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平成15年横審第52号
件名

遊漁船天の清栄丸漁船清栄丸衝突事件

事件区分
衝突事件
言渡年月日
平成15年10月8日

審判庁区分
横浜地方海難審判庁(阿部能正、吉川 進、西山烝一)

理事官
米原健一

受審人
A 職名:天の清栄丸船長 操縦免許:小型船舶操縦士
B 職名:清栄丸船長 操縦免許:小型船舶操縦士

損害
天の清栄丸・・・右舷船首部外板に破口等の損傷、釣り客4人が胸椎及び腰椎圧迫骨折等
清栄丸・・・船首部外板に破口等の損傷、船長及び乗組員1人が肋骨骨折等の負傷

原因
天の清栄丸・・・見張り不十分、船員の常務(避航動作)不遵守
清栄丸・・・見張り不十分、船員の常務(避航動作)不遵守

主文

 本件衝突は、両船が近距離で衝突のおそれが生じた際、天の清栄丸が、見張り不十分で、衝突を避けるための措置をとらなかったことと、清栄丸が、見張り不十分で、衝突を避けるための措置をとらなかったこととによって発生したものである。
 受審人Aを戒告する。
 受審人Bを戒告する。
 
理由

(事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
 平成14年10月31日05時00分
 千葉県大原漁港北方沖合
 
2 船舶の要目
船種船名 遊漁船天の清栄丸 漁船清栄丸
総トン数 12トン 6.6トン
全長 17.68メートル 16.00メートル
機関の種類 ディーゼル機関 ディーゼル機関
出力 426キロワット 316キロワット

3 事実の経過
 天の清栄丸(以下「天の丸」という。)は、FRP製遊漁船で、A受審人(昭和54年7月27日一級小型船舶操縦士免状を取得)が1人で乗り組み、釣り客8人を乗せ、ふぐ釣りの目的で、船首0.35メートル船尾1.20メートルの喫水をもって、平成14年10月31日04時54分千葉県大原漁港を発し、太東埼北東方2海里付近の釣り場に向かった。
 A受審人は、04時56分大原港東防波堤北灯台(以下、航路標識の名称は、「大原港」を省略する。)から193度(真方位、以下同じ。)360メートルの地点において、針路を大原漁港東防波堤(以下「東防波堤」という。)に沿う010度に定め、機関を極微速力前進にかけ、3.5ノットの速力(対地速力、以下同じ。)とし、所定の灯火を掲げ、手動操舵により進行した。
 ところで、東防波堤は、東防波堤北灯台が北端にあって、大原漁港の東側を囲うように長さ約550メートルにわたって南北に設置され、同堤が潮候によっては小型漁船のマストよりも高くなることが多く、東防波堤の内外を航行する船舶にとって、互いに同堤越しの見通しを妨げるものであった。
 04時59分半わずか前A受審人は、東防波堤北灯台から290度20メートルの地点に達したとき、東防波堤北端を通過し、前方が見通せる状況となったので、漁場に向かうため針路を013度に転じ、機関を微速力の7.5ノットに増速した。
 転針時、A受審人は、右舷船首27度225メートルのところに、清栄丸のマスト灯と左舷灯を視認でき、間もなく、衝突のおそれがある態勢で接近するのを認め得る状況であったが、前方の船舶は東防波堤北端から右方へ向かって出航中の遊漁船4隻だけで、入航する船舶はいないものと思い、清栄丸を見落とさないよう、右舷前方の見張りを十分に行っていなかったので、同船の存在と接近とに気付かなかった。
 こうして、A受審人は、その後、行きあしを止めるなど、衝突を避けるための措置をとらないまま続航中、05時00分わずか前ようやく右舷船首方至近に清栄丸を初めて視認したが、どうすることもできず、05時00分東防波堤北灯台から006度150メートルの地点において、天の丸は、原針路原速力のまま、その右舷船首部に、清栄丸の船首部が前方から62度の角度で衝突した。
 当時、天候は晴で風力2の北西風が吹き、潮候は下げ潮の末期にあたり、視界は良好であった。
 また、清栄丸は、いせえび漁に従事するFRP製漁船で、B受審人(昭和49年11月29日一級小型船舶操縦士免状を取得)ほか2人が乗り組み、操業の目的で、船首0.32メートル船尾1.54メートルの喫水をもって、同日02時30分大原漁港を発し、03時00分同漁港東方沖合5海里付近の漁場に到着し、いせえびなど20キログラムを漁獲したのち、04時30分東防波堤北灯台から075度5.3海里の地点を発進して帰途についた。
 発進時、B受審人は、針路を255度に定め、機関を全速力前進にかけ、12.0ノットの速力で、所定の灯火を掲げ、手動操舵により進行し、04時55分東防波堤北灯台から066.5度930メートルの地点で、入航に備えて速力を5.5ノットに減じ、導灯の灯光を船首目標として西行した。
 B受審人は、04時59分半わずか前東防波堤北灯台から036度217メートルの地点に達したとき、左舷船首35度225メートルのところに、天の丸のマスト灯と右舷灯を視認でき、間もなく、衝突のおそれがある態勢で接近するのを認め得る状況であったが、前方の導灯や東防波堤北灯台の各灯光に気を取られ、同船を見落とさないよう、左舷前方の見張りを十分に行っていなかったので、天の丸の存在と接近とに気付かなかった。
 こうして、B受審人は、その後、行きあしを止めるなど、衝突を避けるための措置をとらないまま続航中、清栄丸は、原針路原速力のまま、前示のとおり衝突した。
 衝突の結果、天の丸は、右舷船首部外板に破口などを、清栄丸は、船首部外板に破口などをそれぞれ生じたが、のちいずれも修理され、また、天の丸の釣り客4人が胸椎及び腰椎圧迫骨折などを、B受審人及び清栄丸の乗組員1人が肋骨骨折などをそれぞれ負った。

