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平成15年広審第68号
件名

貨物船泉翔漁船蛭子丸衝突事件

事件区分
衝突事件
言渡年月日
平成15年10月22日

審判庁区分
広島地方海難審判庁(道前洋志、高橋昭雄、佐野映一)

理事官
岩渕三穂

受審人
A 職名:泉翔船長 海技免許:四級海技士(航海)
B 職名:蛭子丸船長 操縦免許:小型船舶操縦士

損害
泉 翔・・・左舷側中央部に擦過傷及びハンドレールに曲損
蛭子丸・・・船首部圧壊

原因
泉 翔・・・見張り不十分、各種船間の航法(避航動作)不遵守(主因)
蛭子丸・・・動静監視不十分、音響による注意喚起警告信号不履行、各種船間の航法(協力動作)不遵守(一因)

主文

 本件衝突は、泉翔が、見張り不十分で、漁ろうに従事している蛭子丸の進路を避けなかったことによって発生したが、蛭子丸が、動静監視不十分で、避航を促すための有効な音響による信号を行わず、衝突を避けるための協力動作をとらなかったことも一因をなすものである。
 受審人Aを戒告する
 受審人Bを戒告する。
 
理由

(事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
 平成14年11月11日23時35分
 瀬戸内海 燧灘西部
 
2 船舶の要目
船種船名 貨物船泉翔 漁船蛭子丸
総トン数 744トン 4.99トン
全長 80.73メートル  
登録長   9.98メートル
機関の種類 ディーゼル機関 ディーゼル機関
出力 2,206キロワット  
漁船法馬力数   15

3 事実の経過
 泉翔は、船首船橋型鋼製貨物船で、A受審人ほか4人が乗り組み、鋼材1,252トンを載せ、船首3.8メートル船尾4.7メートルの喫水をもって、平成14年11月11日14時30分関門港小倉区を発し、大阪港堺泉北区に向かった。
 A受審人は、22時50分梶取ノ鼻北方沖合で前直の二等航海士から引継いで単独の船橋当直に就き、法定の灯火を表示し、来島海峡航路中水道を通航時から尿意を催し始め、23時24分半竜神島灯台から109度(真方位、以下同じ。)1,400メートルの地点に達したとき、右方で操業中の2隻の漁船を避航するため針路を060度に定めて自動操舵とし、機関を全速力前進にかけて14.5ノットの速力(対地速力、以下同じ。)で進行した。
 23時30分少し前A受審人は、竜神島灯台から078度1.8海里の地点で、2隻の漁船が替わったので備後灘航路第1号灯浮標の南方に向かうため針路を070度に転じて続航した。
 ところが、23時32分A受審人は、竜神島灯台から076度2.4海里の地点で、それまで催していた尿意を強く感じるようになって船橋を一時的に離れようとしたが、短時間で船橋に戻るつもりで取りあえず左舷船首方に認めていた漁船群を少し左方に替わしておけばよいものと思い、他の乗組員を昇橋させて見張りを十分に行うようにすることなく、強い尿意で急を要するあまり、左舷船首4度1,100メートルにトロールにより漁ろうに従事していることを示す蛭子丸の灯火に気付かず、船首を少しばかり右に向けて針路を075度に転じただけで、無人にしたまま降橋した。しかし、転針したことによって左舷船首9度1,100メートルとなった蛭子丸とその後衝突のおそれがある態勢で接近する状況となったが、このことに気付かず、同船の進路を避けないまま進行した。
 A受審人は、階下で小便を済ませ更に大便も済ませて昇橋の途中、23時35分竜神島灯台から076度3.1海里の地点において、泉翔は、原針路、原速力のまま、その左舷側中央部に蛭子丸の船首が後方から42度の角度で衝突した。
 当時、天候は晴で風はなく、潮候は上げ潮の初期であった。
 また、蛭子丸は、底びき網漁業に従事するFRP製漁船で、B受審人(昭和50年7月一級小型船舶操縦士免許取得)が1人で乗り組み、操業の目的で、船首0.15メートル船尾1.00メートルの喫水をもって、同日09時00分愛媛県今治港を発し、燧灘沖ノ瀬付近に至って操業を繰り返した。
 ところで、蛭子丸の操業は、操舵室後方の甲板上に設けられたネットホーラから延出された2本のワイヤロープの先端に、網口開口用桁を取り付けた長さ約50メートルの網を連結して引網するもので、1回の操業時間は約2時間であった。
 B受審人は、23時20分半竜神島灯台から065度2.6海里の地点で、トロールにより漁ろうに従事していることを示す法定の灯火を表示し、針路を117度に定めて自動操舵とし、機関を全速力前進にかけて3.0ノットの速力で、7回目の操業を開始した。
 23時30分B受審人は、竜神島灯台から073度3.0海里の地点に達したとき、右舷正横後33度1海里のところに自船に接近する泉翔の灯火を初めて視認したものの、衝突のおそれがあれば法定の灯火を表示して漁ろうに従事している自船の進路を避けてくれるものと思い、その動静監視を十分に行うことなく、船首部甲板において魚の選別作業を行いながら操業を続けた。同時32分右舷正横後39度1,100メートルのところに泉翔が認められるようになり、その後同船と衝突のおそれがある態勢で接近する状況であったが、依然その動静監視を十分に行わないまま魚の選別作業を続けて、このことに気付かず、同時34分泉翔が自船の進路を避けないで同方向380メートルに接近していたが、避航を促すための有効な音響による信号を行わず、更に間近に接近しても機関を停止するなど衝突を避けるための協力動作をとらないまま続航した。
 23時35分少し前B受審人は、右舷後方至近に迫った泉翔を認め、急いで機関を停止したが及ばず、蛭子丸は、原針路、原速力のまま前示のとおり衝突した。
 衝突の結果、泉翔は左舷側中央部に擦過傷及びハンドレールに曲損を生じ、蛭子丸は船首部を圧壊したが、のちそれぞれ修理された 

