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平成14年第二審第45号
件名

引船春日丸引船列漁船光太郎丸衝突事件〔原審横浜〕

事件区分
衝突事件
言渡年月日
平成15年10月30日

審判庁区分
高等海難審判(東 晴二、宮田義憲、田邉行夫、吉澤和彦、山田豊三郎)

理事官
川本 豊

受審人
A 職名:春日丸船長 海技免許:五級海技士(航海)
B 職名:光太郎丸船長 操縦免許:小型船舶操縦士

損害
台 船・・・損傷ない
光太郎丸・・・左舷側ブルワーク及び船員室左舷壁を圧壊

原因
光太郎丸・・・見張り不十分、追越し船の航法(避航動作)不遵守(主因)

二審請求者
理事官織戸孝治

主文

 本件衝突は、春日丸引船列を追い越す光太郎丸が、見張り不十分で、同引船列の進路を避けなかったことによって発生したものである。
 受審人Bを戒告する。
 
理由

(事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
 平成12年3月2日05時25分
 三重県安乗埼東南東方沖合
 
2 船舶の要目
船種船名 引船春日丸 台船D-305
総トン数 97.17トン  
全長   60メートル
登録長 23.50メートル  
機関の種類 ディーゼル機関  
出力 661キロワット  
船種船名 漁船光太郎丸  
総トン数 6.0トン  
登録長 11.90メートル  
機関の種類 ディーゼル機関  
漁船法馬力数 80  

3 事実の経過
 春日丸は、限定沿海区域を航行区域とし、船橋がほぼ船体中央部に配置された鋼製引船で、受審人Aほか3人が乗り組み、船首1.10メートル、船尾3.10メートルの喫水をもって、鋼製台船D-305(以下「台船」という。)を曳航(えいこう)し、平成12年3月1日15時40分静岡県御前崎港を発し、黒色ひし形形象物を表示したうえ、大阪港に向かった。
 台船は、長さ60メートル、幅22メートル、深さ3メートルで、甲板が方形、船首端下方が斜めに切り欠いた形状となっており、当時空倉状態で、喫水が船首、船尾共に0.30メートルであり、ブルワークを含む水面上の高さが約5メートルであった。
 A受審人は、台船の船首左右から出した長さ約18メートルの各ワイヤロープの先端と春日丸から出した曳航索とを連結し、出港後曳航索を伸ばし、春日丸の船尾から台船の船尾まで約380メートルとし、日没前春日丸にマスト灯3個を連掲したほか、舷灯、船尾灯及び引き船灯を表示し、台船には舷灯及び船尾灯のほか、支柱により各舷側上方にそれぞれ3個、船尾端上方に1個の白色点滅灯を点灯した。
 23時00分A受審人は浜名湖の南方沖合で昇橋して船橋当直に当たり、その後伊勢湾第1号灯浮標の南方1.0海里付近を経て適宜左転しながら南下した。
 翌2日04時55分A受審人は、安乗埼灯台から073度(真方位、以下同じ。)5.4海里の地点に達したとき、針路を173度に定め、機関を全速力前進にかけ、6.0ノットの速力(対地速力、以下同じ。)で進行し、05時00分次直の機関員が船橋当直のため昇橋したが、沖合に向かう多数の漁船が存在したことから船橋に留まり(とどまり)、機関員に操舵させ、引き続いて船橋当直に当たった。
 A受審人は、同針路、同速力で進行中、05時15分安乗埼灯台から094度5.5海里の地点に達したとき、右舷船尾30度1.4海里のところにそれぞれが白、紅2灯を見せる光太郎丸を含む3隻を認め、これらが南東方に向かい、春日丸引船列(以下「引船列」という。)に接近する状況であることを知り、台船の方向を照らしていた探照灯2基を点滅して注意を促した。
 A受審人は、やがて光太郎丸以外の2隻は左転して引船列の船尾方を替わる針路に変更したものの、光太郎丸は同じ針路で接近し、05時22分半光太郎丸が右舷船尾24度850メートルとなり、引船列を追い越し、衝突のおそれがある態勢で接近したが、引船列を確実に追い越し、かつ、引船列から十分に遠ざかるまでその進路を避ける様子を見せないので、光太郎丸の動静監視を行いながら続航した。
 05時23分半A受審人は、光太郎丸が630メートルとなり、両舷灯を見せるようになったとき、なおも引船列の進路を避ける様子を見せず、引船列に衝突のおそれがある態勢のままであるので、再度探照灯を光太郎丸に向けて点滅するとともに、汽笛を吹鳴して警告信号を行ったものの、進路を避けないまま更に接近し、同時25分少し前同船が突然左転して台船の前方に向けるのを認めたが、どうすることもできず、05時25分安乗埼灯台から103度5.7海里の地点において、光太郎丸の船首部左舷側が173度に向いていた台船の船首端右舷側に直角に衝突した。
 当時、天候は晴で風力3の北西風が吹き、視界は良好で、潮候は上げ潮の初期であった。
 A受審人は、光太郎丸が走り去るのを認め、台船に損傷がないことを確かめ、鳥羽海上保安部に連絡するなど事後の措置に当たった。
 また、光太郎丸は、かつお一本釣り漁業に従事するFRP製漁船で、B受審人(昭和51年3月19日一級小型船舶操縦士の免許取得)ほか甲板員1人が乗り組み、船首0.30メートル、船尾1.45メートルの喫水をもって、同月2日04時25分三重県菅島漁港を僚船数隻とともに発し、安乗埼南東方沖合の漁場に向かった。
 04時36分B受審人は、菅島灯台から076度1.0海里の地点で、針路を155度に定め、日出時から操業を開始するつもりで、同時刻ごろ漁場に到着できるよう機関回転数を全速力前進よりも下げ、自動操舵として単独で船橋当直に当たり、13.0ノットの速力で進行した。
 B受審人は、操舵室内左舷側に置いたいすに腰掛け、レーダーを作動させ、目視による見張りを行いながら続航し、05時10分安乗埼灯台から069度4.5海里の地点に達したとき、左舷船首13度2.0海里のところに春日丸の白灯及び黄色灯のほか船尾方向を照らす明かりを認めた。
 B受審人は、春日丸に接近する状況であることを知ったが、左舷船首15度1.8海里のところに認めることができる状況であった台船の灯火に気付かず、春日丸を付近海域でよく見かける底引き網漁船と思い、もっと近付いてからその船尾方を左転してかわすつもりで、同針路のまま続航した。
 05時22分半B受審人は、春日丸が左舷船首6度850メートル、台船が左舷船首23度500メートルとなり、引船列を追い越し、衝突のおそれがある態勢であったが、春日丸を底引き網漁船と思い込んだまま、見張りを十分に行わなかったので、依然台船に気付かず、引船列を確実に追い越し、かつ、引船列から十分に遠ざかるまでその進路を避けることなく、続航した。
 05時25分少し前B受審人は、台船の船首端にほぼ並び、春日丸が左舷船首300メートルとなったとき、同船の船尾方をかわしてその左舷側に出ることとし、機関を5.0ノットの微速力前進に減じて左転を始め、083度に向いたとき、前示のとおり衝突した。
 B受審人は、損傷を確かめるとともに、救助を求め、僚船3隻の支援を受けて菅島漁港に帰港した。
 衝突の結果、台船には損傷はなかったが、光太郎丸は、左舷側ブルワーク及び船員室左舷壁を圧壊し、のち修理された。

