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 海難審判庁採決録 >  2003年度(平成15年) > 衝突事件一覧 >  事件





平成15年門審第56号
件名

交通船海輝丸漁船源福丸衝突事件

事件区分
衝突事件
言渡年月日
平成15年10月15日

審判庁区分
門司地方海難審判庁(小寺俊秋、長谷川峯清、西村敏和)

理事官
尾崎安則

受審人
A 職名:海輝丸船長 操縦免許:小型船舶操縦士 
B 職名:源福丸船長 操縦免許:小型船舶操縦士 

損害
海輝丸・・・右舷船首部外板にFRPの剥離と擦過傷
源福丸・・・右舷中央部外板に亀裂、操舵場所構造物を損壊、船長が、右耳介、右下顎切挫創等の負傷

原因
源福丸・・・法定灯火不表示、見張り不十分、船員の常務(衝突回避措置)不遵守(主因)
海輝丸・・・見張り不十分、船員の常務(衝突回避措置)不遵守(一因)

主文

 本件衝突は、源福丸が、法定灯火を適正に表示しなかったばかりか、見張り不十分で、衝突を避けるための措置をとらなかったことによって発生したが、海輝丸が、見張り不十分で、衝突を避けるための措置をとらなかったことも一因をなすものである。
 受審人Bを戒告する。
 受審人Aを戒告する。
 
理由

(事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
 平成14年11月10日23時03分
 博多港
 
2 船舶の要目
船種船名 交通船海輝丸 漁船源福丸
総トン数 4.9トン 1.6トン
全長 14.35メートル  
登録長   8.74メートル
機関の種類 ディーゼル機関 ディーゼル機関
出力 279キロワット 54キロワット

3 事実の経過
 海輝丸は、福岡市西区にある姪の浜市営能古渡船場と同区能古島東町船溜まり間のほか、依頼に応じて他の島への運航も行う旅客定員12人のFRP製交通船で、平成11年2月交付の一級小型船舶操縦士免状を有するA受審人が単独で乗り組み、旅客2人を乗せ、船首0.70メートル船尾1.25メートルの喫水をもって、同14年11月10日23時00分同渡船場を発し、玄界島へ向かった。
 A受審人は、法定灯火を表示して発航したのち、機関を回転数(毎分回転数、以下同じ。)500にかけ5.0ノットの速力(対地速力、以下同じ。)とし、23時01分半福岡市西区に所在する小戸山の標高39メートル三角点(以下「三角点」という。)から073度(真方位、以下同じ。)1,120メートルの地点で、針路を356度に定め、手動操舵により進行した。
 23時02分わずか過ぎA受審人は、三角点から069度1,140メートルの地点に達したとき、左舷船首70度630メートルのところに源福丸が表示する緑1灯を認めることができる状況下、能古島の島影を目安に針路を288度に転じ、機関を回転数1,500にかけて15.0ノットに増速したところ、源福丸の方位が左舷船首2度となり、その後、同船と衝突のおそれのある態勢で接近したが、転針前に左舷方を一瞥して、左転したのち接近する他船はいないものと思い、前路の見張りを十分に行わなかったので源福丸の表示する灯火を見落とし、このことに気付かないまま続航した。
 こうして、海輝丸は、A受審人が、依然、見張り不十分で、さらに接近しても右転するなど、源福丸との衝突を避けるための措置をとらずに進行中、23時03分三角点から052度880メートルの地点において、その右舷船首部と源福丸の右舷中央部とが、前方から6度の角度で衝突した。
 当時、天候は晴で風はほとんどなく、潮候は上げ潮の末期で、視界は良好であった。
 また、源福丸は、側壁等で覆われた操舵室を有せず、配電盤や魚群探知機を収納した物入れの上に舵輪を設置して操舵場所とした、主として福岡湾内で刺し網漁業に従事するFRP製漁船で、同13年3月交付の一級小型船舶操縦士免状を有するB受審人が単独で乗り組み、操業の目的で、船首0.2メートル船尾0.8メートルの喫水をもって、同14年11月10日21時00分姪の浜の船溜まりを発し、能古島西岸沖合の漁場に至って操業を終え、22時49分能古島南西岸から沖合約400メートルの地点を発進して帰途についた。
 ところで、B受審人は、源福丸の航海灯が、操舵場所前方の船体中心線上に設置されたマストに、水面上の高さ190センチメートル(以下「センチ」という。)から同213センチまで上下に動かすことができる白色全周灯1灯と、その下方に、同178センチで固定された両色灯とが装備されていて、操舵場所の舵輪後部に設置したいすに座って前方を見ると眼高が水面上約180センチの高さとなり、白色全周灯を上下させてもその灯光がまぶしいことから、同灯を消灯して両色灯のみを点灯し、法定灯火を適正に表示しないまま航行していた。
 こうして、B受審人は、発進後南下して能古島南西端をかわり、22時54分半少し前三角点から305度1,710メートルの地点で、針路を102度に定め、機関を回転数2,600にかけ8.0ノットの速力で、手動操舵により進行した。
 23時02分わずか過ぎB受審人は、三角点から038度740メートルの地点に達したとき、右舷船首4度630メートルのところに海輝丸が表示する白、紅2灯を認めることができ、両灯火の開き具合の変化により、同船が左転して自船にほぼ向首し、その後、衝突のおそれのある態勢で接近することを知り得る状況であったが、船首方から右舷方にかけて陸岸の明かりが散在していたところ、漫然と前方を見て接近する他船はいないものと思い、周囲の見張りを十分に行わなかったので、それらの明かりに紛れて接近する海輝丸の灯火を認めず、このことに気付かないまま続航した。
 源福丸は、B受審人が、依然、見張り不十分で、さらに接近しても右転するなど、海輝丸との衝突を避けるための措置をとらずに進行中、前示のとおり衝突した。
 衝突の結果、海輝丸は、右舷船首部外板にFRPの剥離と擦過傷とを源福丸は、右舷中央部外板に亀裂と、操舵場所構造物に損壊とをそれぞれ生じたが、のち、いずれも修理され、B受審人が、右耳介、右下顎切挫創等を負った。 

