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 海難審判庁採決録 >  2003年度(平成15年) > 衝突事件一覧 >  事件





平成15年門審第35号
件名

プレジャーボートタケシ丸漁船里香丸衝突事件

事件区分
衝突事件
言渡年月日
平成15年10月8日

審判庁区分
門司地方海難審判庁(長谷川峯清、西村敏和、小寺俊秋)

理事官
上中拓治

受審人
A 職名:タケシ丸船長 操縦免許:小型船舶操縦士
B 職名:里香丸船長 操縦免許:小型船舶操縦士

損害
タケシ丸・・・船首部に擦過傷
里香丸・・・カンヌキの左舷側折損、左舷側外板に亀裂及び船外機取り付け部に曲損
船長が左脛腓骨骨折、左撓骨骨折等

原因
タケシ丸・・・速力過大、船員の常務(衝突回避措置)不遵守
里香丸・・・法定灯火不表示、見張り不十分、船員の常務(衝突回避措置)不遵守

主文

 本件衝突は、タケシ丸が、安全な速力で進行せず、衝突を避けるための措置をとらなかったことと、里香丸が、法定灯火を表示しなかったばかりか、見張り不十分で、自船の存在を示すための適切な措置をとらず、衝突を避けるための措置もとらなかったこととによって発生したものである。
 受審人Aを戒告する。
 受審人Bを戒告する。
 
理由

(事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
 平成14年9月23日23時32分
 鹿児島県大浜漁港南方沖合
 
2 船舶の要目
船種船名 プレジャーボートタケシ丸 漁船里香丸
総トン数   0.6トン
全長 7.07メートル  
登録長   5.34メートル
機関の種類 電気点火機関 電気点火機関
出力 91キロワット  
漁船法馬力数   30

