(事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
平成14年12月2日10時30分
広島県地御前漁港沖合
2 船舶の要目
船種船名 |
引船第三金福丸 |
総トン数 |
6.6トン |
全長 |
11.65メートル |
機関の種類 |
ディーゼル機関 |
出力 |
330キロワット |
3 事実の経過
第三金福丸(以下「金福丸」という。)は、カキ筏を曳航する鋼製引船で、A受審人(一級小型船舶操縦士昭和63年9月14日免許取得)が単独で乗り組み、カキ筏移動の目的で、船首1.0メートル船尾1.7メートルの喫水をもって、平成14年12月2日06時30分広島県佐伯郡能美町中田港を発し、同県廿日市市地御前漁港沖合のカキ養殖場に向かった。
A受審人は、07時40分同養殖場に着くと、作業にとりかかり、まず25号区画から横10メートル縦20メートルの筏を24号区画に曳航し、同区画から違う筏を25号区画に運び、今度は23号区画から25号区画に筏を曳航するため、10時08分25号区画の地御前港西防波堤灯台(以下「西防波堤灯台」という。)から113度(真方位、以下同じ。)830メートルの地点を発し、手動操舵のまま23号区画に向かう101度に針路を定め、機関回転数を毎分1,600として8.0ノットの速力で航行した。
A受審人は、舵輪の前で立って見張りをし、前路に障害物がないことを確かめながら航行していたところ、10時10分西防波堤灯台から108度1,320メートルの地点に達したとき、突然水面下にある浮流物に接触したと思われる衝撃を感じ、引き続き船体が振動していたことから、推進器翼の損傷が考えられ、そのまま航走すると振動で船尾管に損傷が生ずるおそれがあったが、以前に他の船で推進器翼を損傷してからも仕事を続けたことがあり、今回も大丈夫と思い、機関室を点検したり、機関回転を落とすなどの措置をとることなく、そのまま進行した。
ところで、金福丸の船尾管軸封装置は、船尾管側のシートリングと軸側のシールリングとの摺動面で水密を保つ機構となっており、船体振動の発生後は、シートリングを既存の船尾管に固定する取り付けボルト用の六角袋ナットとシールリング固定用ボルトがいずれも緩んだため、シール機構が次第に働かなくなって浸水が始まっていた。
A受審人は、浸水に気付かないまま続航し、10時12分半西防波堤灯台から106度1,950メートルの地点で23号区画に入り、しばらく筏の間を進んで同時13分半同灯台から110度2,170メートルの地点で機関回転を1,200に落とし、同時15分同区画内で、地御前港西防波堤灯台から115度2,280メートルの地点において、曳航予定の筏に右舷着けし、機関を中立として回転数を毎分450に落とし、筏の上に乗って曳航の準備作業を始めた。
A受審人は、10時30分操舵室で鳴っていた警報を聞き、船に戻って機関室の浸水警報であることを確認すると、機関室に赴き、船尾管のシール部分からの浸水を発見した。
当時、天候は晴で風はほとんどなく、潮候は下げ潮の初期であった。
金福丸は、2枚の推進器翼に曲損及び船尾管軸封装置に損傷を生じ、浸水発見後沈没を免れるため地御前漁港南側浅所に任意座礁し、のち修理された。
(原因)
本件浸水は、広島県地御前漁港沖において、航行中浮流物に接触し、推進器翼損傷による船体振動が発生した際、減速などの措置不十分で、船尾管軸封装置を損傷したことによって発生したものである。
(受審人の所為)
A受審人は、広島県地御前漁港沖において、航行中浮流物に接触し、推進器翼損傷による船体振動が発生した場合、振動により船尾管軸封装置を損傷し、そこからの海水浸入が当然予測されたのであるから、損傷を最小限に留めるよう、機関回転を下げるなどの措置をとるべき注意義務があった。しかしながら、同人は、以前にも推進器翼の損傷がありながら、仕事を続けたことがあったことから、今回も大丈夫と思い、機関回転を下げるなどの措置をとらなかった職務上の過失により、船尾管軸封装置を損傷し、浸水を招くに至った。
以上のA受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。