日本財団 図書館




 海難審判庁採決録 >  2003年度(平成15年) > 衝突事件一覧 >  事件





平成15年仙審第31号
件名

漁船汐風プレジャーボートコウヨン21衝突事件(簡易)
二審請求者〔理事官 阿部房雄〕

事件区分
衝突事件
言渡年月日
平成15年11月5日

審判庁区分
仙台地方海難審判庁(勝又三郎)

理事官
阿部房雄

受審人
A 職名:汐風船長 操縦免許:小型船舶操縦士
B 職名:コウヨン21船長 操縦免許:小型船舶操縦士

損害
汐 風・・・右舷側後部ブルワークを圧壊、操舵室オーニング及び魚群探知器を損傷
船長が右足骨折で2箇月の加療を要する負傷
コウヨン・・・船首部船底に擦過傷及び船首ハンドレールに曲損、船内外機のスターンドライブを損傷

原因
汐 風・・・狭視界時の航法(信号、レーダー、速力)不遵守
コウヨン・・・狭視界時の航法(信号、レーダー、速力)不遵守

裁決主文

 本件衝突は、汐風が、視界制限状態における運航が適切でなかったことと、コウヨン21が、視界制限状態における運航が適切でなかったこととによって発生したものである。
 受審人Aを戒告する。
 受審人Bを戒告する。
 
裁決理由の要旨

(事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
 平成15年6月22日08時45分
 新潟県小木港南西方沖合
 
2 船舶の要目
船種船名 漁船汐風 プレジャーボートコウヨン21
総トン数 1.4トン  
全長 7.41メートル 9.25メートル
機関の種類 ディーゼル機関 ディーゼル機関
出力 54キロワット 132キロワット

3 事実の経過
 汐風は、圧縮ガスで吹鳴する簡易ホーンを所持し、レーダーを備えていない、一本釣漁業に従事するFRP製小型遊漁兼用船で、平成元年10月に取得した四級小型船舶操縦士免許を有するA受審人が1人で乗り組み、操業の目的で、船首0.3メートル船尾0.7メートルの喫水をもって、同15年6月22日04時00分霧のため視程が50メートルに制限された状況下、新潟県真野漁港を発し、途中真野湾内の陸岸沿いの数箇所で釣りを行い、07時47分ごろ同県小木港南西方沖合の漁場に至り、漂泊して操業を開始した。
 操業中のA受審人は、いつものように太陽が昇れば次第に霧が晴れてくるから大丈夫と思い、有効な音響による視界制限時の信号を行わず、操舵室後方のいすに腰掛けて左舷側から釣竿を出し、折からの潮流に乗じ機関を適宜使用しながら釣りに適した速力に調整し、潮下に至ってから潮上に上り、これを繰返して釣りを続けた。
 08時44分A受審人は、小木港琴浦沖防波堤灯台(以下「琴浦沖防波堤灯台」という。)から227度(真方位、以下同じ。)1.9海里の潮上の地点で、船首を潮下に向く270度とし、機関のクラッチを中立として釣りを行っていたところ、右舷船尾70度500メートルのところにコウヨン21(以下「コウヨン」という。)が存在して釣場を移動し始め、同船と著しく接近することを避けることができない状況になっていたものの、同船に気付くすべもないまま、依然有効な音響による視界制限時の信号を行わず、左舷側に出した釣竿を見続けて釣りを行った。
 08時45分わずか前A受審人は、右舷後方を振り返って見たところ、自船に向首して南下中のコウヨンを至近に初めて視認し、何もすることもできずに、衝突の危険を感じて左舷側に飛び込んだ直後、08時45分琴浦沖防波堤灯台から227度1.9海里の地点において、汐風は、270度を向いてほぼ停止したまま、その右舷後部に、コウヨンの船首が後方から70度の角度で衝突した。
 当時、天候は霧で風力2の南南西風が吹き、視程は50メートルで、佐渡地方に濃霧注意報が発令され、付近海域には微弱な西流があった。
 また、コウヨンは、レーダーを装備したFRP製プレジャーボートで、平成11年4月に取得した一級小型船舶操縦士免許を有するB受審人が1人で乗り組み、釣りを行う目的で、船首0.1メートル船尾1.2メートルの喫水をもって、同日04時40分新潟県羽茂港を発し、05時50分同港に隣接する小木港南西方2.5海里沖合の釣場に至って遊漁を開始した。
 これより先、B受審人は、発航時より霧のため視程が50メートルに制限されていたので、レーダーを見ながら羽茂港西防波堤を替わして航行していたものの、この程度の視程であれば前路に他船を視認してからでも十分替わせると思い、同西防波堤を航過してからその電源を切り、レーダーを作動させて見張りを十分に行わなかった。そして同人は、有効な音響による視界制限時の信号も行わないまま、釣場に至って遊漁を行い、その後釣果が少なかったので釣場の移動を繰返した。
 B受審人は、魚群探知器で魚影を探しながら北上し、08時30分琴浦沖防波堤灯台から231度1.7海里の三度目の釣場に達し、機関を止めて一本釣りを行ったが、ここでも釣果がなかったので釣場を変えることとし、同時44分前記地点を発進した。
 発進時、B受審人は、針路を200度に定め、機関を全速力前進にかけ、安全な速力にせず、16.0ノットの対地速力で手動操舵とし、魚群探知器を見ながら進行し、レーダーを作動させていなかったこともあって、前路の見張りが不十分となり、正船首500メートルのところで漂泊している汐風に気付かず、同船と著しく接近することを避けることができない状況であったが、行きあしを停止することなく続航した。
 08時45分わずか前B受審人は、前路を視認したところ、正船首至近に汐風を初めて視認し、何もする間もなく、原針路、原速力のまま、前示のとおり衝突し、これを乗り切った。
 衝突の結果、汐風は右舷側後部ブルワークを圧壊し、操舵室オーニング及び魚群探知器を損傷して漂流後、コウヨンの僚船により小木港に引き付けられ、コウヨンは船首部船底に擦過傷及び船首ハンドレールに曲損をそれぞれ生じ、衝突後しばらく航行したが船内外機のスターンドライブに損傷が生じて航行不能となり、のち僚船により羽茂港に引き付けられ、海中に飛び込んだA受審人はコウヨンに救助されたのち、同船の僚船により小木港に搬送され救急車で病院に至り、右足第2,3,4趾中足骨開放骨折で2箇月の加療を要する傷を負った。 