3 事実の経過
 タケシ丸は、機関の出力84キロワットの船外機と同7キロワットの予備船外機とを装備したFRP製プレジャーボートで、昭和57年3月に一級小型船舶操縦士の免許を取得したA受審人が1人で乗り組み、アオリイカ釣り遊漁(以下「遊漁」という。)の目的で、船首0.2メートル船尾0.8メートルの喫水をもって、平成14年9月23日18時30分鹿児島県大浜漁港を発し、法定灯火を表示しないまま、同漁港の港口周辺及び南方に隣接した大浜海浜公園沖合の釣り場に向かった。
 ところで、大浜海浜公園には、陸岸からほぼ直角に沖合に向かってT字状の北突堤及び逆L字状の南突堤が、それぞれ長さ約150メートル、護岸法面(のりめん)を含めた幅が約50メートルで築造されており、両突堤先端間の海面下に南北160メートル東西90メートルの流砂防止用の人工リーフが設けられ、その沖合に光達距離3.5キロメートルの黄色灯付き浮標が、大浜漁港の防波堤先端で、根占港北防波堤灯台から174度(真方位、以下同じ。)2,800メートルの地点に設置された赤色灯標(以下「大浜赤灯標」という。)から157度835メートルの地点に1基(以下「北浮標」という。)及び158.5度1,000メートルの地点に1基(以下「南浮標」という。)それぞれ敷設されていたほか、両突堤間の陸岸に街灯が設けられていた。
 大浜漁港周辺の海域で遊漁を行うプレジャーボートあるいはあおりいか竿釣り操業(以下「操業」という。)を行う漁船は、満月前後の大潮時には明かりを点けない方がアオリイカが良く釣れるという習慣から、日没後でも法定灯火を表示することなく、無灯火あるいは光力の微弱な明かりを点け、機関を中立としてときどき前進にかけ、1.0ノット未満の速力(対地速力、以下同じ。)で航行しながら、擬餌針1個を付けた竿を上下に振る方法で釣りを行っていた。
 こうして、A受審人は、大浜漁港港口付近を陸岸に沿って遊漁を行いながら往復しているうち、20時30分同港口付近で明かりを明確に確認できない状態の船舶1隻を約20メートルの距離で認め、月明かりによって同船がその船型から同漁港を基地とする自らの遠縁に当たるB受審人所有の里香丸であることに気付き、同船が出漁していることを初めて知った。
 その後、A受審人は、遊漁を行いながら北、南両浮標の沖合を経由して大浜漁港の南南東方約1.3海里にある薩英戦争砲台跡付近の海岸の沖合まで移動し、22時30分同沖合で明かりを点けずに遊漁を行っているプレジャーボート1隻を約15メートルの距離で認め、同船が南方に移動するのを確かめたのち、大浜海浜公園沖合に向けて遊漁を続けながら北上した。
 A受審人は、南浮標を右舷側約5メートルに見て北上したのち、23時30分大浜赤灯標から158.5度970メートルの地点に至ったとき、携帯電話機で同時刻を確認し、すでにアオリイカを3尾釣り上げていたことでもあり、そろそろ帰航することとし、釣り竿を片付けて周囲を一瞥したのち、同時31分法定灯火を表示して同地点を発進し、針路を大浜赤灯標を正船首わずか左に見る345度に定め、機関を全速力前進が回転数毎分4,900のところ同毎分3,500まで徐々に速力を上げながら、手動操舵によって進行した。
 定針時にA受審人は、右舷船首4度210メートルのところに、極低速力で南西方に向かって航行している里香丸がおり、同船が作業灯として使用していた赤色点滅灯の明かりを明確に確認できない状態で、その後衝突のおそれがある態勢で互いに接近したが、自らが無灯火で遊漁を行っていたように、この付近の海域には無灯火あるいは光力の微弱な明かりのみを点けて遊漁あるいは操業を行う船舶(以下「無灯火船等」という。)が存在することを予想できる状況であったものの、発進前に周囲を一瞥して他船の灯火に気付かなかったことや、夜が更けてきて遅くなったので、もうこの時間に操業している漁船も遊漁のためのプレジャーボートもいないものと思い、そのときの状況に適した距離で衝突を避けるための措置をとることができる安全な速力で進行することなく、速力を全速力前進の7割ばかりに上げ、増速に伴う船首浮上によって死角が生じるため、操舵室から左右に顔を出して前方を見ながら続航した。
 23時32分わずか前A受審人は、速力が20.0ノットになり、北浮標を右舷側約8メートルに見て航過したとき、正船首わずか右50メートルのところに里香丸がおり、衝突の危険がある態勢で互いに接近したが、過大な速力で進行していたことから、衝突回避措置をとるための時間的、距離的な余裕が得られる見張りを十分に行うことができなかったので、里香丸に気付かず、同船との衝突を避けるための措置をとらないまま続航中、23時32分大浜赤灯標から157度775メートルの地点において、タケシ丸は、原針路、原速力のまま、その船首が、里香丸の左舷船首部に前方から49度の角度で衝突した。
 当時、天候は晴で風力4の北西風が吹き、潮候は下げ潮の中央期にあたり、月齢が15.9、大浜漁港における日没時刻が18時12分、同月出時刻が19時19分であった。
 また、里香丸は、有効な音響による信号を行うことができる手段を講じていない一本つり漁業に従事する和船型のFRP製漁船で、昭和50年5月に一級小型船舶操縦士の免許を取得したB受審人が1人で乗り組み、操業の目的で、船首0.20メートル船尾0.15メートルの喫水をもって、平成14年9月23日20時00分大浜漁港を発し、同漁港港口周辺の漁場に向かった。
 ところで、B受審人は、里香丸の灯火設備として、白色全周灯及び両色灯を直径約5センチメートル(以下「センチ」という。)長さ1.5メートルの鋼管製の取り外し式マストに取り付け、船首端から後方約1メートルに装備した長さ2.0メートル縦横11センチの角材製カンヌキの中央部後面に、長さ19センチ内径5センチ外径6センチの合成樹脂製ソケットを設け、操業以外の夜間航行時にはマストをこれに差し込み、船尾端から前方に装備された長さ約90センチ幅1.5メートルの船尾物入れ内の左舷側に搭載した蓄電池を電源として点灯していた。同人は、平素、操業時には、船に明かりを点けなくても月夜の日没間もないころや月の出始めにはアオリイカが良く釣れること、白色全周灯を点灯すると前方が見にくくなること及び大浜海浜公園の街灯のある陸岸近くで操業することなどから、他船が接近しても月明かりや街灯の明かりで遠くからでも自船を認めることができるので、自ら明かりを点けるまでもないと思い、マストを取り外して船首部に格納し、作業灯として長さ約19センチ直径約3センチの円筒形で、発光部の長さが約7センチ、明瞭に視認可能な距離が約150メートルの単3乾電池2本で作動する赤色点滅灯1個と、光達距離約2キロメートルの簡易標識灯1個を搭載して点灯していた。
 こうして、B受審人は、発航時に簡易標識灯の乾電池を抜いて船尾物入れに格納し、赤色点滅灯のスイッチを入れて点灯を確認したのち、これを船尾端から前方32センチの右舷ブルワーク内側に設けた前示ソケットと同じ形のソケットの前にもたれ掛けさせて立て、同物入れの右舷側の蓋の上に船首方を向いて腰を掛け、左手に船外機のハンドルを、右手に釣り竿をそれぞれ持ち、左舷前方からは自らの身体の陰になって同点滅灯の明かりが見えにくい状態となる姿勢で操船に当たり、間もなく前示漁場に到着して操業を始めた。その後同人は、暫く操業を続けたが釣果がなかったので、大浜海浜公園沖合の漁場に移動し、北突堤と北浮標との間を往復しながら操業を続けた。
 23時27分B受審人は、大浜赤灯標から149.5度720メートルの地点で、針路を214度に定め、機関を中立と極微速力前進とに適宜かけながら、0.7ノットの極低速力で進行した。
 23時31分B受審人は、大浜赤灯標から155.5度760メートルの地点に達したとき、左舷船首45度210メートルのところにタケシ丸がおり、それまで無灯火だった同船が航行中の動力船の灯火を表示し、その後北上して衝突のおそれがある態勢で互いに接近することを認めることができる状況であったが、発航後操業や遊漁を行う船舶を見かけなかったので周囲に他船はいないものと思い、周囲の見張りを十分に行うことなく、船首方間近を見ていてタケシ丸に気付かず、赤色点滅灯を高く掲げて大きく振るなど自船の存在を示すための適切な措置をとることも、機関を使用するなどして同船との衝突を避けるための措置をとることもせずに操業を行いながら続航中、里香丸は、原針路、原速力のまま、前示のとおり衝突した。
 衝突の結果、タケシ丸は、船首部に擦過傷を生じたが修理は行われず、里香丸は、カンヌキの左舷側折損、左舷側外板に亀裂及び船外機取り付け部に曲損を生じたが、のち修理された。また、B受審人は、衝突の衝撃により全治約2ヶ月の左脛腓骨骨折、左撓骨骨折等の傷を負った。

