(事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
平成14年8月2日04時40分
愛媛県生名港港外
2 船舶の要目
船種船名 |
漁船大本丸 |
プレジャーボートホビー |
総トン数 |
0.88トン |
0.50トン |
全長 |
3.85メートル |
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登録長 |
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5.82メートル |
機関の種類 |
電気点火機関 |
ディーゼル機関 |
出力 |
30キロワット |
30キロワット |
3 事実の経過
大本丸は、甲板を有しない箱形のFRP製漁船で、船外機を装備し、灯火の設備がなく専ら昼間に出漁して刺網漁業に従事していたところ、A受審人(昭和49年11月一級小型船舶操縦士免許取得)ほか1人が乗り組み、刺網を揚網する目的で、船首尾0.2メートルの等喫水をもって、平成14年8月2日04時30分愛媛県生名島の南部東岸に位置する生名港を出港し、同港港外の漁場に向かった。
これより先、A受審人は、前日09時ごろ揚網した折、網に刺さった魚の一部が腐りかけていたことから、この日は日出前に乗船して直ぐに出漁準備を終えたもので、薄明時とはいえ周囲は未だ暗闇であったが、早く揚網しようと思い、日出まで出漁を待たなかった。
04時33分A受審人は、漁場に着き、生名港沖防波堤北灯台(以下「沖防波堤北灯台」という。)の南東方140メートル付近から南方向に仕掛けておいた底刺網の北端を取り込んで船外機を停止し、左舷側から揚網するうち、同時37分漁網が海底に根掛かりし、力を加えて引き揚げるつもりで、南西方に向首して停留し、船上の漁網を左舷船首部のたつに止め、船尾部の左右舷縁上に渡した板の右端に腰掛け、船外機を短時間だけ繰り返し前進にかける一方、単一乾電池4個を直列に配して電源とした白色懐中電灯の1個を自身の左横に、他の1個を足下の逆さまにしたバケツの上にそれぞれ置いてたつの付近を照らし、甲板員を漁網の監視にあたらせた。
04時38分少し前A受審人は、沖防波堤北灯台から146度(真方位、以下同じ。)160メートルの地点で、船首が233度に向いていたとき、右舷船尾45度600メートルにホビーの白、紅、緑の各灯火を視認でき、その後同船が衝突のおそれがある態勢で接近することを認め得る状況であったが、見張りを十分に行わなかったので、この状況に気付かず、ホビーが避航の気配を見せないで更に接近したものの、同船に対して懐中電灯を照射するなど注意喚起信号を行うことなく、船外機の操作を続けた。
04時39分A受審人は、漁網を引き揚げることが難しく南端部から揚網し直すこととし、再び船外機を停止して、甲板員に船体中央部の左舷側で漁網の継目を解く作業に取り掛からせ、自身の左横に置いていた懐中電灯を手に持って甲板員の手元を照らし、同時40分わずか前ようやく作業が終わりかけ、同電灯を点灯したまま左舷船尾方に向けて元の位置に戻し、南端部の浮きを拾うために船外機を始動しようとした直後、04時40分沖防波堤北灯台から146度160メートルの地点において、大本丸は、船首を233度に向け、その船尾ほぼ中央部にホビーの船首が後方から45度の角度で衝突した。
当時、天候は曇で風はほとんどなく、視界は良好で、潮候はほぼ高潮時にあたり、日出は05時18分、月齢は22.6であった。
また、ホビーは、船体後部の甲板上に機関室囲壁を設けてその後方に操縦席を配し、舵柄を備えたFRP製プレジャーボートで、B受審人(昭和52年10月四級小型船舶操縦士免許取得)が1人で乗り組み、魚釣りの目的で、船首0.2メートル船尾1.0メートルの喫水をもって、同日04時30分生名島の北部東岸に位置する立石港を出港し、同島南西方の津波島沖合の釣り場に向かった。
B受審人は、前部マスト頂部に白色全周灯及びこの下方に両色灯を表示し、機関を半速力前進にかけて8.5ノットの対地速力とし、生名島東岸沿いに南下したのち、04時38分少し前沖防波堤北灯台から021度480メートルの地点で、針路を188度に定め、操縦席の右舷寄りで見張りと操舵にあたった。
