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平成14年第二審第48号
件名

貨物船ハーバー ブリッジ貨物船ダブル スター衝突事件〔原審門司〕

事件区分
衝突事件
言渡年月日
平成15年10月30日

審判庁区分
高等海難審判庁(山崎重勝、平田照彦、雲林院信行、山田豊三郎、工藤民雄)

理事官
川本 豊

受審人
A 職名:ハーバー ブリッジ水先人 水先免許:関門水先区

損害
ハ 号・・・左舷後部外板に凹損
ダ 号・・・船首を圧壊

原因
ハ 号・・・船員の常務(新たな衝突のおそれ)不遵守(主因)
ダ 号・・・動静監視不十分、船員の常務(避航動作)不遵守(一因)

二審請求者
受審人A

主文

 本件衝突は、ハーバー ブリッジが、無難に航過する態勢にあったダブル スターに対し、増速して新たな衝突のおそれを生じさせたことによって発生したが、ダブル スターが、動静監視不十分で、衝突を避けるための措置をとらなかったことも一因をなすものである。
 受審人Aを戒告する。
 
理由

(事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
 平成13年3月15日21時16分
 関門港田野浦区
 
2 船舶の要目
船種船名 貨物船ハーバー ブリッジ 貨物船ダブル スター
総トン数 34,285.00トン 1,435トン
全長 225.157メートル 73.70メートル
機関の種類 ディーゼル機関 ディーゼル機関
出力 16,283キロワット 1,029キロワット

