(事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
平成14年12月9日05時30分
徳島県徳島小松島港北方沖合
2 船舶の要目
船種船名 |
漁船金比羅丸 |
総トン数 |
13.42トン |
登録長 |
14.98メートル |
機関の種類 |
ディーゼル機関 |
漁船法馬力数 |
25 |
3 事実の経過
金比羅丸は、中央船橋型FRP製漁船で、平成14年3月26日交付の一級小型船舶操縦士免状を受有するA受審人が1人で乗り組み、底びき網漁の目的で、船首0.15メートル船尾0.25メートルの喫水をもって、平成14年12月8日21時00分徳島県徳島小松島港の津田漁船船だまりを発し、同港沖合の漁場に向かった。
ところで、徳島小松島港北方には、川内漁業協同組合が管理するのり養殖施設(以下「養殖施設」という。)があり、今切港(いまぎれこう)長原導流堤灯台から、223度(真方位、以下同じ。)350メートル、140度370メートル、123度870メートル、127度1,460メートル、157度2,400メートル及び187度2,230メートルの各地点によって囲まれた同施設東縁には、いずれも黄色毎4秒1閃(せん)の簡易標識灯が約400メートル間隔で設置されていた。
養殖施設内には、のり網が多数設置され、同施設内の東縁に位置するのり網の東側には10個の浮子が取り付けられ、南北両端の浮子の東方約100メートルにはそれぞれ前示簡易標識灯があった。そして、A受審人は、これまでにも付近の海域で操業を繰り返し行い、養殖施設が存在することを十分に承知していた。
A受審人は、徳島小松島港東方沖合の沖ノ瀬付近の漁場に到着し、2回の操業を行ったのち、北方へ移動し、翌9日05時00分頃3回目の揚網を終え、網洗い及び魚の選別作業をしていたとき、前示簡易標識灯の灯火を認めた。
05時28分A受審人は、船首を陸岸方向の270度に向けて漂泊しながら、簡易標識灯の1つを右舷船首80度200メートルばかりに見て、養殖施設が近いことを知り、その場を離れることとした。
05時28分半A受審人は、今切港長原導流堤灯台から142度1,740メートルの地点において、発進することとしたが、養殖施設に接近するまでには、まだ十分に余裕があるものと思い、レーダーを活用するなどして、同施設までの距離の確認を十分に行わなかった。
その後A受審人は、少しばかり進出したのち左回りに反転する予定で、針路を270度に定め、2.6ノットの対地速力で進行中、養殖施設への接近に気付くことなく、05時30分今切港長原導流堤灯台から145度1,670メートルの地点において、ようやく左回頭をはじめようとしたとき、金比羅丸は原針路原速力のまま、その船首が同施設に衝突した。
当時、天候は晴で風力2の北西風が吹き、潮候は上げ潮の中央期で、視界は良好であった。
その結果、養殖施設は、のり網及びアンカーロープに損傷を生じ、新替えされた。
一方、金比羅丸は、推進器に同ロープが絡まり、推進器翼及び推進器軸が曲損、主機クラッチが損傷して航行不能となり、折から操業中の養殖施設所有者の船により引き出されたのち、僚船によって発航地に曳航(えいこう)され、のち修理された。
(原因)
本件のり養殖施設衝突は、夜間、徳島小松島港北方沖合において、揚網を終えて移動する際、養殖施設までの距離の確認が不十分で、陸岸沿いの海域に設置された同施設に進行したことによって発生したものである。
(受審人の所為)
A受審人は、夜間、徳島小松島港北方沖合において揚網を終えて漂泊中、のり養殖施設に設置された簡易標識灯を視認し移動する場合、同施設に接近しないよう、レーダーを活用するなどして、養殖施設までの距離の確認を十分に行うべき注意義務があった。ところが、同人は、養殖施設に接近するまでには、まだ十分に余裕があるものと思い、養殖施設までの距離の確認を十分に行わなかった職務上の過失により、同施設に接近していることに気付かないまま進行して同施設への衝突を招き、養殖施設ののり網及びアンカーロープに損傷を生じさせ、金比羅丸の推進器に同ロープを絡ませ、推進器翼及び推進器軸を曲損させ、主機クラッチを損傷させるに至った。
以上のA受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。
よって主文のとおり裁決する。