針路を定めたとき、B受審人は、正船首600メートルに大本丸が南西方を向首して停留していたものの、同船が法定灯火を表示していないうえ、懐中電灯の明かりを右舷船尾から左舷船首方に向けていたので、大本丸の存在とその後同船に衝突のおそれがある態勢で接近することを認めることができないまま進行し、ホビーは、原針路、原速力で、前示のとおり衝突した。
衝突の結果、大本丸は船尾外板に亀裂を生じたほか、船外機が水没して濡損を被ったが、のち修理され、ホビーは船首外板に擦過傷を生じ、A受審人が海中に転落し、8日間の入院とその後の通院を要する両肺水腫、肺炎及び呼吸不全を負った。
(原因に対する考察)
本件衝突は、夜間、大本丸が法定灯火を表示しないで、懐中電灯2個を船首方に向け照射して停留中、その後方からホビーが接近したものである。
夜間におけるホビーから大本丸の視認状況についての実況見分調書写によると、月等の状況を勘案して衝突時とほぼ同条件となる時刻を選んだうえ、A、B両受審人の衝突当時の明るさと同様であるとの報告を受け、大本丸、ホビー両船間で連絡を取り合い、ホビーが衝突地点に向けて航走を開始したところ、大本丸の懐中電灯の明かりは視認できず、同船の船影を視認した距離は52.85メートルであったことが確認されている。
この点について、B受審人は、当廷において、「前方の大本丸に50メートル近くまで接近していることを知っていたので、目を凝らして船影を視認することができたが、同船の存在を知らなかったならば、視認することができたかどうか分からない。」旨の供述をしている。
海上衝突予防法第5条に定める見張りは、その対象を周囲としており、船首方の限られた方向のみを注視することを求めているものではなく、一方、見張りを行う者にとっても、無灯火の船舶が存在することを前提とはしておらず、現に、B受審人に対する質問調書中、「坪木島付近で漁船が回転灯を点灯させていたので、少し外寄りの針路をとった。」旨の供述記載があり、周囲の見張りを行い、視野にある灯火をもとに状況を把握していたことが認められる。
そして、船影を視認したとしても、動静を監視して衝突のおそれの有無やいずれの方向に転舵すべきかあるいは機関を停止すべきかなどを判断するために、ある程度の時間的余裕を必要とし、前示の52.85メートルという距離が、無灯火の船舶の存在を前提としない一般の見張り方法とは異なる状況下において、ホビーから大本丸を視認し得る最大限のもので、ホビーの速力からすると衝突のわずか12秒前でしかないことを考えると、大本丸の存在を知らずに接近したとき、衝突を避けるための措置をとるのに十分に余裕のある時期に、ホビーが大本丸を視認することができたとは認められない。
従って、本件衝突に関し、ホビーに原因はなく、大本丸がその存在を示さなかったこと、すなわち、灯火の設備がないにもかかわらず日出前に出漁したこと、さらに、見張り不十分で、接近するホビーに対して懐中電灯を照射するなど注意喚起信号を行わなかったことのいずれをも原因とするのが相当である。
(原因)
本件衝突は、夜間、生名港において、灯火設備のない大本丸が、日出を待って出漁しなかったばかりか、同港港外で海底に根掛かりした漁網を引き揚げるため停留中、見張り不十分で、接近するホビーに対して注意喚起信号を行わなかったことによって発生したものである。
(受審人の所為)
A受審人は、夜間、生名港において、刺網漁の出漁準備を終えた場合、自船に灯火設備がなかったから、日出を待って出漁すべき注意義務があった。しかし、同人は、前日の昼間に揚網した折、網に刺さった魚の一部が腐りかけていたことから、早く揚網しようと思い、日出を待って出漁しなかった職務上の過失により、ホビーとの衝突を招き、大本丸の船尾外板に亀裂及び船外機に濡損を、ホビーの船首外板に擦過傷をそれぞれ生じさせ、自身が両肺水腫、肺炎及び呼吸不全を負うに至った。
以上のA受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。
B受審人の所為は、本件発生の原因とならない。
よって主文のとおり裁決する。