(原因に対する考察)
 本件は、夜間、鹿児島県大浜漁港南方沖合において、法定灯火を表示せずに遊漁ののち、帰航のために同灯火を表示して航行中のタケシ丸と、法定灯火を表示せずに光力の微弱な明かりのみを点灯して操業中の里香丸とが衝突した事件である。
 以下、法定灯火の表示及び無灯火船等が存在することを予想できる状況下での運航について検討する。
 船舶が表示しなければならない灯火の目的は、海上衝突予防法の灯火に関する規定に明示されているとおり、船舶の存在、種類、状態あるいは大きさ等を示すことにある。日没から日出までの間、船舶が他船との衝突を防止するためには、まず他船の存在を知ることが不可欠であり、船舶は、他船の存在を知ったのちに初めてその種類や状態、大きさ等を認識することができ、次いで自他両船間の見合い関係を確認し、適用される航法を判断して衝突を防止するために必要な措置をとることになる。このためには、法定灯火が適切に表示され、かつ、同灯火を確実に認知して衝突回避措置をとるための時間的、距離的な余裕が得られるような見張りが十分に行われることが必要である。
 タケシ丸及び里香丸両船が、アオリイカを対象とする釣りを行うときには明かりを点けないという習慣から、日没後にもかかわらず法定灯火を表示せずに航行したことは、自船の存在、種類、状態あるいは大きさ等を明確に示すことができないため、他の船舶に対し、適用航法を判断して衝突回避のために必要な措置をとらせることを困難にさせたばかりか、衝突の危険性を増大させたことにもなり、遺憾である。今後、アオリイカを対象とする釣りを行うときといえども、夜間に航行するときには、必ず法定灯火を表示しなければならない。
 タケシ丸が、法定灯火を表示せずに遊漁を行ったことについては、帰途に就く際に同灯火を表示したことに徴し、本件発生の原因をなしたものとは認めないが、A受審人が遊漁中、大浜漁港港口付近で明かりを明確に確認できない状態で操業中の里香丸を約20メートルの距離で、更に、薩英戦争砲台跡付近の海岸の沖合で明かりを点けずに遊漁中のプレジャーボート1隻を約15メートルの距離でそれぞれ認めており、同漁港周辺海域には無灯火船等が存在することを予想できる状況であり、帰航のため同海域を航行する際、前示の距離に接近しなければ無灯火船等を確実に認知することができなかったのであるから、無灯火船等の存在を認知して衝突回避のために必要な措置をとるための時間的、距離的な余裕が得られる見張りを十分に行うことができるよう、そのときの状況に適した距離で衝突を避けるための措置をとることができる安全な速力で進行する必要があった。ところが、同受審人は、20ノットという過大な速力で進行して前示見張りを十分に行うことができず、里香丸に気付かないまま同船との衝突を招いたものであり、安全な速力で進行しなかったことは、本件発生の原因となる。
 里香丸が、夜間、法定灯火を取り付けたマストを取り外し、同灯火を表示せずに航行したことは本件発生の原因となる。B受審人が、操業のために光力の微弱な単3乾電池2本で作動する赤色点滅灯1個を点灯し、同点滅灯の明かりが自らの陰になって左舷前方からは明確に確認できない状態で操業する際、自船の存在、種類、状態あるいは大きさ等を明確に示すことができない状況であったから、周囲の見張りを十分に行い、衝突のおそれがある態勢で接近する他船を認めたならば、同点滅灯を高く掲げて大きく振るなど自船の存在を示すための適切な措置をとり、かつ、機関を使用するなどして衝突を避けるための措置をとる必要があった。ところが、同受審人は、周囲の見張りを十分に行わず、タケシ丸に気付かないまま同船との衝突を招いたものであり、周囲の見張りを十分に行わなかったことは、本件発生の原因となる。 