3 船舶の概要
(1)ハーバー ブリッジ
 ハーバー ブリッジ(以下「ハ号」という。)は、船尾船橋型のコンテナ船で、船首端から船橋楼前端まで約163メートル、船橋楼後端から船尾端まで約43メートルで、船首部にサイドスラスターを備えていた。
 ハ号の運動性能は、運動性能表によれば、舵効のある最小速力が2.0ノット、ノーマルロードコンディションにおける微速力が9.2ノット及び半速力が10.5ノットで、微速力又は半速力前進中に全速力後進をかけたときの船体停止までの所要時間と航走距離が、微速力で3.9分、0.35海里、半速力で4.3分、0.38海里であった。
(2)ダブル スター
 ダブル スター(以下「ダ号」という。)は、船尾船橋型の鋼材運搬船で、船首端から船橋楼前端まで約58メートル、船橋楼後端から船尾端まで約5メートルであった。
 ダ号の運動性能は、海上試運転成績表によれば、機関回転数毎分(以下「回転数」という。)314における速力が11.1ノット、回転数395の速力が13.3ノットで、同回転数、舵角35度における360度回頭に要する時間及び最大旋回径が、左旋回で3分39秒及び340メートル、右旋回で3分08秒及び330メートルであり、回頭角度30度、60度及び90度に要する時間が、左及び右旋回時とも同じで、それぞれ24秒、41秒及び58秒であった。また回転数395で前進中に全速力後進をかけたときの船体停止までの所要時間及び同距離は、1分50秒及び390メートルであった。
4 門司埼東方の水路状況
 門司埼東方の海域は、門司埼灯台から021度(真方位、以下同じ。)約1海里の地点に釜床ノ瀬灯浮標が設置されており、同灯浮標から095度約1海里の地点が太刀浦埠頭の北端で、同北端から112度600メートルまでが、順に太刀浦埠頭7号岸壁(以下、岸壁名については太刀浦埠頭を省略する。)及び8号岸壁となっており、同北端から228度1,000メートルまでが、順に6号岸壁から1号岸壁となっており、同岸壁の西側が田野浦埠頭であった。
 関門航路は、門司埼灯台から067度2,820メートルの地点(以下「ア地点」という。)まで引いた線が南縁、ア地点から320度930メートルの地点まで引いた線が東端となっていた。
 また、関門港の東側港界は、航路の東端を陸岸まで延長した線及びア地点から089度1,370メートルの地点、同地点から115度1,900メートルの地点及び部埼灯台を順次結んだ線で、太刀浦埠頭北端から000度方向及び7、8号岸壁から022度方向の港界までの距離が、それぞれ375メートル及び600メートルであった。
 また、8号岸壁の約1,000メートル北東側に東西方向約1.3海里、南北方向約0.4海里の中ノ州と称する浅礁があり、同州の南側と門司側陸岸との海域が中央水道と呼ばれ、関門海峡を通航する船舶の主たる通航路となっていた。
5 進路警戒船の配備
 北九州市港湾局は、田野浦太刀浦コンテナ船夜間入出港安全対策マニュアルを作成し、夜間、7号または8号岸壁から出港する全長270メートル以下のコンテナ船が関門航路を通航する際には、早鞆瀬戸の潮流が5ノット以下とし、総トン数30,000トン以上のコンテナ船は進路警戒船1隻を配備することなどを定めていた。
 また、関門水先業務協議会は、関門港における出入港船舶の安全確保のため、北九州市港湾局、下関市港湾局、関門水先区水先人会、西部海難防止協会、関係企業及び学識経験者で構成され、関門港入出港船舶の標準喫水及び船型表、巨大船等の警戒船業務指導指針(関門航路)及び巨大船等の進路警戒船執務要領(関門航路)などを作成していた。
 そして同協議会は、巨大船等の警戒船業務指導指針(関門航路)などの中で、警戒の開始及び終了は被警戒船の船長、水先人の指示に従い、特に終了の場合は船長、水先人と連絡を取り了解を得なければならないこと、被警戒船と連絡を取りつつその動静を把握し、他船に対しては巨大船の存在を知らせるよう努め、被警戒船の航行に不安を与えるような不当運航船を発見したら被警戒船船長、水先人に報告し、汽笛、拡声器その他有効な手段で当該船の注意を喚起し、必要に応じその付近に急行して被警戒船の安全航行に努めることなどを定めていた。
6 進路警戒船とびはた
 とびはたは、総トン数18トン、速力20ノットの進路警戒船で、レーダー1基、VHFのほか汽笛、探照灯及び拡声器などを備えていた。
 とびはたは、船長N及び甲板員1名が乗り組み、ハ号の進路警戒業務の目的で、平成13年3月15日20時45分ハ号が着岸している8号岸壁付近に至り、同号の発航に備えて待機した。
 21時00分N船長は、ハ号に乗船したA受審人に警戒業務に就く旨を報告し、所定の航海灯及び緑色回転灯1個を表示して待機地点を発し、同時05分太刀浦埠頭北端の北250メートルばかりの地点に至り、A受審人に釜床ノ瀬灯浮標付近と関門橋を過ぎたあたりに各1隻の東行船がいる旨を報告した。
7 本件発生に至る経緯
 ハ号は、韓国人船長Mほか韓国人8人、フィリピン人11人が乗り組み、コンテナ貨物4,574.2トンを積み、船首6.58メートル船尾8.10メートルの喫水をもって、A受審人が水先して右舷船尾部に引船を取り、同船とバウスラスターを使用して21時08分8号岸壁を発し、所定の航海灯と緑色閃光灯を表示して大韓民国釜山港に向かった。
 M船長は、三等航海士を船長補佐に、操舵手を手動操舵に就け、操船指揮にあたった。
 ところで、A受審人は、離岸にあたって、関門海峡海上交通センター(以下「関門マーチス」という。)に離岸を開始する旨を通報した際、門司埼付近の海域を航行する船舶の動静情報を得、また、とびはたから釜床ノ瀬灯浮標付近を東行するダ号と関門橋を過ぎたあたりに1隻の東行船がいる旨の報告を受け、自らこれらの船舶を確認したほか、ダ号の東方に1隻の東行船と、部埼灯台沖あたりに3隻の西行船を認めた。そこで同受審人は、離岸した後、ダ号とこれに続く東行船の通過を待ったのでは航路に入るのが遅くなり、ダ号と西行船の間で航路に入ることができると判断し、ダ号東方の東行船の通過を待って離岸操船を始めたものであった。
