日本財団 図書館




 海難審判庁採決録 >  2003年度(平成15年) > 衝突事件一覧 >  事件





平成15年広審第82号
件名

プレジャーボート富士丸プレジャーボート昌徳丸衝突事件(簡易)

事件区分
衝突事件
言渡年月日
平成15年10月23日

審判庁区分
広島地方海難審判庁(西田克史)

副理事官
園田 薫

受審人
A 職名:富士丸船長 操縦免許:小型船舶操縦士
B 職名:昌徳丸船長 操縦免許:小型船舶操縦士

損害
富士丸・・・船首部水切りを折損
昌徳丸・・・船尾部外板を破損及び舵棒を曲損、船首部船底に亀裂、船長が顔面神経麻痺等

原因
富士丸・・・見張り不十分、追越し船の航法(避航動作)不遵守(主因)
昌徳丸・・・見張り不十分、音響による注意喚起警告信号不履行、追越し船の航法(協力動作)不遵守(一因)

裁決主文

 本件衝突は、富士丸が、見張り不十分で、昌徳丸を確実に追い越し、かつ、十分に遠ざかるまでその進路を避けなかったことによって発生したが、昌徳丸が、見張り不十分で、避航を促すための有効な音響による信号を行わず、衝突を避けるための協力動作をとらなかったことも一因をなすものである。
 受審人Aを戒告する。
 受審人Bを戒告する。
 
裁決理由の要旨

(事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
 平成15年4月23日07時10分
 愛媛県新居浜港第1区
 
2 船舶の要目
船種船名 プレジャーボート富士丸 プレジャーボート昌徳丸
全長 7.82メートル  
登録長   5.30メートル
機関の種類 ディーゼル機関 ディーゼル機関
出力 66キロワット 7キロワット

3 事実の経過
 富士丸は、FRP製プレジャーボートで、A受審人(昭和54年8月四級小型船舶操縦士免許取得)が1人で乗り組み、きす釣りの目的で、船首0.20メートル船尾1.10メートルの喫水をもって、平成15年4月23日06時54分愛媛県新居浜港第1区の港奥にある大江橋付近の係留地を発し、同港北方沖合の四阪島周辺の釣場に向かった。
 A受審人は、機関室囲壁の後ろに立って操舵輪を握り、操舵と見張りにあたって西行したのち、大江岸壁南西岸を右舷側至近に離して同岸壁沿いに北上を続け、07時08分少し過ぎ新居浜港東防波堤灯台(以下、灯台の名称は「新居浜港」の冠名を省略する。)から173度(真方位、以下同じ。)900メートルにあたる大江岸壁西端に並んだ地点で、針路を前方の西防波堤灯台を船首目標にそのわずか右に向けて337度に定め、機関を港内全速力前進にかけ、9.0ノットの対地速力で手動操舵により進行した。
 定針したとき、A受審人は、正船首225メートルのところに北上中の昌徳丸を視認でき、その後、同船を追い越す態勢で接近する状況であったが、そのころ右方から来航する引船列を認め、これまで早朝に運航している引船列を見たことがなかったのでそれに気を取られ、前路の見張りを十分に行っていなかったので、そのことに気付かず、昌徳丸の右舷側に出て航行するなど同船を確実に追い越し、かつ、十分に遠ざかるまでその進路を避けないまま続航した。
 こうして、A受審人は、07時10分少し前主機の温度を測定しようと足もとの機関室出入口の扉を開け、同室内に設けられた温度計を覗き込んでいたところ、07時10分東防波堤灯台から191度440メートルの地点において、富士丸は、原針路、原速力のまま、その船首が、昌徳丸の船尾に後方から平行に衝突した。
 当時、天候は晴で風力1の南東風が吹き、潮候は下げ潮の中央期であった。
 また、昌徳丸は、FRP製プレジャーボートで、B受審人(昭和53年8月四級小型船舶操縦士免許取得)が1人で乗り組み、きす釣りの目的で、船首0.05メートル船尾0.50メートルの喫水をもって、同日06時49分大江橋付近の係留地を発し、新居浜港第3区の御代島西方沖合の釣場に向かった。
 B受審人は、船尾部両舷に渡した板に腰を下ろして舵棒を握り、操舵と見張りにあたって西行したのち、大江岸壁南西岸を右舷側至近に離して同岸壁沿いに北上を続け、07時06分半少し過ぎ東防波堤灯台から173度900メートルにあたる大江岸壁西端に並んだ地点で、針路を前方の西防波堤灯台を船首目標にそのわずか右に向けて337度に定め、機関を港内全速力前進にかけ、5.0ノットの対地速力で手動操舵により進行した。
 07時08分少し過ぎB受審人は、東防波堤灯台から178度685メートルの地点に達したとき、正船尾225メートルのところに北上中の富士丸を視認でき、その後、自船に向首し追い越す態勢で接近する状況であったが、追い越そうとする他船があれば自船を避けるものと思い、後方の見張りを十分に行っていなかったので、そのことに気付かず、避航を促すための有効な音響による信号を行うことも、更に間近に接近したとき右転するなど衝突を避けるための協力動作をとることもなく続航した。
 こうして、B受審人は、07時10分わずか前船尾方に機関音を聞き振り返ったところ、至近に迫った富士丸を初めて視認したが、どうすることもできず、昌徳丸は、原針路、原速力のまま、前示のとおり衝突した。
 衝突の結果、富士丸は、船首部水切りを折損し、昌徳丸は、船尾部外板を破損及び舵棒を曲損するとともに、衝突したのち西防波堤南側の消波堤に乗り揚げて船首部船底に亀裂を生じたが、のちいずれも修理され、衝突の衝撃で海中に転落したB受審人が顔面神経麻痺等を負った。 

(原因)
 本件衝突は、愛媛県新居浜港第1区において、両船が相前後して同一針路で航行中、後続する富士丸が、見張り不十分で、先航する昌徳丸を確実に追い越し、かつ、十分に遠ざかるまでその進路を避けなかったことによって発生したが、昌徳丸が、見張り不十分で、避航を促すための有効な音響による信号を行わず、衝突を避けるための協力動作をとらなかったことも一因をなすものである。
 
(受審人の所為)
 A受審人は、愛媛県新居浜港第1区を北上する場合、前路を航行する昌徳丸を見落とさないよう、前路の見張りを十分に行うべき注意義務があった。しかるに、同人は、右方から来航する引船列に気を取られ、前路の見張りを十分に行わなかった職務上の過失により、昌徳丸を追い越す態勢で接近していることに気付かず、その進路を避けないまま進行して昌徳丸との衝突を招き、富士丸の船首部水切りを折損させ、昌徳丸の船尾部外板を破損及び舵棒を曲損、更に同船を消波堤に乗り揚げさせて船首部船底に亀裂を生じさせたうえ、海中に転落したB受審人に顔面神経麻痺等を負わせるに至った。
 以上のA受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。
 B受審人は、愛媛県新居浜港第1区を北上する場合、後方から接近する富士丸を見落とさないよう、後方の見張りを十分に行うべき注意義務があった。しかるに、同人は、追い越そうとする他船があれば自船を避けるものと思い、後方の見張りを十分に行わなかった職務上の過失により、自船に向首し追い越す態勢で接近している富士丸に気付かず、同船に対して避航を促すための有効な音響による信号を行うことも、衝突を避けるための協力動作をとることもなく進行して富士丸との衝突を招き、両船に前示の損傷を生じさせ、自身が負傷するに至った。
 以上のB受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。


参考図
(拡大画面:21KB)





日本財団図書館は、日本財団が運営しています。

  • 日本財団 THE NIPPON FOUNDATION