(事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
平成15年2月12日21時17分
関門港関門航路
2 船舶の要目
船種船名 |
油送船第十六大徳丸 |
貨物船ノーマン |
総トン数 |
199トン |
4,186.00トン |
全長 |
47.93メートル |
107.13メートル |
登録長 |
44.12メートル |
99.50メートル |
機関の種類 |
ディーゼル機関 |
ディーゼル機関 |
出力 |
735キロワット |
3,309キロワット |
3 事実の経過
第十六大徳丸(以下「大徳丸」という。)は、専ら石油製品の輸送に従事する船尾船橋型の鋼製油送船で、A受審人及びB指定海難関係人ほか1人が乗り組み、A重油及びC重油合計240.200キロリットルを積載し、船首2.00メートル船尾3.30メートルの喫水をもって、平成15年2月12日16時00分山口県徳山下松港を発し、関門海峡経由で長崎県長崎港に向かった。
ところで、A受審人は、平成5年2月大徳丸に乗船したB指定海難関係人が海技免許を有していなかったことから、約1年間にわたって同人を同じ船橋当直に入れ、船橋当直業務をはじめ、一般海域及び港内における航法などについて指導した後、平成6年12月から単独の船橋当直に就けるようになり、平成8年9月同人が甲種甲板部航海当直部員の認定を受けた後は、同当直部員が行うことのできる職務全般を委ねていた。また、同受審人は、出入港時及び視界制限時においては自らが操船を指揮していたものの、その他は、自らと同指定海難関係人とでそれぞれ単独の船橋当直に就き、関門海峡などの狭水道を通過する場合においても、同人に操船を委ねていた。
B指定海難関係人は、単独の船橋当直に就いてこれまで何度も関門海峡を通過した経験があったので、同海峡の水路事情を良く知っており、また、A受審人から航法について指導を受けていたので、関門港においては、総トン数が300トン以下である大徳丸が、港則法に定める小型船に該当し、ノーマンのような総トン数が300トンをこえる、小型船及び雑種船以外の船舶(以下「大型船」という。)の進路を避けなければならないこと、航路から航路外に出ようとする船舶は、航路を航行する他の船舶の進路を避けなければならないこと、及び、関門航路を航行する船舶と関門第2航路(以下「第2航路」という。)を航行する船舶とが出会うおそれのある場合は、第2航路を航行する船舶は、関門航路を航行する船舶の進路を避けなければならないことを知っていた。
A受審人は、出港操船に続いて船橋当直に就き、日没時にマスト灯1個、両舷灯及び船尾灯を表示して周防灘を西行し、18時55分山口県宇部港沖合において、B指定海難関係人に船橋当直を引継ぐに当たり、同人を朝食準備の関係で19時から23時までの船橋当直に就けていたので、同当直中に関門海峡を通過することを知っていたものの、同海峡東口に達した時点で報告するよう指示することなく、視界が幾分狭まっていたことから、「他船に気を付けて行くように。」とだけ指示して船橋当直を引き継いだ。
船橋当直に就いたB指定海難関係人は、周防灘を関門海峡に向けて自動操舵により西行し、19時52分同海峡東口に達したが、A受審人から同海峡東口到着時に報告するよう指示されていなかったことから、このことを報告せず、同時58分部埼沖で手動操舵に切り替えて中央水道から関門航路に入り、東流約4ノットの早鞆瀬戸を潮流に抗して西行した。
一方、A受審人は、B指定海難関係人が関門海峡の水路事情及び関門港における航法を良く知っていたので、これまでどおり同人に操船を委ねたままでも大丈夫と思い、昇橋して自ら操船の指揮を執らなかった。
B指定海難関係人は、操舵スタンドの後方に立って手動操舵に当たり、同スタンドの左側にあるレーダーで見張りを行うとともに、GPSプロッタで関門航路の各灯浮標に沿って航行していることを確認しながら大瀬戸を通過し、20時58分下関福浦防波堤灯台から165度(真方位、以下同じ。)1,000メートルの地点において、関門航路第19号灯浮標(以下、関門航路各号灯浮標の名称については「関門航路」を省略する。)を右舷側に約100メートル隔てて通過したとき、針路を321度に定め、機関を回転数毎分360の全速力前進にかけ、9.8ノットの速力(対地速力、以下同じ。)で、山口県竹ノ子島台場鼻沖に向け、関門航路の右側をこれに沿って進行した。
B指定海難関係人は、関門第2航路第1号灯浮標を船首目標にして西行し、21時12分台場鼻灯台から182度910メートルの地点で、六連島東方の関門航路を見通せるようになったとき、右舷前方を一見して同航路を南下する船舶の灯火を認めなかったものの、六連島南東岸の陸上灯火に紛れた船舶の灯火を見落とすことがあるので、念のためレーダーで確認したところ、3海里レンジとしたレーダーで右舷船首37度2,650メートルにノーマンの映像を初めて探知し、さらに、同時13分半同灯台から210度640メートルの地点に差し掛かったとき、同映像が右舷船首36度1,850メートルとなったのを認め、映像の大きさからノーマンが大型船であり、台場鼻沖の同航路屈曲部で接近するおそれがあることを知ったが、逆潮時で自船の速力が遅いことから、ノーマンが自船の前路を無難に通過するものと軽く考え、その後、目視によるなり、レーダー映像を系統的に観察するなどして、同船に対する動静監視を十分に行っていなかったので、同船の方位がわずかに左方に変化していたものの、明確な変化がないまま衝突のおそれのある態勢で接近していることに気付かず、速力を大幅に減じるなどして、ノーマンの進路を避けることなく続航した。
