日本財団 図書館




 海難審判庁採決録 >  2003年度(平成15年) > 衝突事件一覧 >  事件





平成15年横審第62号
件名

貨物船早来丸貨物船第八宝松丸衝突事件

事件区分
衝突事件
言渡年月日
平成15年10月30日

審判庁区分
横浜地方海難審判庁(黒田 均、阿部能正、西山烝一)

理事官
織戸孝治

受審人
A 職名:早来丸船長 海技免許:三級海技士(航海)
B 職名:早来丸次席一等航海士 海技免許:三級海技士(航海)
C 職名:第八宝松丸船長 海技免許:三級海技士(航海)
指定海難関係人
D 職名:第八宝松丸甲板長

損害
早来丸・・・左舷中央部外板に破口
宝松丸・・・右舷船首部外板に凹損

原因
早来丸・・・狭視界時の航法(信号、レーダー、速力)不遵守
宝松丸・・・狭視界時の航法(信号、レーダー、速力)不遵守

主文

 本件衝突は、早来丸が、視界制限状態における運航が適切でなかったことと、第八宝松丸が、視界制限状態における運航が適切でなかったこととによって発生したものである。
 受審人Aを戒告する。
 受審人Bを戒告する。
 受審人Cを戒告する。
 
理由

(事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
 平成14年7月24日02時20分
 千葉県犬吠埼南方沖合
 
2 船舶の要目
船種船名 貨物船早来丸 貨物船第八宝松丸
総トン数 692トン 498トン
全長 78.00メートル 65.26メートル
機関の種類 ディーゼル機関 ディーゼル機関
出力 1,323キロワット 735キロワット

3 事実の経過
 早来丸は、主として建設残土などを運ぶ船尾船橋型鋼製貨物船で、A、B両受審人ほか4人が乗り組み、空コンテナ210個を積載し、船首3.00メートル船尾4.00メートルの喫水をもって、平成14年7月22日11時30分北海道苫小牧港を発し、京浜港川崎区に向かった。
 A受審人は、4時間3直制で単独の船橋当直のうち0時から4時までをB受審人に委ね、自らは8時から12時までを受け持つこととし、翌23日23時55分千葉県犬吠埼北方沖合を南下中、昇橋してきたB受審人に同当直を交代することとしたが、同県北東部に濃霧注意報が発表されているのを知っていたのに、自ら操船の指揮を執ることができるよう、霧のため視界制限状態になった際、指示しなくても報告してくれるものと思い、報告するよう指示せず、翌24日00時の船位を求め、降橋して休息した。
 船橋当直に就いたB受審人は、霧模様の状況で南下を続け、01時50分犬吠埼灯台から090度(真方位、以下同じ。)4.6海里の地点において、針路を217度に定め、機関を全速力前進にかけて12.8ノットの速力(対地速力、以下同じ。)とし、所定の灯火を表示して自動操舵により進行した。
 定針したときB受審人は、12海里レンジとしたレーダーで、左舷船首10度11.6海里のところに、北上中の第八宝松丸(以下「宝松丸」という。)の映像を探知し、動静を監視していたところ、その方位に明確な変化がないことを認め、02時ごろ霧のため視程が200メートルに狭まり視界制限状態になったことを認めたものの、その旨をA受審人に報告せず、霧中信号を行うことも、機関室に連絡して安全な速力に減じることも行わないで続航した。
 やがて、B受審人は、宝松丸の方位が右方に変化していることを知り、02時13分少し過ぎ犬吠埼灯台から157度4.3海里の地点に達したとき、同船と左舷を対して航過するよう針路を238度に転じ、同時14分同灯台から160度4.4海里の地点に至ったとき、宝松丸が左舷船首24度2.0海里に近づき、同船と著しく接近することを避けることができない状況であったが、左舷を対して航過できるものと思い、針路を保つことができる最小限度の速力に減じることも、必要に応じて行きあしを停止することも行わないで進行した。
 02時19分少し前B受審人は、宝松丸の映像が迫ったことから、更に針路を248度に転じ、操舵スタンド付近で目視により前方を見張っていたところ、左舷方至近のところに同船の右舷灯を初めて視認し、衝突の危険を感じて手動操舵に切り替えて右舵一杯としたが、02時20分犬吠埼灯台から175度4.8海里の地点において、早来丸は、ほぼ原針路原速力のまま、その左舷側中央部に、宝松丸の右舷船首部が、後方から47度の角度で衝突した。
 当時、天候は霧で風力3の北東風が吹き、潮候はほぼ高潮期にあたり、視程は200メートルで、千葉県北東部には濃霧注意報が発表されていた。
 A受審人は、衝突の衝撃で目覚め、B受審人から衝突した旨の報告を受け、昇橋して事後の措置に当たった。
 また、宝松丸は、主として液体化学薬品を運ぶ船尾船橋型鋼製貨物船で、C受審人及びD指定海難関係人ほか4人が乗り組み、空倉のまま、海水バラスト350トンを張り、船首1.8メートル船尾3.5メートルの喫水をもって、同月23日16時05分京浜港川崎区を発し、茨城県鹿島港に向かった。
 C受審人は、4時間3直制で単独の船橋当直のうち0時から4時までを航海当直部員のD指定海難関係人に委ね、自らは8時から12時までを受け持つこととし、23時15分千葉県勝浦港東方沖合を北上中、同県北東部に濃霧注意報が発表されているのを知らないまま、昇橋してきたD指定海難関係人に同当直を交代して降橋した。
 23時25分C受審人は、船橋当直に就いたD指定海難関係人から、霧模様になった旨の報告を受けたが、昇橋して周囲を見渡し、視程が約1海里あったので、任せておいても大丈夫と思い、自ら操船の指揮を執ることなく、注意して航行するよう告げ、降橋して休息した。
 D指定海難関係人は、霧模様の状況で北上を続け、01時30分犬吠埼灯台から187度14.0海里の地点において、針路を017度に定め、機関を全速力前進にかけて11.4ノットの速力とし、所定の灯火を表示して自動操舵により進行した。
 02時00分D指定海難関係人は、犬吠埼灯台から180度8.5海里の地点に達したとき、霧のため視程が200メートルに狭まり視界制限状態になったことを認めたが、C受審人に操船の指揮を求めず、レーダーで右舷船首9度7.5海里のところに、南下中の早来丸の映像を探知し、同船までの距離が十分あったことから、右舷を対して航過するよう針路を007度に転じ、霧中信号を行うことも、安全な速力に減じることも行われないで続航した。
 02時13分少し過ぎD指定海難関係人は、犬吠埼灯台から177度6.0海里の地点に達したとき、早来丸の映像の方位が少しずつ右方にかわっていたことから、犬吠埼沖合の転針予定地点に向け針路を025度に転じ、同時14分同灯台から176度5.8海里の地点に至ったとき、同船が右舷船首9度2.0海里に近づき、早来丸と著しく接近することを避けることができない状況であったが、針路を保つことができる最小限度の速力に減じることも、必要に応じて行きあしを停止することも行われないで進行した。
 やがて、D指定海難関係人は、早来丸の映像が迫ったことに気付き、手動操舵に切り替え、右舷を対して航過するよう徐々に左転を繰り返すうち、右舷船首方至近のところに同船のマスト灯と左舷灯を初めて視認し、衝突の危険を感じて機関を中立とし左舵一杯としたが、宝松丸は、295度に向首したとき、ほぼ原速力のまま、前示のとおり衝突した。
 C受審人は、衝突の衝撃で目覚め、昇橋して事後の措置に当たった。
 衝突の結果、早来丸は、左舷中央部外板に破口などを生じ、宝松丸は、右舷船首部外板に凹損などを生じたが、のちいずれも修理された。 

