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平成15年長審第29号
件名

遊漁船恵漁丸運航阻害事件(簡易)

事件区分
運航阻害事件
言渡年月日
平成15年8月20日

審判庁区分
長崎地方海難審判庁(寺戸和夫)

理事官
花原敏朗

受審人
A 職名:恵漁丸船長 操縦免許:小型船舶操縦士

損害
機関が自停

原因
燃料油タンクの油量確認不十分

裁決主文

 本件運航阻害は、燃料油タンクの油量確認が十分でなかったことによって発生したものである。
 受審人Aを戒告する。
 
裁決理由の要旨

(事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
 平成14年5月14日06時30分
 長崎県福江島南西方沖合
 
2 船舶の要目
船種船名 遊漁船恵漁丸
総トン数 7.3トン
登録長 15.60メートル
機関の種類 過給機付4サイクル6シリンダ・ディーゼル機関
出力 301キロワット
回転数 毎分2,000

3 事実の経過
 恵漁丸は、平成5年に建造されたFRP製遊漁船で、主機として、昭和精機工業株式会社が製造した6KH-ST型と称するディーゼル機関を備えていた。
 主機は、A重油を燃料油とし、逆転減速機を介して推進器を駆動するほか、船首側動力取出軸に、電圧220ボルト容量10キロボルトアンペアの交流発電機を直結していた。
 恵漁丸は、船体中央やや船尾寄りに操舵室と機関室があり、両室の船首側に物入れと生け簀が、同船尾側に生け簀(いけす)、舵機室、清水タンクなどがそれぞれ配置され、客室は機関室上部と同後部の2箇所に設けられていた。
 燃料油タンクは、機関室後部客室の両舷にあり、容量は各500リットルで、機関室側側面にプラスチック製の丸形油面計が取り付けられ、建造当初は、同油面計に針金で100リットル毎の目盛りが付けられていたが、その後いつしかこの目盛りが取れ、油量は推算で把握することとなった。
 なお、同タンクは、燃料油の取出し弁を常時開弁状態とし、両舷タンクを共通として使用され、操舵室にタンク油量の遠隔表示はなかった。
 恵漁丸の燃料油消費量は、釣り客を2ないし3人乗せ、主機の回転数を毎分1,700として全速力の約20ノットで航走するとき、1時間当たり約100リットルで、また回転数を中立回転の毎分800として夜間の集魚灯用などに前示発電機のみを運転する場合は、1時間当たり約10リットルであった。
 一級小型船舶操縦士免許(昭和49年10月3日取得)を有するA受審人は、月3回ほど釣り客を乗せて遊漁を、また月4ないし5回ほど長崎県野母埼沖合で一本釣りを行っていた。
 恵漁丸は、平成14年5月13日10時00分A受審人が1人で乗り組み、釣り客6人を乗せ、船首0.5メートル船尾1.0メートルの喫水をもって、長崎県野母漁港を発し、遊漁の目的で、同県五島列島嵯峨ノ島西方沖合の釣り場に向かった。
 ところで恵漁丸は、発航地と釣り場とを全速力で往復する航走時間の7時間に、釣り場での発電機の運転時間約10時間を考慮すると、800ないし850リットルの燃料油が必要であったが、発航に際してA受審人は、前回補給した燃料油がまだ十分に残っているものと思い、燃料油タンクの油量を前もって確認しなかったので、同タンクの残油量が約500リットルで、安全運航に必要な量の燃料油を保有していないことに気付かなかった。
 こうして恵漁丸は、同日13時30分釣り場に至り、14時00分主機を停止したのち、釣りを開始し、日没後は、主機を中立回転で運転しながら、集魚灯などに必要な直結の発電機を駆動して釣りを続け、翌14日05時30分釣りを終えて帰航することとなった。
 釣り場を発進した恵漁丸は、対地速力14.0ノットで発航地に向けて帰航中、14日06時30分大瀬埼灯台から真方位180度600メートルの地点において、タンク内の燃料油が全て消費され、主機への燃料油供給が途絶えて同供給系統が空気を吸引し始め、機関が自停した。
 当時、天候は曇で風力1の北西風が吹き、海上は穏やかであった。
 A受審人は、油面計で燃料油タンクの油量を確認し、燃料油がなくなっていることに気付き、所属する漁業協同組合に救助を依頼した。
 恵漁丸は、大瀬埼灯台の南10海里付近まで流されたが、連絡を受けた近隣の漁業協同組合の漁船に曳航され、最寄りの長崎県玉之浦港に引き付けられた。

(原因)
 本件運航阻害は、発航する際、燃料油タンクの油量確認が不十分で、安全運航に必要な量の燃料油を保有しないまま、釣り場に向けて発航し、釣り場からの帰航中、同タンクの燃料油がなくなり、主機への燃料油供給が途絶えたことによって発生したものである。

(受審人の所為)
 A受審人は、発航する場合、運航中に燃料油が不足することのないよう、安全運航に必要な量の燃料油があるかどうか、燃料油タンクの油量を前もって確認すべき注意義務があった。ところが、同人は、前回補給した燃料油がまだ十分に残っているものと思い、燃料油タンクの油量を前もって確認しなかった職務上の過失により、釣り場からの帰航中、同タンクの燃料油を全量消費して同油がなくなる事態を招き、主機への燃料油供給が途絶えて機関が自停し、運航が阻害されて最寄りの港に曳航されるに至った。
 以上のA受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。





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