(事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
平成15年5月13日21時15分
新潟県直江津港
2 船舶の要目
船種船名 |
プレジャーボートバージニア |
登録長 |
6.84メートル |
機関の種類 |
ディーゼル機関 |
出力 |
102キロワット |
3 事実の経過
バージニアは、レーダーを装備しないFRP製モーターボートで、昭和50年7月取得の一級小型船舶操縦士免許を有するA受審人が1人で乗り組み、友人1人を乗せ、釣りの目的で、船首0.40メートル船尾0.50メートルの喫水をもって、平成15年5月13日16時00分新潟県直江津港に流入する保倉川河口付近左岸にあるマリーナを発し、同港北方沖合の釣り場に向った。
ところで、直江津港には、保倉川河口右岸から北東方へ約3キロメートルまで延びる西防波堤と、その先端付近から約100メートル隔てた北側に全長約1.4キロメートルの沖防波堤が同方向に延びており、両防波堤は200メートルばかり平行し、各北端には直江津港西防波堤灯台(以下、灯台の名称中、直江津港を省略する。)と沖防波堤北灯台がそれぞれ設置されていたが、同年4月1日から沖防波堤をさらに1.4キロメートル延長する工事が着手されて沖防波堤北灯台が一時撤去され、同防波堤の南端付近から延長地点間の南側と北側の約180メートルの範囲が航泊禁止区域に指定され、同区域の境界線には南側が赤色、北側が黄色の4秒一閃の標識灯が約430メートルの間隔で各側に7個設けられていた。
また、沖防波堤延長工事に関する情報は、海上保安庁の水路通報や新潟県直江津港湾事務所等の工事に関するパンフレットなどにより関係先に広報されていた。
A受審人は、永年にわたって直江津港における釣りを経験していたが、そのほとんどは西防波堤の西方水域で、今回の釣り場である西防波堤の北方水域は航行経験がなかったところ、同水域に好ポイントがあることを聞いて釣りに出かけることにしたもので、発航に先立ち、航行水域に関し、海上保安庁の水路通報を調べるとか、マリーナを介してパンフレットを入手するなどして水路調査を行わなかったので、沖防波堤において延長工事が行われていることを知らず、また、同防波堤の存在についても漠然と知っていたものの、ほとんど関心を持っていなかった。
発航後A受審人は、沖防波堤の1海里ばかり西側を北上し、17時ころ目的地に至り、錨泊して釣りを試みたが釣果がなかったので、西防波堤西方のいつもの釣り場に移動することとし、21時00分西防波堤灯台から015度(真方位、以下同じ。)4.5海里の地点を発進し、針路を195度に定め、機関を全速力前進にかけ、19.0ノットの速力で手動操舵により進行した。
A受審人は、椅子に腰掛けた姿勢で操船にあたり、右舷前方の西防波堤灯台の灯光を注視しながら続航し、21時10分少し過ぎ同灯台から053度2.0海里のところで、針路を同灯台に向首する233度に転じ、同時14分同灯台まで約1.5キロメートルに接近したとき、これを回り込んで西側へ出るため270度に転針したが、前路の標識灯群に注意を払わず、沖防波堤の存在も念頭に浮かばないまま進行した。
21時15分わずか前A受審人は、眼前に迫った黒い影を認めて防波堤であることに気付き、急いで左舵をとったが及ばず、21時15分西防波堤灯台から035度1,140メートルの地点において、バージニアの右舷船首が、ほぼ原針路、原速力のまま、沖防波堤内側に60度の角度で衝突した。
当時、天候は晴で風はほとんどなく、潮候は上げ潮の中央期であった。
衝突の結果、バージニアは、右舷船首部を圧壊し、船尾外板に生じた亀裂部から浸水して沈没し、のち引き揚げられたが廃船処理された。
(原因)
本件防波堤衝突は、新潟県直江津港において、夜釣りを行うため出航するにあたり、水路調査が不十分で、出航して夜間釣り場を移動中、延長工事のため灯台が一時撤去されていた沖防波堤に向首したまま進行したことによって発生したものである。
(受審人の所為)
A受審人は、新潟県直江津港において、夜釣りを行うため出航する場合、目的地がこれまで航行経験のない水域であったから、発航に先立ち、航行水域に関し、海上保安庁の水路通報を調べるとか、マリーナを介してパンフレットを入手するなどして水路調査を行うべき注意義務があった。しかるに同人は、あらかじめ水路調査を行わなかった職務上の過失により、沖防波堤において延長工事が行われていることに気付かないまま出航し、夜間釣り場を移動中、灯台が一時撤去されていた同防波堤に向首進行して衝突を招き、バージニアを損傷させて浸水により沈没に至らせた。
以上のA受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。