(事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
平成13年12月6日04時50分
北海道羅臼港沖合
2 船舶の要目
船種船名 |
漁船第二十二若竹丸 |
遊漁船第二十八恵佑丸 |
総トン数 |
19トン |
16トン |
全長 |
22.20メートル |
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登録長 |
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16.52メートル |
機関の種類 |
ディーゼル機関 |
ディーゼル機関 |
出力 |
551キロワット |
330キロワット |
3 事実の経過
第二十二若竹丸(以下「若竹丸」という。)は、いか一本釣り漁業に従事する鋼製漁船で、A受審人(昭和51年2月一級小型船舶操縦士免許取得)ほか3人が乗り組み、操業の目的で、船首0.8メートル船尾2.0メートルの喫水をもって、平成13年12月5日15時00分羅臼港を発し、16時ごろ同港沖合6海里ばかりの漁場に至って錨泊し、操業を開始した。
ところで、羅臼港沖合におけるいか漁は、刺網漁の妨げとならないよう、夜間、投錨し、多数の集魚灯により魚群を集めて釣る方式が一般的で、当時、同沖合には、この方式により操業する100隻ほどのいか釣り漁船と、十数隻の刺網漁船とが散在していた。
翌6日00時ごろA受審人は、漁場移動を開始し、02時00分羅臼灯台から151.5度(真方位、以下同じ。)5.0海里の水深約140メートルの地点に、径28ミリメートルの化学繊維製錨索200メートルを延出して錨泊したが、錨泊中であることを示す灯火を掲げず、航行中の動力船の灯火を消灯しないまま操業を再開した。
A受審人は、操舵室右舷側のいすに腰を掛け、前方のガラス窓際に設置した魚群探知機下方のレーダーを作動させていたものの、他船が接近しても錨泊中の自船を避けていくことを期待し、専ら魚群探知機とソナーを見ていか釣り機の調整を行いながら操業を続けた。
04時47分A受審人は、263度を向首しているとき、右舷船尾65度1,200メートルのところに第二十八恵佑丸(以下「恵佑丸」という。)の白、紅、緑3灯を視認することができ、その後、自船に向首し、衝突のおそれのある態勢で接近する状況となったが、依然、他船が接近しても錨泊中の自船を避けていくものと思い、見張りを十分に行っていなかったので、このことに気付かず、警告信号を行うことも、更に接近するに及んで機関を前進にかけるなどの衝突を避けるための措置をとることもなく錨泊中、04時50分羅臼灯台から151.5度5.0海里の地点において、若竹丸は、263度を向首したその左舷船尾に、恵佑丸の右舷船首が、後方から65度の角度で衝突した。
当時、天候は晴で、風力3の西南西風が吹き、潮候は上げ潮の初期であった。
また、恵佑丸は、FRP製遊漁船で、B受審人(平成7年5月一級小型船舶操縦士免許取得)が1人で乗り組み、回航の目的で、船首0.5メートル船尾2.0メートルの喫水をもって、同月5日20時00分北海道能取漁港を発し、航行中の動力船の灯火を掲げて釧路港へ向かった。
B受審人は、予定航路となる羅臼港沖合を明け方に通航するつもりで発航時から速力(対地速力、以下同じ。)を8ないし9ノットに調整し、翌6日03時ごろ知床岬を替わったところで機関を全速力前進にかけ、13.0ノットの速力とし、操舵室中央部のいすに腰を掛けた姿勢で南下した。
03時30分B受審人は、知床岬灯台から157度6.9海里の地点に達したとき、針路を198度に定めて自動操舵とし、同速力のまま進行したところ、04時ごろから船首方一帯にいか釣り漁船の集魚灯による光芒が見え始め、ときおり4海里レンジとしたレーダーを見ながら続航した。
ところで恵佑丸は、船首部に設置された脚部の間隔約80センチメートルの鳥居型マストが見張りの妨げとなり、操舵室中央部のいすに腰を掛けると正船首左右各3度ばかりが死角となることから、ときどき船首を左右に振るなどの死角を補う見張りを行う必要があった。
04時30分ごろB受審人は、多数のいか釣り漁船が操業する海域に入ったことから、レーダーレンジを2海里に切り替えて進行中、04時45分羅臼灯台から141度4.3海里の地点に至り、自船の針路線上にいた漁船を替わして原針路に復したとき、レーダーによりほぼ正船首1海里付近に1個の映像を探知し、いすに腰を掛けたまま船首方を見たところ、鳥居型マストのすぐ右側に集魚灯を多数掲げた漁船(以下「第三船」という。)を認めた。
このときB受審人は、レーダー映像が第三船のものと判断し、死角を補う見張りを行わなかったので、同船の少し左方となる正船首死角内の距離1.1海里のところに同様の灯火を掲げた若竹丸が存在し、それら2隻がレーダー画面上に1個の映像のように見えていたことに気付かず、同針路のまま第三船の左方を通過することとして続航した。
04時47分B受審人は、羅臼灯台から146度4.6海里の地点に至ったとき、若竹丸の灯火を正船首方1,200メートルに視認でき、その点灯模様から錨泊中と確認できないものの、停止状態で操業中であることが分かる状況となり、その後衝突のおそれのある態勢で接近したが、依然、前路には第三船しかいないものと思い、死角を補う見張りを十分に行わなかったので、このことに気付かず、左転するなどして若竹丸を避けることなく進行した。
B受審人は、第三船に接近するにつれ、同船の釣り上げたいかが水をはき出す様子が見えるようになり、その模様に注目しながら続航中、恵佑丸は、原針路、原速力のまま前示のとおり衝突した。
衝突の結果、若竹丸は、左舷船尾ブルワークに曲損を、恵佑丸は、右舷船首部に破口をそれぞれ生じたが、のち両船とも修理された。
(原因)
本件衝突は、夜間、北海道羅臼港沖合において、南下中の恵佑丸が、見張り不十分で、前路で錨泊中の若竹丸を避けなかったことによって発生したが、若竹丸が、見張り不十分で、警告信号を行わず、衝突を避けるための措置をとらなかったことも一因をなすものである。
(受審人の所為)
B受審人は、夜間、羅臼港沖合を南下中、多数のいか釣り漁船等が操業する海域に至った場合、正船首付近が死角となっていたから、前路で錨泊して操業中の若竹丸を見落とさないよう、船首を左右に振るなどして死角を補い、見張りを十分に行うべき注意義務があった。しかるに、同人は、ほぼ正船首に1個のレーダー映像を探知したとき、同時に正船首の死角すぐ右側に1隻の漁船の灯火を視認したことから、レーダー映像は同船のものであり、前路には同船しかいないものと思い、見張りを十分に行わなかった職務上の過失により、同船の少し左方となる正船首付近の死角内に存在した若竹丸の灯火に気付かず、同船を避けないまま進行して衝突を招き、自船の右舷船首部に破口を、若竹丸の左舷船尾ブルワークに曲損をそれぞれ生じさせるに至った。
以上のB受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。
A受審人は、夜間、羅臼港沖合において、錨泊して操業する場合、自船に向首接近する恵佑丸を見落とさないよう、レーダーを活用するなどして見張りを十分に行うべき注意義務があった。しかるに、同人は、接近する他船が錨泊中の自船を避けるものと思い、見張りを十分に行わなかった職務上の過失により、恵佑丸の接近に気付かず、警告信号を行うことも、機関を前進にかけるなどの衝突を避けるための措置をとることもなく錨泊を続けて同船との衝突を招き、両船に前示の損傷を生じさせるに至った。
以上のA受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。
よって主文のとおり裁決する。