(事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
平成15年2月18日08時00分
愛媛県西垣生泊地西方沖合
2 船舶の要目
船種船名 |
漁船第11繁久丸 |
漁船新栄丸 |
総トン数 |
4.5トン |
2.17トン |
登録長 |
10.82メートル |
7.13メートル |
機関の種類 |
ディーゼル機関 |
ディーゼル機関 |
漁船法馬力数 |
90 |
25 |
3 事実の経過
第11繁久丸(以下「繁久丸」という。)は、船曳網漁の探索船として使用されるFRP製漁船で、A受審人(昭和63年9月四級小型船舶操縦士免許取得)が平成14年12月に購入してその名義を変更手続き中のところ1人で乗り組み、魚群探索の目的で、船首0.2メートル船尾1.5メートルの喫水をもって、翌15年2月18日07時45分愛媛県松前漁港を発し、同漁港西方沖合の漁場に向かった。
A受審人は、操舵室中央のいすに腰を掛けて操船にあたり、間もなく港外の漁場に至って速力を10ノットばかりの半速力前進とし、魚群探知機を監視しながら北上を始めたものの、魚影が見つからなかったので魚群探索を止めて釣島付近の漁場に移動することとし、07時58分少し前松山港垣生外防波堤北灯台(以下「北灯台」という。)から182度(真方位、以下同じ。)810メートルの地点で、針路を標高151メートルの釣島山頂に向けて337度に定め、機関を全速力前進にかけ、20.0ノットの対地速力で手動操舵により進行した。
定針したとき、A受審人は、正船首方1,380メートルのところに新栄丸を視認することができ、その後、衝突のおそれがある態勢で停留中の同船に接近している状況であったが、一べつしただけで前路に他船はいないものと思い、前路の見張りを十分に行わなかったので、新栄丸に気付かず、同船を避けずに続航した。
こうして、A受審人は、船首目標の山頂を見たり右方の西垣生泊地からの出漁船の有無に注意して進行中、08時00分北灯台から309度720メートルの地点において、繁久丸は、原針路、原速力のまま、その左舷船首が、新栄丸の右舷船尾端に後方から15度の角度で衝突した。
当時、天候は晴で風力1の東風が吹き、視界は良好で、潮候は上げ潮の末期であった。
また、新栄丸は、左舷後部に揚縄用のローラを備えたたこつぼ漁に従事するFRP製漁船で、B受審人(昭和56年2月一級小型船舶操縦士免許取得)が1人で乗り組み、操業の目的で、船首0.2メートル船尾0.5メートルの喫水をもって、同日07時40分愛媛県西垣生泊地を発し、同泊地西方沖合の漁場に向かった。
B受審人は、07時50分前示衝突地点付近に到着して機関を中立とし、2日前南北方向に仕掛けた長さ約1,100メートルのたこつぼの幹縄南端部付近で揚縄に取り掛かり、四爪錨を付けたロープを海底に下ろして幹縄を探り始めた。
07時58分少し前B受審人は、衝突地点で船首を322度に向けて停留し、ローラの直ぐ側で左舷方を向き四爪錨に幹縄を引っ掛けてそれを引き揚げていたとき、左舷船尾15度1,380メートルのところに繁久丸を視認することができ、その後、同船が衝突のおそれがある態勢で接近している状況であったが、揚縄作業に気を取られ、周囲の見張りを十分に行わなかったので、繁久丸に気付かなかった。
こうして、B受審人は、繁久丸が自船を避けないまま接近したものの、同船に対して避航を促すための有効な音響による信号を行わず、更に間近に接近したとき衝突を避けるための措置をとらずに停留を続け、08時00分少し前船上に揚がった幹縄をローラに掛けて四爪錨を船尾部に収納しようと船尾方に顔を向けたとき、至近に迫った繁久丸を初めて視認し、大声をあげて手を振ったが効なく、新栄丸は、322度に向首したまま、前示のとおり衝突した。
衝突の結果、繁久丸は、左舷船首部外板に亀裂を生じ、新栄丸は、右舷船尾部外板に破口を生じたが、のちいずれも修理され、B受審人が2週間の入院加療を要する鼻骨骨折のほか、頸部捻挫等を負った。
(原因)
本件衝突は、愛媛県西垣生泊地西方沖合において、北上する繁久丸が、見張り不十分で、停留中の新栄丸を避けなかったことによって発生したが、新栄丸が、見張り不十分で、避航を促すための有効な音響による信号を行わず、衝突を避けるための措置をとらなかったことも一因をなすものである。
(受審人の所為)
A受審人は、愛媛県西垣生泊地沖合を漁場移動のため北上する場合、停留中の新栄丸を見落とさないよう、前路の見張りを十分に行うべき注意義務があった。しかるに、同人は、定針時に一べつしただけで前路に他船はいないものと思い、前路の見張りを十分に行わなかった職務上の過失により、新栄丸に気付かず、同船を避けないまま進行して、新栄丸との衝突を招き、繁久丸の左舷船首部外板に亀裂を、新栄丸の右舷船尾部外板に破口をそれぞれ生じさせ、B受審人に鼻骨骨折、頸部捻挫等を負わせるに至った。
以上のA受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。
B受審人は、愛媛県西垣生泊地西方沖合において、停留して左舷側でたこつぼの揚縄作業を行う場合、船尾方から自船に向かって接近する繁久丸を見落とさないよう、周囲の見張りを十分に行うべき注意義務があった。しかるに、同人は、同作業に気を取られ、周囲の見張りを十分に行わなかった職務上の過失により、繁久丸に気付かず、避航を促すための有効な音響による信号を行うことも、更に間近に接近したとき衝突を避けるための措置もとらないまま停留を続けて同船との衝突を招き、前示のとおり両船に損傷を生じさせ、自身も負傷するに至った。
以上のB受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。
よって主文のとおり裁決する。