21時14分B指定海難関係人は、台場鼻灯台から223度610メートルの地点に達してほぼ同灯台に並航し、ノーマンが右舷船首35度1,560メートルとなったとき、針路を318度に転じて第2航路に向け、そのころ、関門海峡海上交通センター(以下「海上交通センター」という。)が、VHF無線電話(以下「VHF」という。)16チャンネルで、自船を船名不詳のまま繰り返し喚呼し、その後、関門航路を南下中のノーマンと接近するおそれがあるので注意するよう、衝突を防止するための情報(以下「衝突防止情報」という。)を提供しているのを傍受し得る状況であったが、自船の船名を喚呼していなかったこともあり、第2航路の状況に注意を払っていたので、このことに気付かずに進行した。
21時15分わずか過ぎB指定海難関係人は、台場鼻灯台から253度670メートルの地点で、右舷船首37度1,000メートルに接近したノーマンが、関門航路屈曲部で針路を15度左に転じて同航路に沿う針路とし、自船が第2航路に向けて針路を3度左に転じていたこともあって、その後、ノーマンの方位に明確な変化がなく、衝突のおそれのある態勢で接近し、さらに、同時16分ほぼ同方位540メートルに接近したが、依然として、左舷前方の第2航路の状況を確認することに気を取られ、ノーマンに対する動静監視を十分に行っていなかったので、このことに気付かず、右転するなり、行きあしを止めるなどして、同船の進路を避けないまま続航した。
こうして、B指定海難関係人は、第2航路の状況を確認しながら進行し、21時17分少し前、ノーマンのレーダー映像が画面の中心付近に接近しているのを認め、驚いて右舷前方を見たところ、至近に迫ったノーマンの左舷灯などを視認し、急いで右舵一杯をとったが、効なく、21時17分台場鼻灯台から283度1,050メートルの地点において、大徳丸は、右回頭が始まって間もなく、船首が320度を向いたとき、原速力のまま、その船首がノーマンの左舷後部に前方から80度の角度で衝突した。
当時、天候は曇で風力3の西北西風が吹き、潮候は下げ潮の中央期で、関門海峡は東流時に当たり、視界は良好であった。
A受審人は、自室で休息中のところ、衝撃を感じて衝突したことを知り、直ちに昇橋して事後の措置に当たった。
また、ノーマンは、船尾船橋型のセメント専用船で、船長Tほか22人(いずれもフィリピン共和国籍)が乗り組み、空倉のまま、船首2.26メートル船尾4.09メートルの喫水をもって、同月11日20時15分大韓民国木浦港を発し、関門海峡経由で山口県宇部港に向かった。
翌12日19時00分ごろT船長は、関門海峡通過に備えて昇橋し、20時00分ごろ山口県六連島北西方に到着したところで、船橋当直中の三等航海士と交替して操船の指揮を執り、前後部マスト灯、両舷灯及び船尾灯を表示し、機関を種々使用しながらの水先人乗船予定地点に向かい、水先人の乗船を待った。
21時00分T船長は、六連島灯台から012度1,850メートルの地点で、関門水先区水先人のC受審人を乗船させて関門海峡での水先業務に就かせ、自ら操船の指揮を執り、三等航海士を機関の操作に、操舵手を手動操舵にそれぞれ当たらせ、また、C受審人は、船橋前面中央部で水先業務に当たり、機関を港内全速力前進にかけて関門航路に向かい、松瀬北灯浮標の東方約300メートルを通過したとき、海上交通センターにVHFで位置通報を行ったところ、同センターから、台場鼻沖の関門航路で小型の西行船と接近するおそれのある旨の情報を得た。
21時04分C受審人は、六連島灯台から028度1,250メートルの地点で関門航路に入り、同航路の右側をこれに沿って南下し、第6号灯浮標を右舷側に300メートル隔てて通過した後、同時10分半台場鼻灯台から005度2,150メートルの地点において、針路を215度に定め、微弱な潮流に乗じて11.0ノットの速力で進行した。
21時12分C受審人は、台場鼻灯台から356度1,700メートルの地点で、左舷船首37度2,650メートルのところに大徳丸の白、緑2灯を初めて視認し、同時13分半同灯台から342度1,320メートルの地点に差し掛かったとき、大徳丸が左舷船首38度1,850メートルとなり、同船の方位がわずかに左方に変化していたものの、明確な変化がなく、衝突のおそれのある態勢で接近していることを認め、同船が緑灯を見せたまま第2航路に向けて西行していたことから、海上交通センターから情報提供のあった小型の西行船であることを知り、同船が港則法に定める小型船に該当するか否かについては明確に推測できなかったものの、いずれにしても第2航路に向けて西行する同船が自船の進路を避けるものと思い、同船の動静を監視しながら続航した。
