因をなすものである。
 とよふじ丸の運航が適切でなかったのは、船長が、船橋当直者に対し、漁船群と出会うときは、報告するよう指示しなかったことと、同当直者が、船長に対し、密集した漁船群と出会うことを報告しなかったうえ、同漁船群を大幅に迂回しなかったこととによるものである。
 
(受審人等の所為)
 A受審人は、操船指揮を執って伊良湖水道を航過したあと、部下に船橋当直を任せる場合、船橋当直者に対し、漁船群と出会うときは、報告するよう指示すべき注意義務があった。しかるに、同人は、任せておいても大丈夫と思い、漁船群と出会うときは、報告するよう指示しなかった職務上の過失により、密集した漁船群が予定針路線上に存在する旨の報告を得られず、船橋当直者が大弘丸船団の存在する同漁船群を大幅に迂回せずに進行して、同船団が曳く漁具との衝突を招き、とよふじ丸の船首部に擦過傷を生じさせ、大弘丸船団の漁網を全損及び基凱丸を転覆させるに至った。
 以上のA受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。
 B受審人は、三河湾を東行中、転針後の予定針路線上に二そう引き網で操業中の大弘丸船団の存在する密集した漁船群を認め、転針予定地点に至った場合、同漁船群の北側に1海里ばかりの可航水域があったから、同じ針路を維持するなど、同漁船群を大幅に迂回すべき注意義務があった。しかるに、同人は、分断して少し空いている漁船群の中央をなんとか航過できると思い、大幅に迂回しなかった職務上の過失により、分断して少し空いている漁船群の中央に向けて転針し、同船団が曳く漁具との衝突を招き、前示の損傷及び転覆を生じさせるに至った。
 以上のB受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。
 C受審人は、三河湾において、僚船とともに二そう引き網で操業中、とよふじ丸が漁具に向首したまま接近するのを認めた場合、汽笛を装備して警告信号を行うべき注意義務があった。しかるに、同人は、汽笛不装備で警告信号を行えず、とよふじ丸と大弘丸船団が曳いている漁具との衝突を招き、前示の損傷及び転覆を生じさせるに至った。
 以上のC受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。
 D指定海難関係人の所為は、本件発生の原因とならない。
 Eの所為は、本件発生の原因とならない。

 よって主文のとおり裁決する。


参考図
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