(事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
平成14年12月21日19時25分
福島県小名浜港
2 船舶の要目
船種船名 |
油送船昭靖丸 |
総トン数 |
2,983トン |
全長 |
105.04メートル |
機関の種類 |
ディーゼル機関 |
出力 |
3,089キロワット |
3 事実の経過
昭靖丸は、専ら白油輸送に従事する船尾船橋型油送船で、A受審人ほか10人が乗り組み、空倉で海水バラストを載せ、船首2.50メートル船尾4.90メートルの喫水をもって、平成14年12月21日19時10分福島県小名浜港を発し、京浜港川崎区に向かった。
ところで、A受審人は、船長職に就いてから小名浜港への入出港を6回経験しており、平素、出港時は、離岸後、第2西防波堤東端に向けて航行し、同東端を付け回したのち、船位を確認しながら、針路を第1西防波堤に沿う204度(真方位、以下同じ。)に定めて南下し、沖防波堤西端に並行したころ、177度に転じて犬吠埼沖合に向けていた。
A受審人は、自ら操舵操船に当たり、小名浜石油第1桟橋を後退して離岸し、針路を種々に変えながら機関回転数を徐々に上げ、出港配置を終えて昇橋してきた甲板手を操舵に就け、19時17分半小名浜港第2西防波堤灯台(以下、灯台の名称中「小名浜港」を省く。)から289度600メートルの地点で、針路を087度に定め、機関を港内半速力前進にかけ、8.5ノットの対地速力(以下「速力」という。)で進行した。
19時19分少し過ぎA受審人は、第2西防波堤灯台から337度230メートルの地点に達したとき、右舵を令して第2西防波堤東端を約120メートル隔てて付け回したのち、第1西防波堤沿いに南下した。
19時22分半A受審人は、第1西防波堤南灯台から292度240メートルの地点に達したとき、針路を180度に転じたところ沖防波堤に向首する態勢になったが、小名浜港における揚荷役が遅延したため次の仕向地の到着時刻が気になっていたこともあって、左舷側に視認した同灯台を沖防波堤西灯台と誤認し、レーダーを使用して第1西防波堤と沖防波堤との相対位置関係を調べるなどして船位の確認を十分に行うことなく、このことに気付かず、いつものように沖防波堤西端沖合に向く針路にしないまま続航した。
19時24分少し前A受審人は、第1西防波堤南灯台から224度310メートルの地点に達したとき、沖防波堤西灯台を十分に替わしたものと考え、針路を177度に転じ、同時24分少し過ぎ肉眼で前路に白色の波頭のようなものが見えたので港口が近付いているものと判断して進行中、白色のものが防波堤であることに気付き、慌てて右舵一杯、機関を微速力前進に減じたが、及ばず、19時25分沖防波堤西灯台から041度320メートルの地点において、昭靖丸は、203度を向首し、速力が3.0ノットになったとき、その左舷船首部が沖防波堤に20度の角度で衝突した。
当時、天候は曇で風力1の北風が吹き、潮候は下げ潮の中央期であった。
昭靖丸は、わずか右回頭しながら前進して左舷船尾部が沖防波堤に再び衝突し、同防波堤に係留されていたプレジャーボートが同防波堤と同船の左舷船首部とで挟まれた。
衝突の結果、沖防波堤及びプレジャーボートに損傷がなく、昭靖丸は左舷船首部の外板、ブルワーク及び左舷船尾部の外板にそれぞれ凹損を生じた。
(原因)
本件防波堤衝突は、夜間、福島県小名浜港において、同港を出航するに当たり、第2西防波堤東端を付け回したのち南下する際、船位の確認が不十分で、沖防波堤に向首する針路のまま進行したことによって発生したものである。
(受審人の所為)
A受審人は、夜間、福島県小名浜港において、同港を出航するに当たり、第2西防波堤東端を付け回したのち南下する場合、レーダーを使用して第1西防波堤と沖防波堤との相対位置関係を調べるなどして船位の確認を十分に行うべき注意義務があった。しかしながら、同人は、小名浜港における揚荷役が遅延したため次の仕向地の到着時刻が気になっていたこともあって、左舷側に視認した第1西防波堤南灯台を沖防波堤西灯台と誤認し、船位の確認を十分に行わなかった職務上の過失により、沖防波堤に向首したまま進行して同防波堤との衝突を招き、昭靖丸の左舷船首部の外板、ブルワーク及び左舷船尾部の外板にそれぞれ凹損を生じさせるに至った。
以上のA受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。