日本財団 図書館




 海難審判庁採決録 >  2003年度(平成15年) > 衝突事件一覧 >  事件





平成15年横審第68号
件名

貨物船宝国丸漁船鳥春丸衝突事件

事件区分
衝突事件
言渡年月日
平成15年11月18日

審判庁区分
横浜地方海難審判庁(黒田 均、阿部能正、吉川 進)

理事官
織戸孝治

受審人
A 職名:宝国丸船長 海技免許:三級海技士(航海)
B 職名:鳥春丸船長 操縦免許:小型船舶操縦士 

損害
宝国丸・・・左舷船首部外板に擦過傷
鳥春丸・・・船首部を圧壊

原因
鳥春丸・・・見張り不十分、横切りの航法(避航動作)不遵守(主因)
宝国丸・・・警告信号不履行、横切りの航法(協力動作)不遵守(一因)

主文

 本件衝突は、鳥春丸が、見張り不十分で、前路を左方に横切る宝国丸の進路を避けなかったことによって発生したが、宝国丸が、警告信号を行わず、衝突を避けるための協力動作をとらなかったことも一因をなすものである。
 受審人Bを戒告する。
 受審人Aを戒告する。
 
理由

(事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
 平成14年6月3日14時30分
 東京湾北部
 
2 船舶の要目
船種船名 貨物船宝国丸 漁船鳥春丸
総トン数 199トン 9.1トン
全長 58.30メートル 17.60メートル
機関の種類 ディーゼル機関 ディーゼル機関
出力 588キロワット 77キロワット

3 事実の経過
 宝国丸は、船尾船橋型鋼製貨物船で、A受審人ほか2人が乗り組み、板ガラス299.7トンを積載し、船首2.2メートル船尾3.6メートルの喫水をもって、平成14年6月3日13時40分千葉県千葉港を発し、京都府舞鶴港に向かった。
 A受審人は、乗組員を荷役の後片付けに当たらせ、自らは発航操船に引き続き1人で操船に当たって椎津航路を北上し、13時52分袖ケ浦東京ガスシーバース灯から052度(真方位、以下同じ。)1.5海里の地点において、針路を東京湾東水路中央第3号灯浮標北方に向く273度に定め、機関を全速力前進にかけ9.5ノットの速力(対地速力、以下同じ。)とし、操舵スタンド後方に立ち、手動操舵により進行した。
 14時25分A受審人は、東京湾アクアライン海ほたる灯(以下「海ほたる灯」という。)から019度2.0海里の地点に達したとき、東京湾東水路中央第2号灯浮標の手前で、左舷船首27度1.2海里のところに、北上中の鳥春丸を初めて視認し、その後同船が前路を右方に横切り衝突のおそれがある態勢で接近していることを認めた。
 A受審人は、鳥春丸の操舵室に人影を認めなかったものの、警告信号を行わず、その後同船が自船の進路を避けないまま間近に接近したが、まだ時間的に余裕があるものと思い、右転するなど衝突を避けるための協力動作をとることなく続航中、14時30分わずか前ようやく衝突の危険を感じ、汽笛を吹鳴して機関を微速力前進とし、右舵一杯としたが及ばず、14時30分海ほたる灯から356度1.9海里の地点において、宝国丸は、301度に向首したとき、ほぼ原速力のまま、その左舷船首部に、鳥春丸の船首部が、直角に衝突した。
 当時、天候は晴で風力2の南東風が吹き、潮候は下げ潮の中央期であった。
 また、鳥春丸は、船体中央部に操舵室を備えたFRP製漁船で、B受審人(昭和49年9月27日一級小型船舶操縦士免状を取得)が1人で乗り組み、船首0.2メートル船尾1.8メートルの喫水をもって、底びき網漁の目的で、同日04時00分千葉港葛南区の係留地を発し、東京湾アクアライン付近の漁場で操業を繰り返し、約45キログラムの漁獲を得たのち、14時00分操業を切りあげ帰途についた。
 14時10分B受審人は、海ほたる灯から262度1.4海里の地点において、針路を031度に定め、機関を全速力前進にかけ7.5ノットの速力とし、付近に他船を見かけなかったので、後部甲板に赴き、同所から長さ約9メートルの漁網を海中に入れ、これを洗う作業を行いながら、近くの操舵スタンドで手動操舵により進行した。
 14時20分B受審人は、いったん操舵室に戻って周囲をいちべつし、危険な関係となる他船を認めず、前示作業を再開したところ、同時25分海ほたる灯から342度1.4海里の地点に達したとき、右舷船首35度1.2海里のところに、西行中の宝国丸を視認することができる状況であったが、同作業に気を取られ、周囲の見張りを十分に行わなかったので、同船の存在に気付かなかった。
 B受審人は、その後、宝国丸が前路を左方に横切り衝突のおそれがある態勢で接近したが、右転するなど同船の進路を避けずに続航し、14時30分わずか前漁網を洗う作業を終えて操舵室に戻ろうとしたとき、右舷至近に迫った宝国丸を初めて認め、機関のクラッチを後進に入れた直後、鳥春丸は、原針路原速力のまま、前示のとおり衝突した。
 衝突の結果、宝国丸は、左舷船首部外板に擦過傷を生じただけであったが、鳥春丸は、船首部を圧壊し、のち修理された。 

(原因)
 本件衝突は、東京湾北部において、両船が互いに進路を横切り衝突のおそれがある態勢で接近中、北上する鳥春丸が、見張り不十分で、前路を左方に横切る宝国丸の進路を避けなかったことによって発生したが、西行する宝国丸が、警告信号を行わず、衝突を避けるための協力動作をとらなかったことも一因をなすものである。
 
(受審人の所為)
 B受審人は、東京湾北部において、千葉港葛南区の係留地に向け北上する場合、宝国丸を見落とさないよう、周囲の見張りを十分に行うべき注意義務があった。しかるに、同人は、漁網を洗う作業に気を取られ、周囲の見張りを十分に行わなかった職務上の過失により、前路を左方に横切り衝突のおそれがある態勢で接近する宝国丸に気付かず、右転するなど同船の進路を避けないまま進行して衝突を招き、宝国丸の左舷船首部外板に擦過傷を生じさせ、鳥春丸の船首部を圧壊させるに至った。
 以上のB受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。
 A受審人は、東京湾北部を西行中、左舷船首方に鳥春丸を視認し、同船が前路を右方に横切り衝突のおそれがある態勢のまま、間近に接近した場合、右転するなど衝突を避けるための協力動作をとるべき注意義務があった。しかるに、同人は、まだ時間的に余裕があるものと思い、衝突を避けるための協力動作をとらなかった職務上の過失により、鳥春丸との衝突を招き、前示の損傷を生じさせるに至った。
 以上のA受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。

 よって主文のとおり裁決する。


参考図
(拡大画面:13KB)





日本財団図書館は、日本財団が運営しています。

  • 日本財団 THE NIPPON FOUNDATION