(事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
平成15年6月22日05時05分
新潟県小木港西南西方沖合
2 船舶の要目
船種船名 |
プレジャーボートイノ |
登録長 |
4.41メートル |
機関の種類 |
電気点火機関 |
出力 |
7キロワット |
3 事実の経過
イノは、FRP製プレジャーボートで、昭和51年7月16日交付の四級小型船舶操縦士免状を受有するA受審人が1人で乗り組み、釣りの目的で、船首0.2メートル船尾0.3メートルの喫水をもって、平成15年6月22日04時50分新潟県小木港内にある小木漁港小木地区を発し、同港西南西方沖合の釣場に向かった。
ところで、A受審人は、自船に海図を保有せず、レーダー及びGPSプロッタ等を装備していなかったものの、霧による視界制限状態のときの航行にあたっては、出航後しばらくするといつも視界が回復していたことから、これまで船位の確認には特に不都合を感じたことがなかった。同人は、発航に先立ち、同日04時ごろテレビの天気予報を聴視し、新潟県佐渡地方に濃霧注意報及び海上濃霧警報が発表されていることを知ったが、いつものように時間の経過につれて霧が晴れるものと予測して発航し、内ノ澗防波堤を航過して視界内にある陸岸沿いに船位を確認しながら西行するうち、港界付近に設置されている定置網の北端を認めるようになった。
A受審人は、目的の釣場が定置網の約2海里南西方にあって、この間に船位を確認するための事物がなかったが、依然そのうち晴れるものと思い、視界が回復する傾向にあるかどうか、気象・海象に対する配慮を十分にすることなく、04時55分小木港内ノ澗防波堤灯台(以下「防波堤灯台」という。)から233度(真方位、以下同じ。)0.8海里の地点で、針路を沖合の釣場に向く235度に定め、船外機を全速力前進にかけ、10.0ノットの対地速力で手動操舵により進行し、沖合に向けての航行を中止しなかった。
A受審人は、しばらく航行して後方を振り返って見たところ、濃霧のため陸岸を視認できないことに気付き、05時05分防波堤灯台から235度2.5海里の地点において、船位の確認が困難な状況になったことを認め、機関を停止して釣り糸で測深を試みたが測読できず、更に簡易マグネットコンパスを海中に落としたため航行を中止して漂泊を始めた。
当時、天候は霧で風はほとんどなく、潮候は上げ潮の中央期で、新潟県佐渡地方に濃霧注意報及び海上濃霧警報が発表され、視程は約100メートルで、日出時刻は04時23分であった。
その結果、A受審人は、携帯電話を使用し友人に連絡して状況を伝え、しばらくして海上保安部等から捜索に当たっていることを連絡されたが発見されず、その後勘を頼りに航行して沢崎鼻を回って北上し、同電話の圏外に出たうえ電源も切れて通話もできなくなり、再び機関を停止して様子を見ているうち、いつしか居眠りし始めた。
A受審人は、夜間になって目覚め、霧が晴れていて多数の灯火を視認し、陸岸が近いことを知ったので航行したところ、定置網用ブイを見つけてこれに係留し、燃料が少なくなっていたので陸岸への接近を夜明けまで待つこととした。
翌23日04時20分ごろイノは、城ケ鼻南西方沖合のブイ付近を通りかかった漁船に発見され、同船により新潟県稲鯨漁港に引き付けられた。
(原因)
本件安全阻害は、新潟県小木港西南西方沖合において、海上濃霧警報が発令されている状況下、レーダー及びGPSプロッタ等不装備のまま、視界内の陸岸に沿って小木港内を西行後沖合の釣場に向かう際、気象・海象に対する配慮が不十分で、沖合に向けての航行を中止しなかったことによって発生したものである。
(受審人の所為)
A受審人は、新潟県小木港西南西方沖合において、海上濃霧警報が発令されている状況下、視界内にある陸岸に沿って同港内を沖合の釣場に向け航行中、釣場の手前にある定置網を認めた場合、レーダー及びGPSプロッタ等の装備がないうえ、同網と釣場の約2海里間には船位を確認する事物がなかったのであるから、視界が回復する傾向にあるかどうか、気象・海象に対する配慮を十分にするべき注意義務があった。しかるに同人は、いつものようにそのうち視界が回復するものと思い、気象・海象に対する配慮を十分にしなかった職務上の過失により、沖合に向けて航行し、濃霧のため船位の確認が困難な状況になったことを認め、更に簡易マグネットコンパスを海中に落としたため航行を中止して漂泊するに至った。
以上のA受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。