(原因)
 本件衝突は、夜間、燧灘西部において、東行中の泉翔が、見張り不十分で、漁ろうに従事している蛭子丸の進路を避けなかったことによって発生したが、蛭子丸が、動静監視不十分で、避航を促すための有効な音響による信号を行わず、衝突を避けるための協力動作をとらなかったことも一因をなすものである。
 
(受審人の所為)
 A受審人は、夜間、単独の船橋当直に就いて燧灘西部を東行中、尿意を強く催すようになって一時的に船橋を離れる場合、他の乗組員を昇橋させて見張りを十分に行うようにすべき注意義務があった。しかるに、同人は、短時間で船橋に戻るつもりで取りあえず左舷船首方の漁船群を少し左方に替わしておけばよいものと思い、他の乗組員を昇橋させて見張りを十分に行うようにしなかった職務上の過失により、無人にしたまま降橋し、漁ろうに従事して衝突のおそれがある態勢で接近している蛭子丸に気付かず、その進路を避けないまま進行して同船との衝突を招き、泉翔の左舷側中央部に擦過傷及びハンドレールに曲損を生じさせ、蛭子丸の船首部を圧壊させるに至った。
 以上のA受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。
 B受審人は、夜間、燧灘西部において、単独でトロールにより漁ろうに従事中、右舷後方に自船に接近する泉翔の灯火を視認した場合、衝突のおそれの有無を判断できるよう、その動静監視を十分に行うべき注意義務があった。しかるに、同人は、衝突のおそれがあれば法定の灯火を表示して漁ろうに従事している自船の進路を避けてくれるものと思い、その動静監視を十分に行わなかった職務上の過失により、魚の選別作業を続けて泉翔が自船の進路を避けないで接近していることに気付かず、機関を停止するなど衝突を避けるための協力動作をとらないまま進行して同船との衝突を招き、前示の損傷を生じさせるに至った。
 以上のB受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。

 よって主文のとおり裁決する。


参考図





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