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平成15年横審第65号
件名

作業船さくら丸漁船友好丸衝突事件

事件区分
衝突事件
言渡年月日
平成15年10月30日

審判庁区分
横浜地方海難審判庁(阿部能正、吉川 進、黒田 均)

理事官
米原健一

受審人
A 職名:さくら丸船長 操縦免許:小型船舶操縦士
B 職名:友好丸船長 操縦免許:小型船舶操縦士

損害
さくら丸・・・船首部に擦過傷
友好丸・・・右舷側中央部外板等に破口、のち廃船、船長が溺水症等

原因
さくら丸・・・見張り不十分、船員の常務(新たな衝突のおそれ)不遵守

主文

 本件衝突は、さくら丸が、見張り不十分で、漂泊中の友好丸の至近で、同船に向けて急右転したことによって発生したものである。
 受審人Aを戒告する。
 
理由

(事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
 平成14年11月7日10時35分
 茨城県常陸那珂港南方沖合
 
2 船舶の要目
船種船名 作業船さくら丸 漁船友好丸
総トン数 4.9トン 0.3トン
全長 14.60メートル  
登録長   4.25メートル
機関の種類 ディーゼル機関 電気点火機関
出力 404キロワット  
漁船法馬力数   30

3 事実の経過
 さくら丸は、FRP製作業船で、A受審人(平成3年12月25日一級小型船舶操縦士免状取得)が1人で乗り組み、調査員5人を乗せ、茨城県久慈町漁業協同組合の依頼を受け、同県東岸沖合の海底底質調査など(以下「底質調査」という。)の目的で、船首0.24メートル船尾1.60メートルの喫水をもって、平成14年11月7日07時45分久慈漁港を発し、会瀬港の北東方1海里沖合の水域に向かい、同水域に到着して底質調査を行ったのち、順次、東岸沖合で調査を繰り返しながら南下した。
 10時28分A受審人は、磯埼灯台から055度(真方位、以下同じ。)460メートルの地点において、4回目の底質調査を終了し、次の調査水域である那珂湊港の南東方1,000メートル沖合の水域に向かうこととしたが、磯埼南東方沖合で漁船が輻輳(ふくそう)して操業していたので、迂回(うかい)して目的地に向かうこととした。
 A受審人は、10時33分わずか前磯埼灯台から125.5度1,480メートルの地点において、漁船の数が少なくなったので、針路を210度に定め、機関を全速力前進にかけ、16.0ノットの速力(対地速力、以下同じ。)とし、操舵室右舷側のいすに座り、手動操舵により進行した。
 10時34分わずか前A受審人は、正船首方300メートルに、漂泊して操業中の漁船(以下「大型の漁船」という。)を認めたので、同船を右舷側に20メートル離して航過することとし、機関を半速力前進の10.0ノットに減じて左舵を取ったのち、まもなく、原針路の210度に復し、大型の漁船に並んだら右転して目的地に向ける予定で続航した。
 10時34分A受審人は、磯埼灯台から149度1,700メートルの地点に達したとき、右舷船首5度200メートルに、それまで大型の漁船の背後に隠れて視認できなかった漂泊中の友好丸を視認し得る状況となったが、大型の漁船に気を取られ、友好丸を見落とさないよう、前方の見張りを十分に行わなかったので、同船の存在に気付かなかった。
 A受審人は、10時35分少し前磯埼灯台から152度1,750メートルの地点で、大型の漁船に並航し、原針路のまま進行すれば友好丸を右舷側に20メートル離して無難に航過する状況であったが、依然右舷船首8度100メートルに存在する同船に気付かず、GPSプロッタに表示されている陸岸の映像を見ながら右舵を取り、友好丸に向けて急右転して218度の針路に転じたのち、機関を全速力前進の16.0ノットに増速した。
 こうして、さくら丸は、10時35分磯埼灯台から155度1,790メートルの地点において、原針路原速力のまま続航中、その船首部が、友好丸の右舷中央部に直角に衝突した。
 当時、天候は晴で風力1の北東風が吹き、視界は良好であった。
 また、友好丸は、船外機付きFRP製漁船で、B受審人(昭和52年1月28日一級小型船舶操縦士免状取得)が1人で乗り組み、たこ一本釣り漁の目的で、船首0.16メートル船尾0.26メートルの喫水をもって、同日07時00分那珂湊港を発し、磯埼南東方1,500メートル沖合の漁場に向かい、同漁場で操業し、その後漁場を移動して操業を行った。
 10時33分B受審人は、衝突地点付近に到着し、機関を停止のうえ漂泊したのち、船体中央部右舷側に立った状態で、右手で釣り糸を持って操業を始めた。
 B受審人は、10時35分少し前船首が308度に向いていたとき、船尾方20メートルのところを無難に航過する状況であったさくら丸が、右舷正横100メートルのところで、自船に向けて急右転して接近するのを視認し、機関を始動して後進をかけたが、船首を同方向に向けたまま、前示のとおり衝突した。
 衝突の結果、さくら丸は、船首部に擦過傷を生じ、友好丸は、右舷側中央部外板などに破口を生じ、左舷側に転覆し、僚船により那珂湊港に引きつけられたが、のち廃船され、また、B受審人が溺水症などを負った。

(原因の考察)
 本件は、常陸那珂港の南方沖合において、南下中のさくら丸と漂泊中の友好丸とが衝突したものである。
 友好丸が漂泊中であることから、海上衝突予防法第38条及び39条の船員の常務で律することとなる。
 しかしながら、本件は、さくら丸が原針路の210度のまま進行すれば、友好丸の船尾方20メートルを無難に航過する状況であったところ、衝突の10秒前100メートルに接近したとき、同船に向け急右転し、16ノットの速力に増速して接近したものであり、友好丸としては時間的に衝突回避の可能性がないのであるから、同船に本件発生の原因があるとするのは相当でない。 

(原因)
 本件衝突は、茨城県常陸那珂港の南方沖合において、南下中のさくら丸が、見張り不十分で、漂泊中の友好丸の至近で、同船に向けて急右転したことによって発生したものである。
 
(受審人の所為)
 A受審人は、茨城県常陸那珂港の南方沖合において、漁船が輻輳する水域を南下する場合、友好丸を見落とさないよう、前方の見張りを十分に行うべき注意義務があった。しかるに、同人は、大型の漁船に気を取られ、前方の見張りを十分に行わなかった職務上の過失により、原針路のまま進行すれば無難に航過する状況であった漂泊中の友好丸の存在に気付かず、同船の至近で、友好丸に向けて急右転して衝突を招き、同船の右舷側中央部外板などに破口を生じて転覆させ、B受審人に溺水症などを負わせるに至った。
 以上のA受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。
 B受審人の所為は、本件発生の原因とならない。

 よって主文のとおり裁決する。


参考図
(拡大画面:20KB)





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