 21時11分半A受審人は、岸壁から約100メートル離れた、部埼灯台から306度1,920メートルの地点で、船首が303度を向いているとき、左舷船首27度約1.2海里のところにダ号の白、白、緑3灯を認めた。同受審人は、自船が8号岸壁を発航して関門航路を西行する旨の情報が、英語と日本語で関門マーチスからVHFによって通報されており、これまでも進路警戒船を介して航過舷を要請すれば、被要請船がこれに応じてくれていたことから、ダ号に対しても航過舷を要請すれば応じてくれると思い、とびはたに左舷前方の警戒を行わせ、引船を離した後、同船に船首方の警戒を行わせ、機関を微速力にかけて右舵10度を令してゆっくり回頭しながら進行した。
 21時12分半A受審人は、部埼灯台から306度1,990メートルの地点に達し、船首が304度を向き、対地速力(以下「速力」という。)が2.7ノットとなったとき、とびはたにダ号と左舷を対して航過する予定であるから、その旨を同号に伝えるよう指示した。
 このときA受審人は、ダ号が左舷船首26度1,610メートルに接近しており、同号が針路を変更せず、自船が右に回頭しながら増速を続けるとダ号に対し衝突のおそれを生じさせる状況であったが、とびはたを介して航過舷を要請したので、これが了解されると思い、同船からダ号が航過舷の要請を了解したか否かの報告を受けるまで、機関を停止するなどして増速を中止することなく、ハ号と太刀浦埠頭の間隔をできるだけ早く広げようとして半速力前進にかけ、その後、右に回頭しながら増速を続けて衝突のおそれがある態勢で続航した。
 一方、N船長は、A受審人からダ号と左舷を対して航過する予定であることを同号に伝えるよう指示され、急ぎ同号に赴き、左舷側中央部を並航しながら、拡声器をもって「ハードスターボード」と呼びかけるとともに、ダ号の左舷船首方に出て、探照灯によって右舷方向を照射するとともに、同号の船首を右方に変更するような操船を試みたが、同号からの応答が得られなかったので、その旨をA受審人に報告した。
 21時14分A受審人は、部埼灯台から305度2,160メートルの地点に達し、船首が315度を向き、速力が3.9ノットばかりになったとき、ダ号が左舷船首35度850メートルに接近しており、とびはたから航過舷を左舷とすることについてダ号の応答が得られない旨の報告を受け、更に呼びかけを続けるように指示し、汽笛による警告信号を吹鳴しながら増速を続けて進行した。
 21時14分半A受審人は、部埼灯台から306度2,220メートルの地点に至り、船首が320度を向き、ハ号の左舷船尾と太刀浦埠頭北端との距離が約150メートル離れたとき、左舷船首34度610メートルに接近したダ号が右転を始めたのを認めた。それで同受審人は、左舷を対して航過できると思っていたところ、同時15分半わずか前280メートルばかりに接近したとき、右転をしていた同号が左転を始めたのを認めたが、どうすることもできず、21時16分部埼灯台から306度2,460メートルの地点において、ハ号は325度を向き、約5.2ノットの速力で、その左舷後部に、ダ号の船首がほぼ直角に衝突した。
 当時、天候は晴で、風力2の北風が吹き、潮候は上げ潮の中央期で火の山下潮流信号所の潮流信号は東6ノットで下向き矢印を表示していた。
 また、ダ号は、中華人民共和国人船長Tほか同国人7人が乗り組み、空倉のまま、船首1.20メートル船尾2.60メートルの喫水をもって、平成13年3月13日18時00分(現地時間)中華人民共和国チョウ シャン港を発し、水島港に向かった。
 T船長は、ダ号の船長として発航3日前に乗船したばかりであったが、それ以前に同型船を含めて約2年間の船長経験があり、関門海峡の通航を何十回となく経験していた。
 同月15日19時50分T船長は、関門航路の西口に接近したとき昇橋し、操舵手を手動操舵に就け、所定の灯火を表示して同航路を東行し、21時12分部埼灯台から292度2.0海里の地点において、針路を085度に定め、機関を港内全速力前進にかけ、東流に乗じて12.8ノットの速力で進行した。
 21時12分半T船長は、右舷船首13度1,610メートルにハ号の白、白、紅3灯及び緑色閃光灯を認め、同号が太刀浦埠頭から出航していることを知ったが、自船が同埠頭の沖に達したころには既にハ号が前路を航過しているものと思い、その動静を監視せず、先航船の船尾灯を見ていたので、その後同号と衝突のおそれがある態勢で接近していることに気付かず、速力を減ずるなどの衝突を避けるための措置をとらないで、同一針路、速力で続航した。
 21時14分T船長は、ハ号が右舷船首15度850メートルに衝突のおそれがある態勢で接近しており、定針後、とびはたが左舷側を並航し、拡声器及び探照灯を照射しながら右転するように要請していたものの、この要請を理解できないまま、先航する東行船に追随することに専念し、依然としてハ号に対する動静監視を行わず、衝突を避けるための措置をとらないで、同一針路、速力で進行した。
 21時14分半T船長は、部埼灯台から302度2,800メートルの地点に達したとき、ハ号の音響信号によって、同号が右舷船首21度610メートルに接近していることを知り、衝突の危険を感じて右舵一杯に続いて機関を停止し、同時15分半わずか前、ハ号と280メートルばかりになったとき、船首が太刀浦埠頭北端を向き、同埠頭に360メートルばかりに接近しているのに驚き、岸壁との衝突の危険を感じて左舵一杯を取り、機関を全速力後進にかけたが、及ばず、ダ号は船首が065度を向き、約4ノットの速力で前示のとおり衝突した。
 衝突の結果、ハ号は左舷後部外板に凹損を生じ、ダ号は船首を圧壊したが、のちいずれも修理された。

