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 海難審判庁採決録 >  2003年度(平成15年) > 衝突事件一覧 >  事件





平成15年横審第42号
件名

漁船第三十五富丸漁船隼丸衝突事件

事件区分
衝突事件
言渡年月日
平成15年10月1日

審判庁区分
横浜地方海難審判庁(稲木秀邦、阿部能正、西山烝一)

理事官
米原健一

受審人
A 職名:第三十五富丸船長 海技免許:四級海技士(航海)(履歴限定)
B 職名:隼丸船長 操縦免許:小型船舶操縦士 

損害
富 丸・・・船首部にペイント剥離の損傷
隼 丸・・・左舷側中央部外板に破口を伴う亀裂、操舵室を大破し、機関室に浸水して航行不能となり、のち廃船処理された、船長及び甲板員2名が頭部等を負傷

原因
富 丸・・・横切りの航法(避航動作)不遵守(主因)
隼 丸・・・見張り不十分、警告信号不履行、横切りの航法(協力動作)不遵守(一因)

主文

 本件衝突は、第三十五富丸が、前路を左方に横切る隼丸の進路を避けなかったことによって発生したが、隼丸が、見張り不十分で、警告信号を行わず、衝突を避けるための協力動作をとらなかったことも一因をなすものである。
 受審人Aを戒告する。
 受審人Bを戒告する。
 
理由

(事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
 平成14年8月24日13時40分
 千葉県太東埼東方沖合
 
2 船舶の要目
船種船名 漁船第三十五富丸 漁船隼丸
総トン数 74.0トン 4.61トン
全長 27.72メートル  
登録長   9.87メートル
機関の種類 ディーゼル機関 ディーゼル機関
出力 735キロワット  
漁船法馬力数   90

3 事実の経過
 第三十五富丸(以下「富丸」という。)は、底引き網漁業に従事する鋼製漁船で、A受審人ほか4人が乗り組み、回航の目的で、船首2.0メートル船尾2.7メートルの喫水をもって、平成14年8月24日08時00分千葉県館山港を発し、銚子港に向かった。
 A受審人は、13時00分太東埼灯台から178度(真方位、以下同じ。)7.6海里の地点において、単独で船橋当直に就き、針路を037度に定め、機関を回転数毎分900にかけ9.8ノットの対地速力(以下「速力」という。)で、自動操舵により進行した。
 13時30分A受審人は、太東埼灯台から139度4.9海里の地点で、右舷船首20度3.2海里のところに、西行中の隼丸を初めて視認したのち、同時37分同灯台から125度4.8海里の地点に達したとき、同船が右舷船首21度0.9海里に接近し、その後前路を左方に横切り、衝突のおそれがある態勢で接近するのを認めたが、同船が小型の漁船なのでもう少し近づいてから避航すればよいものと思い、速やかに右転するなど、隼丸の進路を避けることなく続航した。
 A受審人は、13時40分少し前隼丸が右舷船首方至近に迫ったとき、ようやく右舵一杯を取り、機関を全速力後進にかけたが及ばず、13時40分太東埼灯台から119度4.8海里の地点において、富丸は、067度に向首したとき、ほぼ原速力のまま、その船首が隼丸の左舷中央部にほぼ直角に衝突した。
 当時、天候は晴で風力3の南風が吹き、視界は良好であった。
 また、隼丸は、いせえび刺網漁業に従事するFRP製漁船で、B受審人(昭和49年11月29日一級小型船舶操縦士免状取得)ほか2人が乗り組み、操業の目的で、船首0.5メートル船尾1.0メートルの喫水をもって、同日12時50分千葉県大原漁港を発し、同漁港東方沖合6海里の漁場に向かった。
 B受審人は、13時20分同漁場に至って投網作業を行ったのち、揚網時間まで一旦(いったん)帰航することとし、同時30分太東埼灯台から109度6.2海里の地点を発進し、針路を大原漁港に向く259度に定め、機関を全速力前進にかけ、10.0ノットの速力とし、舵輪の後方に立って手動操舵により進行した。
 13時37分B受審人は、太東埼灯台から116度5.2海里の地点に達したとき、左舷船首21度0.9海里のところに、富丸を視認でき、その後同船が前路を右方に横切り、衝突のおそれがある態勢で接近するのを認め得る状況であったが、目的地の防波堤入口付近を見ることに気を取られ、見張りを十分に行っていなかったので、このことに気付かず、速やかに警告信号を行わず、更に接近したとき、直ちに機関を使用して行きあしを停止するなど、衝突を避けるための協力動作をとることなく続航した。
 B受審人は、13時39分半船首にいた甲板員の声で左舷船首方至近に富丸を初めて視認し、機関を停止して右舵一杯を取ったが及ばず、隼丸は、337度に向首し、行きあしがほとんどなくなったとき、前示のとおり衝突した。
 衝突の結果、富丸は、船首部にペイント剥離(はくり)を生じ、隼丸は、左舷側中央部外板に破口を伴う亀裂を生じるとともに操舵室を大破し、機関室に浸水して航行不能となり、富丸及び僚船によって大原漁港に引き付けられ、のち廃船処理された。また、B受審人が頭部打撲を、隼丸甲板員Cが頸椎捻挫並びに同Dが右肩及び腰部挫傷をそれぞれ負った。 

(原因)
 本件衝突は、千葉県太東埼東方沖合において、両船が互いに進路を横切り衝突のおそれがある態勢で接近中、北上中の富丸が、前路を左方に横切る隼丸の進路を避けなかったことによって発生したが、西行中の隼丸が、見張り不十分で、警告信号を行わず、衝突を避けるための協力動作をとらなかったことも一因をなすものである。
 
(受審人の所為)
 A受審人は、千葉県太東埼東方沖合において、単独船橋当直にあたって北上中、右舷船首方に前路を左方に横切り衝突するおそれがある態勢で接近する隼丸を認めた場合、速やかに右転するなど、同船の進路を避けるべき注意義務があった。しかるに、同人は、隼丸が小型の漁船なのでもう少し近づいてから避航すればよいものと思い、隼丸の進路を避けなかった職務上の過失により、同船との衝突を招き、富丸の船首部にペイント剥離を、隼丸の左舷側中央部外板に破口を伴う亀裂を生じさせるとともに操舵室を大破し、のち廃船せしめ、B受審人が頭部打撲を、隼丸甲板員2人に頸椎捻挫並びに右肩及び腰部挫傷をそれぞれ負わせるに至った。
 以上のA受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。
 B受審人は、千葉県太東埼東方沖合において、根拠地である大原漁港へ向けて帰航する場合、左舷前方から接近する他船を見落とすことのないよう、見張りを十分に行うべき注意義務があった。しかるに、同人は、船首目標の防波堤入口付近を見ることに気をとられ、見張りを十分に行わなかった職務上の過失により、前路を右方に横切り衝突のおそれがある態勢で接近する富丸に気付かず、警告信号を行うことも、衝突を避けるための協力動作をとることもなく進行して衝突を招き、前示の損傷及び負傷を生じさせるに至った。
 以上のB受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。

 よって主文のとおり裁決する。


参考図
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