(原因の考察)
 本件は、夜間、安乗埼東南東方沖合において、ともに南下中の引船列と光太郎丸とが衝突したものであるが、以下原因について考察する。
1 当時、視界は良好で、引船列は、正規の灯火を表示していたほか、春日丸は船尾方を照らす探照灯2基を点灯し、台船は両舷側及び船尾の甲板上に合計7個の点滅灯を点灯し、光太郎丸も正規の灯火を表示していた。
 両船の運航模様から光太郎丸は引船列を右舷船尾方から追い越す態勢であり、相互に相手船の表示する灯火を視認できる状況であった。
 このことから、光太郎丸側が十分な見張りを行っていれば、当然、春日丸が台船を引いて同航していることを認識できたものと認められる。
 したがって、海上衝突予防法第13条(追越し船の航法)が適用され、光太郎丸は避航船の立場にあり、引船列は、保持船の立場にあった。
2 A受審人は、追越しの態勢で引船列に接近する光太郎丸を認め、再三にわたって探照灯の点滅を行うとともに、汽笛を吹鳴して警告信号を行ったが、衝突するに至った。
 A受審人が衝突を避けるためにとり得る措置としては、機関を停止する、あるいは大幅に左転するなどの協力動作をとることが考えられるが、引船列の全長が約400メートルであることを考慮すれば、早期に光太郎丸側が引船列の進路を避けることはないということを察知したうえ、協力動作をとらなければならず、これを同受審人に期待することは到底できない無理な要求である。
 したがって、引船列側に本件発生の原因はないとするのが相当である。
3 B受審人は、A受審人が接近する光太郎丸に対して再三にわたって探照灯の点滅を行うとともに、汽笛を吹鳴して警告信号を行ったにもかかわらず、春日丸の灯火を見て同船を発生地点付近海域でよく見かける底引き網漁船であると思い込み、春日丸の探照灯の点滅及び汽笛の吹鳴にも、台船の存在にも、また春日丸が台船を引いていることにも気付かず、引船列の進路を避けずに進行し、春日丸の右舷船尾方に近付いたとき、同船の船尾方をかわして沖に向かおうとして突然左転し、台船の前路に進出した。
 B受審人が十分な見張りを行っていれば春日丸が台船を引いていることに気付き、台船との衝突を避けることができたのであるから、同受審人が十分な見張りを行わず、引船列の進路を避けなかったことは、本件発生の原因となる。

(原因)
 本件衝突は、夜間、三重県安乗埼東南東方沖合において、光太郎丸が、漁場に向かって南下中、同様に南下中の春日丸引船列を追い越す態勢となった際、見張り不十分で、春日丸引船列を確実に追い越し、かつ、同引船列から十分に遠ざかるまでその進路を避けなかったことによって発生したものである。
 
(受審人の所為)
 B受審人は、夜間、三重県安乗埼東南東方沖合において、左舷船首方に春日丸の灯火を認めて進行する場合、見張りを十分に行うべき注意義務があった。しかるに、同受審人は、春日丸を底引き網漁船と思い、見張りを十分に行わなかった職務上の過失により、春日丸引船列被引台船に気付かず、同引船列を確実に追い越し、かつ、同引船列から十分に遠ざかるまでその進路を避けないまま進行して同台船との衝突を招き、光太郎丸に左舷側ブルワーク及び船員室左舷壁が圧壊する損傷を生じさせた。
 以上のB受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第3号を適用して同受審人を戒告する。
 A受審人の所為は、本件発生の原因とならない。

 よって主文のとおり裁決する。
 
(参考)原審裁決主文 平成14年10月16日横審言渡
 本件衝突は、光太郎丸が、船首方を同航する春日丸引船列の表示する灯火の確認が十分でなかったばかりか、春日丸の船尾方に対する見張りが不十分で、被引台船D-b305の前路に進出しことによって発生したものである。
 受審人Bを戒告する。


参考図1
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参考図2
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