(主張に対する判断)
 ハ号側は、(1)本件には海上衝突予防法第15条が適用されること、(2)船舶交通が輻輳する関門海峡において、巨大船が太刀浦埠頭から出航するには、通航船の協力が必要である。ハ号は、離岸を終えた時点では、ダ号との距離が1.5海里ばかりあり、進路警戒船を利用すれば、両船は安全に航過できる状況にあったところ、ダ号が、巨大船などの通航情報に関する関門マーチスの通報及び進路警戒船による通航の安全対策を理解せず、ハ号側が航過舷の要請を行ったにも係わらず、これに協力しないで直進し、近距離まで接近した後、ダ号が右転して左舷を対して航過できるようになったが、直前に左転して衝突したから、ダ号側に原因があり、ハ号側には原因はない旨主張するので、以下この点について判断する。
1 適用航法
 本件は、港則法が適用される関門港内において発生したが、同法には本件に適用する航法規定がないので、海上衝突予防法で律することになる。
 本件は、事件発生に至る経緯で認定したとおり、両船が、互いに進路を横切る態勢で接近して衝突しているものの、ダ号を左方に見るハ号が針路、速力を保持していないから、同法15条の横切り船の航法を適用することはできず、同法38、39条の船員の常務によって律するのが相当である。
2 衝突の原因について
(1)ダ号が進路警戒船の要請に応じなかった点について
 ダ号のT船長が、関門マーチスが行った巨大船の航行情報の通報を受信していたか否か、また理解していたか否かは証拠上不明であるが、同船長の保安官、検察官に対する供述調書写中、「関門海峡の東口の通航経験はあり、太刀浦埠頭のコンテナ岸壁から昼夜を問わず大型のコンテナ船が離着岸することは知っていた。21時12分右舷船首20度1,800メートルばかりの太刀浦埠頭の北東沖にマスト灯2個と左舷灯を認めた。」旨の記載があり、ハ号の存在を認めていたものと推認できる。
 一方、T船長は、同船長に対する質問調書中、「白紅2灯を表示した小型船が本船の左舷中央部にサーチライトを照らして近づき、拡声器で何か叫んでいたが理解できなかった。」旨の供述記載があり、とびはたがハ号の進路警戒船で、同船が行う航過舷の要請を理解しなかったことが認められる。
 関門マーチスが行う通航船舶の通報及び巨大船などが配備する進路警戒船の目的は、巨大船などとその他の通航船舶との安全を確保するためのものであり、巨大船などが他の通航船舶に航過舷などの要請をし、要請を受けた船舶が、同マーチスの通航情報を承知し、また要請内容を承知していたとしても、その要請に応じるか否かは、同船の選択によるものである。
 したがって、太刀浦埠頭から出航する巨大船などの操船者は、中央水道を東行、西行する船舶の航行の流れを横切ることになるから、他の船舶に航過舷などを要請したとしても、被要請船がこの要請に応じるか否かを確認した上で操船に当たることが必要であり、本件の場合、ダ号が、ハ号側の航過舷の要請に応じなかったことを原因とするのは相当でない。
(2)ダ号の衝突直前の左転
 ダ号のT船長は、 衝突の1分30秒前に右舷船首20度610メートルに接近したハ号を認めて激右舵を取り、同30秒わずか前に激左舵を取って衝突したものである。
 T船長は、ハ号を認めた後、動静監視を行わずに東行中、同号の音響信号によって、同号が至近に接近したことに気付き、激右舵を取ったものの、太刀浦埠頭に向首し、同埠頭に360メートルまで接近したとき激左舵を取った。この激左舵は、ダ号から同埠頭までの距離、同埠頭とハ号との距離が約150メートルであること、更に夜間であることを考慮すれば、岸壁との衝突を避けるためにとった咄嗟の措置であると判断する。
 したがって、本件は、再発防止の観点から、T船長が、衝突のおそれが生じてから21時14分半までの間にハ号の動静監視を行わず、衝突を避けるための措置をとらなかったことを原因とするのが相当であり、衝突直前の左転を原因とすることは相当でない。
(3)ハ号側の原因について
 A受審人が、ダ号に航過舷を伝えるよう、とびはたに指示したとき、ハ号の速力は2.7ノット、ダ号との距離は1,610メートルであり、この時点で増速を中止し、サイドスラスター及び引船を使用するなどして船体の姿勢を保持しながら、とびはたからの報告があるまで、同速力を維持するか、行きあしを停止しておれば、ダ号はハ号の前路を無難に通過していたことが認められる。
 ところが、A受審人は、これまでの経験から進路警戒船の要請が全て受け入れられていたので、ダ号も自船の要請に応えてくれるとして、とびはたからの報告を待たないで、増速を続けたことによって、衝突のおそれを生じさせたものである。
 したがって、衝突のおそれを生じさせたハ号側に主因がある。 