(原因)
 本件衝突は、夜間、博多港において、東行中の源福丸が、法定灯火を適正に表示しなかったばかりか、見張り不十分で、海輝丸との衝突を避けるための措置をとらなかったことによって発生したが、西行中の海輝丸が、見張り不十分で、源福丸との衝突を避けるための措置をとらなかったことも一因をなすものである。
 
(受審人の所為)
 B受審人は、夜間、博多港において、姪の浜の船溜まりに向けて東行する場合、船首方から右舷方にかけて陸岸の明かりが散在していたから、それらの明かりに紛れて接近する海輝丸の灯火を見落とすことのないよう、周囲の見張りを十分に行うべき注意義務があった。しかるに、同人は、漫然と前方を見て接近する他船はいないものと思い、周囲の見張りを十分に行わなかった職務上の過失により、衝突のおそれのある態勢で接近する海輝丸に気付かず、右転するなど、衝突を避けるための措置をとらずに進行して同船との衝突を招き、海輝丸の右舷船首部外板にFRPの剥離と擦過傷とを、源福丸の右舷中央部外板に亀裂と、操舵場所構造物に損壊とをそれぞれ生じさせ、自身が、右耳介、右下顎切挫創等を負うに至った。
 以上のB受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。
 A受審人は、夜間、博多港において、姪の浜市営能古渡船場を発したのち、左転して西行する場合、源福丸が表示する緑1灯を認めることができる状況であったから、接近する同船の灯火を見落とすことのないよう、前路の見張りを十分に行うべき注意義務があった。しかるに、同人は、転針前に左舷方を一瞥して、左転したのち接近する他船はいないものと思い、前路の見張りを十分に行わなかった職務上の過失により、衝突のおそれのある態勢で接近する源福丸に気付かず、右転するなど、衝突を避けるための措置をとらずに進行して同船との衝突を招き、前示の事態を生じさせるに至った。
 以上のA受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。

 よって主文のとおり裁決する。


参考図
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