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平成15年門審第57号
件名

油送船五号寿重丸遊漁船福洋丸衝突事件

事件区分
衝突事件
言渡年月日
平成15年10月16日

審判庁区分
門司地方海難審判庁(長浜義昭、橋本 學、小寺俊秋)

理事官
島 友二郎

受審人
A 職名:五号寿重丸機関長 海技免許:五級海技士(航海)
B 職名:福洋丸船長 操縦免許:小型船舶操縦士 

損害
寿重丸・・・球状船首及び左舷船首外板に擦過傷
福洋丸・・・右舷中央部外板に破口を生じ、操舵室を圧壊、のち廃船

原因
福洋丸・・・動静監視不十分、横切りの航法(避航動作)不遵守(主因)
寿重丸・・・警告信号不履行、横切りの航法(協力動作)不遵守(一因)

主文

 本件衝突は、福洋丸が、動静監視不十分で、前路を左方に横切る五号寿重丸の進路を避けなかったことによって発生したが、五号寿重丸が、警告信号を行わず、衝突を避けるための協力動作をとらなかったことも一因をなすものである。
 受審人Bの小型船舶操縦士の業務を1箇月停止する。
 受審人Aを戒告する。
 
理由

(事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
 平成14年11月10日07時40分
 玄界灘
 
2 船舶の要目
船種船名 油送船五号寿重丸 遊漁船福洋丸
総トン数 198トン 4.4トン
全長 47.78メートル  
登録長   11.58メートル
機関の種類 ディーゼル機関 ディーゼル機関
出力 588キロワット 244キロワット

3 事実の経過
 五号寿重丸(以下「寿重丸」という。)は、船尾船橋型の油送船で、船長C、A受審人ほか1人が乗り組み、ジェット燃料601キロリットルを積載し、船首2.80メートル船尾3.50メートルの喫水をもって、平成14年11月9日11時10分水島港を発し、長崎県大村港に向かった。
 ところで、C船長は、船橋当直を自らと、それぞれ海技免状を受有するA受審人及び甲板員の3人による単独の4時間交替制としていた。
 こうしてA受審人は、翌10日04時00分ごろ福岡県芦屋港の北方3海里付近で船橋当直に就いて玄界灘を西行し、07時19分少し過ぎ灯台瀬灯標から144度(真方位、以下同じ。)1,000メートルの地点で、針路を250度に定め、機関を全速力前進にかけ、10.4ノットの速力(対地速力、以下同じ。)で、自動操舵により進行した。
 07時34分半A受審人は、灯台瀬灯標から238度2.5海里の地点に達したとき、左舷船首48度1.5海里のところに福洋丸を初めて視認し、その後、その方位がほとんど変わらず、前路を右方に横切り衝突のおそれのある態勢で接近するのを認めた。
 A受審人は、福洋丸の動静を見守っていたところ、同船が自船の進路を避けずに接近するのを認めたものの、自船を右方に見る相手船が避けてくれるものと思い、警告信号を行わないまま続航し、07時39分少し過ぎ福洋丸との距離が400メートルとなって間近に接近したが、小型漁船が至近で避航することがよくあったことから、そのうち避航するものと思い、右転するなどして衝突を避けるための協力動作をとることなく続航した。
 A受審人は、07時39分半汽笛で長音1回を吹鳴したのち、同時40分少し前福洋丸の避航に時間を与えるつもりで、自動操舵のまま針路を255度に転じて進行中、同時40分わずか前ようやく右舵一杯、機関中立、続いて全速力後進としたものの、効なく、07時40分灯台瀬灯標から242度3.5海里の地点において、寿重丸は、255度の針路で、原速力のまま、その船首と、福洋丸の右舷中央部が、後方から85度の角度で衝突した。
 当時、天候は晴で風力4の北西風が吹き、潮候は上げ潮の初期で、視界は良好であった。
 C船長は、主機音の変化を聞いて昇橋し、衝突を知って事後の措置にあたった。
 また、福洋丸は、船体中央部に操舵室を有するFRP製遊漁船で、平成13年3月交付の二級小型船舶操縦士免状(5トン未満)を有するB受審人が1人で乗り組み、釣り客6人を乗せ、船首0.4メートル船尾0.9メートルの喫水をもって、同14年11月10日07時00分福岡県船越漁港を発し、烏帽子島東方の漁場に向かった。
 B受審人は、発航時から単独で操船にあたり、07時20分半筑前ノー瀬灯標から250度200メートルの地点で、針路を340度に定め、機関を回転数毎分2,000にかけ、12.0ノットの速力で、自動操舵により進行した。
 B受審人は、07時34分半灯台瀬灯標から225度3.8海里の地点に達したとき、右舷船首42度1.5海里のところに寿重丸をレーダー及び肉眼で初めて認めたが、一瞥しただけで同船が前路を左方に横切るも無難に航過するものと思い、目的の漁場に到達する前に魚影があれば遊漁をさせるつもりで魚群探知機を使用しての探索に熱中していて、衝突のおそれの有無を判断できるよう、同船との方位変化を測るなどしてその動静監視を十分に行わなかったので、その後、その方位にほとんど変化がなく、前路を左方に横切り衝突のおそれのある態勢で接近していることに気付かなかった。
 B受審人は、07時38分少し過ぎほぼ同方位0.5海里に寿重丸を一瞥はしたものの、依然、動静監視不十分で、魚群探索に熱中していて同船の進路を避けないまま、原針路、原速力で続航中、前示のとおり衝突した。
 衝突の結果、寿重丸は球状船首及び左舷船首外板に擦過傷を生じ、のち、修理され、福洋丸は右舷中央部外板に破口を生じ、操舵室を圧壊し、のち廃船処分とされ、釣り客1人が海中に転落したが、寿重丸に無事救助された。 

(原因)
 本件衝突は、玄界灘において、両船が互いに進路を横切り衝突のおそれがある態勢で接近中、福洋丸が、動静監視不十分で、前路を左方に横切る寿重丸の進路を避けなかったことによって発生したが、寿重丸が、警告信号を行わず、衝突を避けるための協力動作をとらなかったことも一因をなすものである。
 
(受審人の所為)
 B受審人は、玄界灘を北上中、前路を左方に横切る態勢で西行する寿重丸を認めた場合、衝突のおそれの有無を判断できるよう、同船との方位変化を測るなどしてその動静監視を十分に行うべき注意義務があった。しかるに、同人は、同船を一瞥しただけで前路を無難に航過するものと思い、魚群探索に熱中していて、動静監視を十分に行わなかった職務上の過失により、寿重丸と衝突のおそれのある態勢で接近していることに気付かず、同船の進路を避けることなく進行して衝突を招き、寿重丸の船首等に擦過傷を、福洋丸の右舷中央部に破口を、操舵室に圧壊をそれぞれ生じさせるに至った。
 以上のB受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第2号を適用して同人の小型船舶操縦士の業務を1箇月停止する。
 A受審人は、玄界灘を西行中、前路を右方に横切り衝突のおそれがある態勢で接近する福洋丸と間近に接近するのを認めた場合、右転するなどして衝突を避けるための協力動作をとるべき注意義務があった。しかるに、同人は、自船を右方に見る相手船が避けてくれるものと思い、衝突を避けるための協力動作をとらなかった職務上の過失により、衝突を招き、両船に前示の損傷を生じさせるに至った。
 以上のA受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。

 よって主文のとおり裁決する。


参考図
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