(事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
平成13年10月27日06時40分
釧路港
2 船舶の要目
船種船名 |
博丸 |
第八漁盛丸 |
総トン数 |
8.07トン |
7.3トン |
全長 |
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17.90メートル |
登録長 |
11.03メートル |
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機関の種類 |
ディーゼル機関 |
ディーゼル機関 |
出力 |
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384キロワット |
漁船法馬力数 |
90 |
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3 事実の経過
博丸は、小型底引き網漁業に従事するFRP製漁船で、A受審人(昭和58年2月一級小型船舶操縦士免許取得)ほか5人が乗組み、ししゃも漁の目的で、船首1.0メートル船尾1.5メートルの喫水をもって、平成13年10月27日04時30分釧路港東区港奥の旭町物揚場を発し、05時00分同港西区の南防波堤(以下「南防波堤」という。)南方の漁場において、漁労に従事中であることを示す形象物を掲げないまま、かけ廻し式底引き網(以下「かけ廻し式漁法」という。)により操業を開始した。
ところで、ししゃも漁のかけ廻し式漁法は、標識の樽を投入後、投網予定地点を右舷船首20度ばかりに見て発進し、10ノット前後の速力(対地速力、以下同じ。)で樽に繋がれた引き綱を右舷側リールウインチから投入していき、約600メートル進んだところで90度ほど右に肩折れし、更に約100メートル進んでから桁網を、次いで左舷側リールウインチから引き綱をそれぞれ投入しながら右回りに肩折れして樽のところまで戻り、左右2本の引き綱をリールウインチに取り込むと、わずかな前進速力で2本の引き綱を中央に肩寄せし、同速力を保ちつつ、同綱をリールウインチで巻き取り、揚網するというもので、投綱中に比べ、揚網中は操縦性能が著しく制限された。
また、当時、釧路川河口となる南防波堤西方及び南方には、それぞれ20ないし30隻の10トン未満の小型漁船が輻輳し、ほとんどが漁労に従事していることを示す形象物を掲げていなかったものの、船尾甲板に大型のリールウインチを装備していること、毎年10月25日がししゃも漁の解禁日であることなどから、それらの漁船は、互いにかけ廻し式漁法によりししゃも漁に従事していることが分かる状況にあった。
06時10分A受審人は、第2回目の操業のため船橋の操舵位置に就き、釧路港西区南防波堤西灯台(以下「西灯台」という。)から120度(真方位、以下同じ。)630メートルの地点に樽を投入して東方に向けかけ廻しを開始し、投網ののち同地点に戻って樽を回収後、リールウインチに左右の引き綱を取り込んで揚網にとりかかり、同時25分肩寄せのため針路を270度に定め、機関を適宜使いながら1.0ノットの速力で手動操舵により進行し、同時34分半肩寄せが終わったところで両引き綱を巻き始め、機関回転数を調整して同針路、同速力のまま続航した。
06時38分少し過ぎA受審人は、西灯台から156度350メートルの地点に達したとき、左舷船首33度650メートルのところに、針路が交差する態勢で引き綱の投入を開始した第八漁盛丸(以下「漁盛丸」という。)を認めることができ、その後方位変化のないまま接近し衝突のおそれがあったが、船尾方の桁網の状態を見ることに気をとられ、前路の見張りを十分に行っていなかったので、このことに気付かず、警告信号を行うことも、更に接近するに及んで機関を中立としたうえ、リールウインチを巻いて後退するなどの衝突を避けるための措置をとることもなく続航した。
06時40分わずか前A受審人は、ふと前方を振り返り、至近に迫った漁盛丸を認めたが、どうすることもできず、博丸は、06時40分西灯台から165度330メートルの地点において、原針路、原速力のまま、その左舷側中央部に、漁盛丸の船首が前方から36度の角度で衝突した。
当時、天候は晴で風力2の北東風が吹き、潮候は上げ潮の初期であった。
また、漁盛丸は、小型底引き網漁業に従事するFRP製漁船で、B受審人(昭和50年4月一級小型船舶操縦士免許取得)ほか5人が乗組み、ししゃも漁の目的で、船首0.45メートル船尾2.28メートルの喫水をもって、同日04時30分同港東区副港の船揚場を発し、05時00分南防波堤西方の漁場において、漁労に従事していることを示す形象物を掲げないまま、かけ廻し式漁法により操業を開始した。
06時38分少し過ぎB受審人は、3回目の操業を行うこととして船橋の操舵位置に就き、西灯台から211度780メートルの地点に樽を投入後、針路を054度に定め、機関を全速力より少し減じ、11.0ノットの速力で引き綱を投入しながら手動操舵により進行した。
定針したころB受審人は、右舷船首3度650メートルのところに、針路が交差する態勢で揚網中の博丸を認めることができ、その後方位変化のないまま接近し衝突のおそれがあったが、そのころ左舷側至近に存在した他船の引き綱に気を取られ、前路の見張りを十分に行っていなかったので、このことに気付かず、右転するなどして博丸との衝突を避けるための措置をとることなく続航中、そろそろ肩折れしようかと思った途端、漁盛丸は、原針路、原速力のまま前示のとおり衝突した。
衝突の結果、博丸は、左舷側中央部ブルワーク、操舵室等を圧壊したほか、乗組員1人が2箇月の通院加療を要する打撲傷等を、A受審人ほか乗組員2人が1週間の通院加療を要する打撲傷をそれぞれ負い、漁盛丸は、船首部に擦過傷等を生じた。
(原因)
本件衝突は、釧路港において、両船がかけ廻し式漁法により操業中、互いに針路が交差する態勢で接近した際、投綱中の漁盛丸が、見張り不十分で、わずかな前進速力で揚網中の博丸との衝突を避けるための措置をとらなかったことによって発生したが、博丸が、見張り不十分で、警告信号を行わず、衝突を避けるための措置をとらなかったことも一因をなすものである。
(受審人の所為)
B受審人は、釧路港において、かけ廻し式漁法により操業中、引き綱を投入しながら進行する場合、針路が交差する態勢で揚網中の博丸を見落とさないよう、前路の見張りを十分に行うべき注意義務があった。しかるに、同人は、左舷方至近にあった他船の引き綱に気をとられ、前路の見張りを十分に行わなかった職務上の過失により、博丸に気付かず、右転するなどして同船との衝突を避けるための措置をとらないまま進行して衝突を招き、自船の船首部に擦過傷等を生じさせ、博丸の左舷側中央部ブルワーク、操舵室等を圧壊させ、A受審人はじめ同船の乗組員3人に打撲傷等を負わせるに至った。
以上のB受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。
A受審人は、釧路港において、かけ廻し式漁法により操業中、揚網しながら進行する場合、針路が交差する態勢で投綱を開始した漁盛丸を見落とさないよう、前路の見張りを十分に行うべき注意義務があった。しかるに、同人は、船尾方の桁網の状態を見ることに気をとられ、前路の見張りを十分に行わなかった職務上の過失により、漁盛丸の接近に気付かず、警告信号を行うことも、機関を中立としたうえリールウインチを巻いて後退するなど、衝突を避けるための措置をとることもなく進行して同船との衝突を招き、両船及び自船の乗組員3人に前示の事態を生じさせ、自身も打撲傷を負うに至った。
以上のA受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。
よって主文のとおり裁決する。