(航法の適用)
 本件は、夜間、大原漁港の東防波堤北端の約150メートル北方沖合において、全長17.68メートルの天の丸と全長16.00メートルの清栄丸とが、互いに近距離で衝突のおそれがある態勢のまま接近して衝突したものであるが、以下航法の適用について検討する。
 大原漁港は、港則法の適用されない港であるから、海上衝突予防法(以下「予防法」という。)で律することとなる。
 両船が互いに視認でき、衝突のおそれがあると判断できるのは、天の丸が東防波堤北端を通過した衝突の35秒前225メートルの近距離に接近したときであり、時間的にも、距離的にも衝突の危険が切迫していた。したがって本件は、両船の操縦性能等を合わせ考えても、予防法第15条の横切り船の定型航法をもって律するのは相当でなく、同法第38条、39条の船員の常務によって律するのが相当である。 

(原因)
 本件衝突は、夜間、千葉県大原漁港北方沖合において、漁場に向け北上中の天の丸と、同漁港に向け西行中の清栄丸とが近距離で衝突のおそれが生じた際、天の丸が、見張り不十分で、衝突を避けるための措置をとらなかったことと、清栄丸が、見張り不十分で、衝突を避けるための措置をとらなかったこととによって発生したものである。
 
(受審人の所為)
 A受審人は、夜間、千葉県大原漁港北方沖合を漁場に向け北上する場合、清栄丸を見落とさないよう、右舷前方の見張りを十分に行うべき注意義務があった。しかるに、同人は、入航する船舶はいないものと思い、右舷前方の見張りを十分に行わなかった職務上の過失により、衝突のおそれがある態勢で接近中の清栄丸に気付かず、行きあしを止めるなど、衝突を避けるための措置をとらないまま進行して衝突を招き、天の丸の右舷船首部外板に破口などを、清栄丸の船首部外板に破口などをそれぞれ生じさせ、また、天の丸の釣り客4人に胸椎及び腰椎圧迫骨折などを、B受審人及び清栄丸の乗組員1人に肋骨骨折などをそれぞれ負わせるに至った。
 以上のA受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。
 B受審人は、夜間、千葉県大原漁港北方沖合において、同漁港に向け入航する目的で西行する場合、天の丸を見落とさないよう、左舷前方の見張りを十分に行うべき注意義務があった。しかるに、同人は、前方の導灯や東防波堤北灯台の灯光に気を取られ、左舷前方の見張りを十分に行わなかった職務上の過失により、衝突のおそれがある態勢で接近中の同船に気付かず、行きあしを止めるなど、衝突を避けるための措置をとらないまま進行して衝突を招き、前示の損傷及び負傷を生じさせるに至った。
 以上のB受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。

 よって主文のとおり裁決する。


参考図
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