(原因)
 本件衝突は、夜間、関門港田野浦区において、ハ号が、太刀浦埠頭8号岸壁を発して関門航路に向かう際、中央水道に向け、前路を無難に航過する態勢で東行するダ号に対し、増速して新たな衝突のおそれを生じさせたことによって発生したが、ダ号が、動静監視不十分で、衝突を避けるための措置をとらなかったことも一因をなすものである。
 
(受審人の所為)
 A受審人は、夜間、関門港田野浦区において、ハ号を水先して太刀浦埠頭8号岸壁を離岸した後、関門航路に向かうにあたり、中央水道に向けて東行するダ号を認め、同号に左舷を対して航過するよう進路警戒船を介して要請した場合、ダ号が同要請を受け入れたか否かの報告を同警戒船から受けるまで、増速を中止すべき注意義務があった。しかるに同受審人は、進路警戒船を介しての要請が受け入れられるものと思い、同報告を受ける前に機関を半速力前進にかけ、増速を中止しなかった職務上の過失により、ダ号と新たな衝突のおそれを生じさせ、同号との衝突を招き、ハ号の左舷後部外板に凹損を、ダ号の船首に圧壊を生じさせるに至った。
 以上のA受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。

 よって主文のとおり裁決する。
 
(参考)原審裁決主文 平成14年10月29日門審言渡
 本件衝突は、ハーバー ブリッジが、無難に航過する態勢にあったダブル スターに対し、発進して新たな衝突のおそれを生じさせたばかりか、衝突を避けるための措置をとらなかったことによって発生したが、ダブル スターが、動静監視不十分で、警告信号を行わず、衝突を避けるための措置をとらなかったことも一因をなすものである。
 受審人Aを戒告する。


参考図
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