(事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
平成14年9月17日14時55分
高知県高知港
2 船舶の要目
船種船名 |
貨物船第三和壮丸 |
漁船幸進丸 |
総トン数 |
748トン |
3.63トン |
全長 |
86.00メートル |
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登録長 |
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8.90メートル |
機関の種類 |
ディーゼル機関 |
ディーゼル機関 |
出力 |
1,618キロワット |
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漁船法馬力数 |
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15 |
3 事実の経過
第三和壮丸(以下「和壮丸」という。)は、船尾船橋型の鋼製貨物船で、A受審人ほか4人が乗り組み、空倉で海水バラスト約700トンを張り、船首2.3メートル船尾3.2メートルの喫水をもって、平成14年9月17日04時50分和歌山県和歌山下津港を発し、高知港へ向かった。
ところで、A受審人は、平成10年3月ごろから航海士として、同14年2月からは船長として和壮丸に乗船し、月に20回ぐらいの割合でほぼ定期的に高知港へ入出港しており、港の入り口や港内の操業漁船の存在を承知していた。
14時48分A受審人は、単独の船橋当直にあたり、高知港南防波堤東仮設灯台(以下「仮設灯台」という。)から097度(真方位、以下同じ。)1.7海里の地点で、針路を防波堤入り口ほぼ中央に向かう282度に定め、機関を全速力前進にかけ、12.0ノットの速力(対地速力、以下同じ。)で手動操舵により進行した。
定針時、A受審人は、左舷船首方の南防波堤東端付近に数隻の小型船を認め、その動きが低速力でぐるぐる旋回していることから、操業中の漁船であることを知り、接近模様に注意しながら続航した。
14時51分A受審人は、仮設灯台から095度1.1海里の地点に達したとき、左舷船首12度1,400メートルのところに、旋回しながら引き縄をしていた幸進丸が自船の前路を近距離ながら無難に航過する態勢で接近するのを認めたが、そのまま直進し右方へ遠ざかるものと思い、幸進丸が自船の至近で旋回するなどして危険な態勢にならないよう、警告信号を行うことなく進行した。
A受審人は、14時54分少し前正船首方近距離のところを右方へ航過した幸進丸が突然左旋回を開始し、その後左舷側を見せるようになったことから、同時55分少し前汽笛を吹鳴するとともに機関を中立としたが及ばず、14時55分仮設灯台から076度650メートルの地点において、和壮丸は、原針路のまま約8.0ノットの速力になったころ、その船首部が幸進丸の左舷船首部に前方から75度の角度で衝突した。
当時、天候は曇で風力4の南西風が吹き、潮候は上げ潮の末期であった。
また、幸進丸は、一本つり漁業に従事する木製漁船で、昭和50年3月に一級小型船舶操縦士の免許を取得したB受審人が1人で乗り組み、めじか漁の目的で、船首0.3メートル船尾1.0メートルの喫水をもって、平成14年9月17日14時30分高知港御畳瀬(みませ)地区を発し、同時45分南防波堤東端付近の漁場に至り、操業を開始した。
ところで、幸進丸のめじか漁は、船尾から5本の引き縄をそれぞれ約10メートル延出し、潜航板を使用して釣り針を魚の遊泳層まで沈めて曳き回し、魚がかかると潜航板が表面に浮き出てくるので当たりが分かり、魚群から離れないように直ちに左旋回しながら魚を取り入れるものであった。
14時51分B受審人は、仮設灯台から105度640メートルの地点で、012度の針路及び4.0ノットの速力で進行していたとき、右舷船首78度1,400メートルのところに、高知港へ向け入航する和壮丸を視認することができる状況であったが、船尾方に延出した引き縄の当たり具合に気を取られ、右舷方の見張りを十分に行わなかったので、和壮丸の存在にも、その後、同船の船首方近距離を航過したことにも気付かないで続航した。
B受審人は、14時54分少し前潜航板が浮き出たので、直ちに左旋回することとしたものの、依然、右方の見張りを十分に行わなかったので、右舷後方近距離に和壮丸が存在したことに気付かないまま左旋回を開始し、同船と新たな衝突のおそれを生じさせることとなり、同時55分少し前和壮丸の汽笛を聞いて左舷方至近に迫った同船を認め、直ちに右舵一杯としたが及ばず、幸進丸は、177度に向首したころ原速力のまま、前示のとおり衝突した。
衝突の結果、和壮丸は、船首部に擦過傷を生じたのみであったが、幸進丸は、左舷船首部の圧壊及び左舷外板の損壊を生じて廃船とされた。
(原因)
本件衝突は、高知県高知港において、旋回しながら引き縄をしていた幸進丸が、見張り不十分で、和壮丸の前路を無難に航過したのちに左旋回し、新たな衝突のおそれを生じさせたことによって発生したが、入航中の和壮丸が警告信号を行わなかったことも一因をなすものである。
(受審人の所為)
B受審人は、高知県高知港において、引き縄を行いながら航行する場合、同港に向け入航する和壮丸を見落とさないよう、右舷方の見張りを十分に行うべき注意義務があった。しかるに、同人は、船尾方に延出した引き縄の当たり具合に気を取られ、右舷方の見張りを十分に行わなかった職務上の過失により、和壮丸の存在にも、同船の船首方近距離を航過したことにも気付かないで左旋回し、新たな衝突のおそれを生じさせたまま進行して衝突を招き、自船に左舷船首部の圧壊及び左舷外板の損壊を、和壮丸の船首部に擦過傷をそれぞれ生じさせるに至った。
以上のB受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第2号を適用し、同人の小型船舶操縦士の業務を1箇月停止する。
A受審人は、高知県高知港において、防波堤入り口へ向け入航中、旋回しながら引き縄をしていた幸進丸が自船の前路を近距離ながら無難に航過する態勢で接近するのを認めた場合、幸進丸が自船の至近で旋回するなどして危険な態勢にならないよう、警告信号を行うべき注意義務があった。しかるに、同人は、幸進丸がそのまま直進し右方へ遠ざかるものと思い、警告信号を行わなかった職務上の過失により、幸進丸との衝突を招き、前示の損傷を生じさせるに至った。
以上のA受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。
よって主文のとおり裁決する。