(原因)
 本件衝突は、夜間、霧のため視界制限状態の千葉県犬吠埼南方沖合において、南下中の早来丸が、霧中信号を行うことも、安全な速力に減じることもしなかったばかりか、北上中の宝松丸と著しく接近することを避けることができない状況となった際、針路を保つことができる最小限度の速力に減じず、必要に応じて行きあしを停止しなかったことと、宝松丸が、霧中信号を行うことも、安全な速力に減じることもしなかったばかりか、早来丸と著しく接近することを避けることができない状況となった際、針路を保つことができる最小限度の速力に減じず、必要に応じて行きあしを停止しなかったこととによって発生したものである。
 早来丸の運航が適切でなかったのは、船長が、船橋当直者に対し、霧のため視界制限状態になった際、報告するよう指示しなかったことと、同当直者が、船長に対し、霧のため視界制限状態になった旨を報告しなかったうえ、視界制限時の措置を適切に行わなかったこととによるものである。
 宝松丸の運航が適切でなかったのは、船長が、無資格の船橋当直者から霧模様になった旨の報告を受けた際、自ら操船の指揮を執らなかったことと、同当直者が、霧のため視界制限状態になった際、船長に操船の指揮を求めなかったこととによるものである。
 
(受審人等の所為)
 A受審人は、夜間、千葉県犬吠埼北方沖合を南下中、船橋当直を部下に交代する場合、同県北東部に濃霧注意報が発表されているのを知っていたのであるから、自ら操船の指揮を執ることができるよう、船橋当直者に対し、霧のため視界制限状態になった際、報告するよう指示すべき注意義務があった。しかるに、同人は、指示しなくても報告してくれるものと思い、報告するよう指示しなかった職務上の過失により、視界制限状態になった旨の報告を得られず、自ら操船の指揮を執ることができずに進行して宝松丸との衝突を招き、早来丸の左舷中央部外板に破口などを生じさせ、宝松丸の右舷船首部外板に凹損などを生じさせるに至った。
 以上のA受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。
 B受審人は、夜間、単独で船橋当直に当たり、霧のため視界制限状態になった千葉県犬吠埼南方沖合を南下中、レーダーで前路に探知した宝松丸と著しく接近することを避けることができない状況となった場合、針路を保つことができる最小限度の速力に減じ、必要に応じて行きあしを停止すべき注意義務があった。しかるに、同人は、左舷を対して航過できるものと思い、針路を保つことができる最小限度の速力に減じず、必要に応じて行きあしを停止しなかった職務上の過失により、宝松丸との衝突を招き、前示の損傷を生じさせるに至った。
 以上のB受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。
 C受審人は、夜間、千葉県犬吠埼南方沖合を北上中、無資格の船橋当直者から霧模様になった旨の報告を受けた場合、自ら操船の指揮を執るべき注意義務があった。しかるに、同人は、任せておいても大丈夫と思い、自ら操船の指揮を執らなかった職務上の過失により、船橋当直者による運航が不適切になって早来丸との衝突を招き、前示の損傷を生じさせるに至った。
 以上のC受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。
 D指定海難関係人が、霧のため視界制限状態になった際、船長に操船の指揮を求めなかったことは、本件発生の原因となる。
 D指定海難関係人に対しては、勧告しない。

 よって主文のとおり裁決する。


参考図
(拡大画面:19KB)





日本財団図書館は、日本財団が運営しています。

  • 日本財団 THE NIPPON FOUNDATION