21時14分C受審人は、台場鼻灯台から335度1,230メートルの地点に達し、大徳丸が左舷船首39度1,560メートルとなったころ、海上交通センターが、VHF16チャンネルで大徳丸を船名不詳のまま繰り返し喚呼しており、間もなく応答のない同船に対して衝突防止情報を提供しているのを傍受し、大徳丸が応答しなかったことは知っていたものの、そのうち同情報を傍受した同船が自船の進路を避けるものと思い、直ちに大徳丸に対して避航を促す警告信号を行うことなく、同船の動静を監視しながら、針路及び速力を保ったまま関門航路の右側をこれに沿って南下した。
21時15分わずか過ぎC受審人は、台場鼻灯台から318度1,090メートルの、針路を関門航路に沿う180度に転じる地点に至ったとき、大徳丸が左舷船首40度1,000メートルに接近しており、同船が避航のために右転する可能性があることを考慮して、一旦針路を200度に転じた。
ところが、C受審人は、大徳丸が第2航路に向けて針路を3度左に転じていたこともあって、その後、同船の方位に明確な変化がなく、衝突のおそれのある態勢で接近するのを認めたが、依然として、同船の避航を期待して警告信号を行わないまま、同船を注視して進行した。
一方、T船長は、21時16分少し前、左舷前方700メートルに接近した大徳丸の白、緑2灯をようやく初認し、C受審人にその旨を伝えた。
こうして、C受審人は、21時16分台場鼻灯台から302度1,040メートルの地点で、大徳丸が自船の進路を避けないまま、左舷船首27度540メートルのところに接近したものの、右転するなどの衝突を避けるための協力動作をとることもせずに続航中、同時16分半、大徳丸がほぼ同方位270メートルに迫って右舵一杯をとったが、及ばず、ノーマンは、船首が220度を向いたとき、原速力のまま、前示のとおり衝突した。
衝突の結果、大徳丸は、船首部を大破し、ノーマンは、左舷後部に亀裂を伴う損傷を生じたが、のちいずれも修理された。
(原因)
本件衝突は、夜間、山口県竹ノ子島沖の関門港関門航路において、同航路を西行中の港則法に定める小型船である第十六大徳丸が、動静監視不十分で、六連島東方の同航路を南下中の小型船及び雑種船以外の船舶であるノーマンの進路を避けなかったことによって発生したが、ノーマンが、警告信号を行わず、衝突を避けるための協力動作をとらなかったことも一因をなすものである。
第十六大徳丸の運航が適切でなかったのは、関門海峡を通過するに当たり、船長が操船の指揮を執らなかったことと、船橋当直者が、動静監視を十分に行わなかったこととによるものである。
(受審人等の所為)
A受審人は、夜間、関門海峡を通過する場合、操船の指揮を執るべき注意義務があった。しかるに、同人は、甲種甲板部航海当直部員の認定を受けた船橋当直者が、関門海峡の水路事情及び関門港における航法を良く知っていたので、これまでどおり同当直者に操船を委ねたままでも大丈夫と思い、自ら操船の指揮を執らなかった職務上の過失により、船橋当直者の不適切な運航によってノーマンとの衝突を招き、第十六大徳丸の船首部を大破させ、ノーマンの左舷後部に亀裂を伴う損傷を生じさせるに至った。
以上のA受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。
C受審人は、夜間、山口県竹ノ子島西方の関門港関門航路を南下中、同航路を西行する港則法で定める小型船である第十六大徳丸が、小型船及び雑種船以外の船舶である自船の進路を避けないまま、衝突のおそれのある態勢で接近するのを認めた場合、直ちに警告信号を行うべき注意義務があった。しかるに、同人は、関門海峡海上交通センターがVHF無線電話で第十六大徳丸を船名不詳のまま繰り返し喚呼し、応答のない同船に対して衝突防止情報を提供していたので、そのうち同情報を傍受した第十六大徳丸が自船の進路を避けるものと思い、直ちに警告信号を行わなかった職務上の過失により、第十六大徳丸に対して避航を促すことができず、間近に接近しても衝突を避けるための協力動作をとらないまま進行して同船との衝突を招き、前示の損傷を生じさせるに至った。
以上のC受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。
B指定海難関係人は、夜間、山口県竹ノ子島南方の関門港関門航路を関門第2航路に向けて西行中、レーダーにより六連島東方の関門航路を南下中のノーマンの映像を探知した際、目視によるなり、レーダー映像を系統的に観察するなどして、同船に対する動静監視を十分に行わなかったことは、本件発生の原因となる。
以上のB指定海難関係人の所為に対しては、海難審判法第4条第3項の規定による勧告はしないが、今後、船橋当直を行うに当たっては、目視及びレーダーにより他船の動静監視を十分に行い、早期に適切な避航動作をとるなどして安全運航に努めなければならない。
よって主文のとおり裁決する。