(事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
平成14年6月5日15時40分
千葉県房総半島南方沖合
2 船舶の要目
船種船名 |
漁船八千代丸 |
貨物船ソンジュ リッチ |
総トン数 |
8.5トン |
5,773トン |
全長 |
16.80メートル |
104.12メートル |
機関の種類 |
ディーゼル機関 |
ディーゼル機関 |
出力 |
316キロワット |
2,353キロワット |
3 事実の経過
八千代丸は、引き縄漁に従事するFRP製漁船で、A受審人(平成6年4月26日一級小型船舶操縦士免状を取得)が1人で乗り組み、友人1人を同乗させ、船首0.5メートル船尾1.5メートルの喫水をもって、帰航の目的で、平成14年6月5日13時00分伊豆諸島新島の若郷漁港を発し、千葉県勝浦港に向かった。
A受審人は、レーダーなど航海計器を設備した操舵室において、前部の操舵位置からでは船首方に死角を生じていたことから、一段高くなった後部のいすに腰掛け、1人で見張りを行いながら房総半島に接近し、15時25分野島埼灯台から192度(真方位、以下同じ。)5.9海里の地点において、陸岸から3海里離れるよう針路を052度に定め、機関を全速力前進にかけ18.6ノットの速力(対地速力、以下同じ。)とし、自動操舵により進行した。
定針したのちA受審人は、陸岸に近づいたことから、操舵室前部に赴き、航海計器の調整や僚船との無線連絡を始めたところ、15時37分野島埼灯台から154度3.9海里の地点に達したとき、右舷船首3度1.4海里のところに、南下中のソンジュ
リッチ(以下「ソ号」という。)を視認することができる状況であったが、それまで付近に他船を見かけなかったことから、危険な関係の船舶はいないものと思い、船首方の見張りを十分に行わず、その存在に気付かないで続航した。
A受審人は、その後ソ号が前路を左方に横切り衝突のおそれがある態勢で接近したが、右転するなど同船の進路を避けずに進行し、15時40分少し前ふと船首方を見たとき、船首至近に迫ったソ号の船体を初めて視認し、右舵一杯とし機関のクラッチを中立としたが及ばず、15時40分野島埼灯台から140度3.7海里の地点において、八千代丸は、060度に向首したとき、ほぼ原速力のまま、その左舷船首部が、ソ号の左舷船首部に、平行に衝突した。
当時、天候は晴で風力4の北東風が吹き、視界は良好で、潮候は下げ潮の中央期であった。
また、ソ号は、船尾船橋型鋼製貨物船で、船長B及び二等航海士Cほか大韓民国人6人とミャンマー連邦人6人が乗り組み、鋼材5,034.337トンを積載し、船首5.26メートル船尾6.72メートルの喫水をもって、同日05時50分茨城県鹿島港を発し、大韓民国光陽港に向かった。
C二等航海士は、4時間3直制の航海当直のうち0時から4時までを受け持つこととしており、同日12時00分勝浦灯台東方沖合で同当直に就いて房総半島沿いに西進し、15時00分野島埼灯台から088度7.4海里の地点において、針路を236度に定め、機関を全速力前進にかけ9.0ノットの速力とし、甲板手を補佐に就けて自動操舵により進行した。
15時35分C二等航海士は、野島埼灯台から129度4.0海里の地点に達したとき、左舷船首1度2.3海里のところに、北上中の八千代丸を初めて視認し、同船と左舷を対して航過するつもりで、針路を240度に転じて続航した。
15時37分C二等航海士は、野島埼灯台から133度3.9海里の地点に達したとき、八千代丸が左舷船首5度1.4海里に接近し、その後同船が前路を右方に横切り衝突のおそれがある態勢で接近していることを知ったが、至近になれば避けるものと判断し、警告信号を行わず、間近になっても衝突を避けるための協力動作をとらなかった。
15時40分少し前C二等航海士は、八千代丸が船首至近に迫り、ようやく衝突の危険を感じて右舵一杯を令した直後、ソ号は、原針路原速力のまま、前示のとおり衝突した。
衝突の結果、八千代丸は、左舷船首部外板に亀裂を伴う損傷を生じたが、のち修理され、ソ号は、左舷船首部外板に擦過傷を生じた。
(原因)
本件衝突は、千葉県房総半島南方沖合において、両船が互いに進路を横切り衝突のおそれがある態勢で接近中、北上する八千代丸が、見張り不十分で、前路を左方に横切るソ号の進路を避けなかったことによって発生したが、南下するソ号が、警告信号を行わず、衝突を避けるための協力動作をとらなかったことも一因をなすものである。
(受審人の所為)
A受審人は、1人で操舵と見張りに当たり、千葉県房総半島南方沖合を北上する場合、南下するソ号を見落とさないよう、船首方の見張りを十分に行うべき注意義務があった。しかるに、同人は、付近に他船を見かけなかったことから、危険な関係の船舶はいないものと思い、船首方の見張りを十分に行わなかった職務上の過失により、ソ号の存在と接近に気付かず、右転するなど前路を左方に横切る同船の進路を避けることなく進行して衝突を招き、八千代丸の左舷船首部外板に亀裂を伴う損傷を、ソ号の左舷船首部外板に擦過傷をそれぞれ生じさせるに至った。
以上のA受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。