(原因)
 本件衝突は、霧のため視界制限状態となった新潟県小木港南西方沖合において、漂泊中の汐風が、有効な音響による視界制限時の信号を行わなかったことと、釣場を移動するコウヨンが、安全な速力とすることも、有効な音響による視界制限時の信号を行うこともしなかったばかりか、レーダーによる見張りが不十分で、汐風と著しく接近することを避けることができない状況となった際、行きあしを止めなかったこととによって発生したものである。
 
(受審人の所為)
 A受審人は、霧のため視界制限状態となった新潟県小木港南西方沖合において、漂泊して操業を行う場合、自船にレーダーを装備していなかったのであるから、備え付けの簡易ホーンにより視界制限時における信号を行うべき注意義務があった。しかるに同人は、いつものように太陽が昇れば次第に霧が晴れてくるので大丈夫と思い、簡易ホーンにより視界制限時における信号を行わなかった職務上の過失により、漂泊を続けてコウヨンとの衝突を招き、汐風の右舷側後部ブルワークを圧壊し、操舵室オーニング及び魚群探知器を損傷し、漂流後、コウヨンの僚船により小木港に引き付けられ、コウヨンの船首部船底に擦過傷及び船首ハンドレールに曲損をそれぞれ生じ、船内外機のスターンドライブに損傷が生じて航行不能となり、のち僚船により羽茂港に引き付けられ、海中に飛び込んだA受審人はコウヨンに救助されたのち、同船の僚船により小木港に至り、救急車で病院に搬送され、右足第2,3,4趾中足骨開放骨折で2箇月の加療を要する傷を負うに至った。
 以上のA受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。
 B受審人は、霧のため視界制限状態となった新潟県小木港南西方沖合において、魚群探知器を作動させながら釣場を移動する場合、レーダーを作動させて前路の見張りを十分に行うべき注意義務があった。しかるに同人は、この程度の視程であれば前路に他船を視認してからでも十分替わせると思い、レーダーを作動させて前路の見張りを十分に行わなかった職務上の過失により、レーダーを停止させたまま漂泊中の汐風に気付かずに進行して衝突を招き、前示の損傷及び負傷を生じさせるに至った。
 以上のB受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。


参考図
(拡大画面:18KB)





日本財団図書館は、日本財団が運営しています。

  • 日本財団 THE NIPPON FOUNDATION