(原因)
 本件衝突は、夜間、鹿児島県大浜漁港南方沖合において、無灯火船等が存在することを予想できる状況下、タケシ丸が、自らも法定灯火を表示せずに遊漁を行ったのち、航行中の動力船の灯火を表示して帰航する際、そのときの状況に適した距離で衝突を避けるための措置をとることができる安全な速力で進行せず、操業のために光力の微弱な明かりのみを点灯して南西方に極低速力で航行中の里香丸との衝突を避けるための措置をとらなかったことと、里香丸が、法定灯火を表示しなかったばかりか、見張り不十分で、タケシ丸に対して自船の存在を示すための適切な措置をとらず、衝突を避けるための措置もとらなかったこととによって発生したものである。
 
(受審人の所為)
 A受審人は、夜間、鹿児島県大浜漁港南方沖合において、無灯火船等が存在することを予想できる状況下、自らも法定灯火を表示せずに遊漁を行ったのち、航行中の動力船の灯火を表示して帰航する場合、それまで自船を含めて無灯火あるいは光力の微弱な明かりのみを点けて遊漁あるいは操業を行う漁船やプレジャーボートを、月明かりで極近距離に認めていたのであるから、衝突回避措置をとるための時間的、距離的な余裕が得られる見張りを行うことができるよう、そのときの状況に適した距離で衝突を避けるための措置をとることができる安全な速力で進行するべき注意義務があった。ところが、同受審人は、夜が更けてきて遅くなったので、もうこの時間にアオリイカを対象として釣りをしている漁船もプレジャーボートもいないものと思い、そのときの状況に適した距離で衝突を避けるための措置をとることができる安全な速力で進行しなかった職務上の過失により、衝突回避措置をとるための時間的、距離的な余裕が得られる見張りを十分に行うことができず、里香丸との衝突を避けるための措置をとらないまま進行して同船との衝突を招き、タケシ丸の船首部に擦過傷を、里香丸のカンヌキの左舷側折損、左舷側外板に亀裂及び船外機取り付け部に曲損をそれぞれ生じさせ、B受審人に左脛腓骨骨折及び左撓骨骨折等を負わせるに至った。
 以上のA受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。
 B受審人は、夜間、鹿児島県大浜漁港南方沖合において、マストを取り外して法定灯火を表示することなく、操業のために光力の微弱な明かりのみを点けて南西方に極低速力で航行する場合、接近する他船を見落とさないよう、周囲の見張りを十分に行うべき注意義務があった。ところが、同受審人は、発航後操業や遊漁を行う船舶を見かけなかったので周囲に他船はいないものと思い、周囲の見張りを十分に行わなかった職務上の過失により、航行中の動力船の灯火を表示して接近するタケシ丸に気付かず、赤色点滅灯を高く掲げて大きく振るなど自船の存在を示すための適切な措置をとらず、機関を使用するなどして衝突を避けるための措置もとらないまま進行してタケシ丸との衝突を招き、前示の事態を招くに至った。
 以上のB受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。

 よって主文のとおり裁決する。


参考図
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