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平成15年函審第38号
件名

貨物船第二十一益栄丸漁船第五十八幸栄丸衝突事件

事件区分
衝突事件
言渡年月日
平成15年11月21日

審判庁区分
函館地方海難審判庁(野村昌志、岸 良彬、古川隆一)

理事官
今泉豊光

受審人
A 職名:第五十八幸栄丸船長 操縦免許:小型船舶操縦士

損害
益栄丸・・・右舷後部外板に擦過傷及び同部ハンドレールに曲損
幸栄丸・・・左舷船首部を圧壊

原因
益栄丸・・・見張り不十分、横切りの航法(避航動作)不遵守(主因)
幸栄丸・・・見張り不十分、警告信号不履行、横切りの航法(協力動作)不遵守(一因)

主文

 本件衝突は、第二十一益栄丸が、見張り不十分で、前路を左方に横切る第五十八幸栄丸の進路を避けなかったことによって発生したが、第五十八幸栄丸が、見張り不十分で、警告信号を行わず、衝突を避けるための協力動作をとらなかったことも一因をなすものである。
 受審人Aを戒告する。
 
理由

(事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
 平成13年10月29日16時35分
 北海道チキウ岬南方沖合
 
2 船舶の要目
船種船名 貨物船第二十一益栄丸 漁船第五十八幸栄丸
総トン数 499トン 19.61トン
全長   22.00メートル
登録長 71.96メートル  
機関の種類 ディーゼル機関 ディーゼル機関
出力 735キロワット 558キロワット

3 事実の経過
 第二十一益栄丸(以下「益栄丸」という。)は、鋼製貨物船で、船長及び一等航海士B(昭和15年2月2日生、六級海技士(航海)免許取得、平成15年1月30日死亡)ほか3人が乗り組み、鋼材1,570.423トンを積載し、船首3.65メートル船尾4.45メートルの喫水をもって、平成13年10月29日14時00分北海道室蘭港を発し、京浜港東京区に向かった。
 15時45分B一等航海士は、チキウ岬灯台から180度(真方位、以下同じ。)5.4海里の地点で、昇橋して甲板長から航海当直を引き継ぎ、針路を150度に定め、機関を全速力前進にかけ、9.5ノットの対地速力(以下「速力」という。)で自動操舵により進行した。
 16時29分半B一等航海士は、チキウ岬灯台から163度12.0海里の地点に達したとき、右舷船首31度1.5海里のところに、前路を左方に横切り、衝突のおそれがある態勢で接近する第五十八幸栄丸(以下「幸栄丸」という。)を認め得る状況であったが、見張りを十分に行っていなかったので、これに気付かず、右転するなど同船の進路を避けずに続航した。
 16時34分半B一等航海士は、同針路同速力で進行中、幸栄丸を右舷船首31度250メートルに初めて認め、手動操舵に切り換えて左舵一杯としたが効なく、16時35分チキウ岬灯台から162度12.9海里の地点において、益栄丸は、船首が052度を向いたとき、原速力で、同船の右舷後部が幸栄丸の左舷船首部に後方から20度の角度で衝突した。
 当時、天候は晴で風力3の北北西風が吹き、潮候は下げ潮の中央期にあたり、視界は良好で、日没時刻は16時35分であった。
 また、幸栄丸は、いか一本つり漁業に従事するFRP製漁船で、A受審人(平成6年3月一級小型船舶操縦士免許取得)ほか1人が乗り組み、操業の目的で、船首0.8メートル船尾2.8メートルの喫水をもって、同日15時20分北海道臼尻港を僚船とともに発し、同港北北東方沖合の漁場に向かった。
 A受審人は、単独の航海当直に当たり、15時30分臼尻港北防波堤灯台から046.5度1.2海里の地点で、針路を032度に定め自動操舵とし、9.7ノットの速力で、舵輪後方右舷側のいすに腰掛けて進行した。
 16時29分半A受審人は、チキウ岬灯台から165度13.5海里の地点に達したとき、左舷船首31度1.5海里のところに、前路を右方に横切り、衝突のおそれがある態勢で接近する益栄丸を認め得る状況であったが、右舷前方を先航する僚船の進路模様を見ることに気を取られ、見張りを十分に行っていなかったので、これに気付かずに続航した。
 A受審人は、その後益栄丸が自船の進路を避けずに接近したが、依然として見張り不十分で、警告信号を行わず、更に接近しても、行きあしを停止するなど、衝突を避けるための協力動作をとらずに進行し、16時35分わずか前左舷船首至近に迫った益栄丸を初めて認め、機関を後進としたが効なく、幸栄丸は、原針路原速力のまま前示のとおり衝突した。
 衝突の結果、益栄丸は、右舷後部外板に擦過傷及び同部ハンドレールに曲損を生じ、幸栄丸は、左舷船首部を圧壊した。 

(原因)
 本件衝突は、北海道チキウ岬南方沖合において、両船が互いに進路を横切り衝突のおそれがある態勢で接近中、南東航中の益栄丸が、見張り不十分で、前路を左方に横切る幸栄丸の進路を避けなかったことによって発生したが、北東航中の幸栄丸が、見張り不十分で、警告信号を行わず、衝突を避けるための協力動作をとらなかったことも一因をなすものである。
 
(受審人の所為)
 A受審人は、北海道チキウ岬南方沖合において、単独の航海当直で漁場向け北東航する場合、接近する益栄丸を見落とすことのないよう、見張りを十分に行うべき注意義務があった。しかし、同人は、右舷前方を先航する僚船の進路模様を見ることに気を取られ、見張りを十分に行わなかった職務上の過失により、前路を右方に横切り衝突のおそれがある態勢で接近する益栄丸に気付かず、警告信号を行うことも、衝突を避けるための協力動作をとることもなく進行して同船との衝突を招き、益栄丸の右舷後部外板に擦過傷及び同部ハンドレールに曲損を生じさせ、幸栄丸の左舷船首部を圧壊させるに至った。
 以上のA受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。

 よって主文のとおり裁決する。


参考図
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