(事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
平成14年10月6日17時00分
沖縄県浜比嘉島西岸沖
2 船舶の要目
船種船名 |
プレジャーボートトッチャンボーヤ2号 |
全長 |
3.12メートル |
機関の種類 |
電気点火機関 |
出力 |
95キロワット |
3 事実の経過
トッチャンボーヤ2号(以下「ト号」という。)は、川崎重工業株式会社製のジェットスキー1100STX D.I.と称するFRP製3人乗り水上オートバイで、平成12年6月に四級小型船舶操縦士の免許を取得したA受審人が1人で乗り込み、友人Tを後部座席に同乗させ、航走を楽しむ目的で、平成14年10月6日16時55分沖縄県金武中城港内にある浜比嘉島西岸の砂浜を発し、沖へ向かった。
ところで、ト号は、後部座席の後端から後方44センチメートル(以下、センチメートルを「センチ」と略す。)の船尾端に、着脱式の直径3.8センチ高さ74センチの金属製曳航(えいこう)索用支柱を立てるとともに、同支柱頂部の下方18センチのところから、後部座席の両側下端付近に向けてサイドパイプを渡し、ウェイクボードを曳航することができる状態となっていた。しかし、同支柱の取扱説明書には、ウェイクボードを曳航するとき以外は、安全のためにこれらを取り外すことなどの注意事項が記載されていた。
また、A受審人は、T同乗者ともども前示砂浜における友人十数人の集まりに参加し、水上オートバイの操縦資格と操縦経験を持つ友人達に混じってト号を操縦するつもりでいたものの、これまでその経験がなかったので、砂浜から友人達の航走模様を眺めたり、その操縦方法を教わるなどしたのち、15分間ばかりト号に乗り、ある程度の操縦感覚を掴んだ(つかんだ)ところで、T同乗者を後部座席に乗せて発進したものであった。
発進するとき、A受審人は、固定式チョッキ型救命胴衣の浮力体の外周に沿って取り付けられている3本のプラスチック製バックル付きベルトで腹部を、かつ、両袖ぐり部に取り付けられた同様のベルトで胸部をそれぞれ締めて着用し、T同乗者にも同様に救命胴衣を着用させたものの、それまで友人達が曳航索用支柱を立てたまま無難に航走を繰り返していたうえに、前示説明書が持参されておらず、同書に記載されていた注意事項などを確認する手段がなかったので、同支柱を取り外すことに思い及ばなかった。
こうして、A受審人は、約200メートル沖を陸岸に沿ってほぼ南北方向への航走を繰り返したのち、16時59分半金武中城港浜地区防波堤灯台(以下「浜地区防波堤灯台」という。)から206.5度(真方位、以下同じ。)710メートルの地点で、針路を013度に定め、スロットルレバーを調整して時速48キロメートルの対地速力で進行した。
A受審人は、浜比嘉島北端部付近に近づいたころ、やや波立つ状況となってきたので発進地点に戻ることとし、速力をわずかに減じるとともに大きく左舵をとって旋回中、ト号は、17時00分浜地区防波堤灯台から225度300メートルの地点において、左舷正横付近から受けた波に跳ね上がり、着水したときにバランスを崩し、右舷側に大傾斜して転覆した。
当時、天候は曇で風力3の南風が吹き、潮候は上げ潮の末期であった。
その結果、A受審人は、海中に転落してト号から約2メートル離れて浮上したものの、T同乗者(昭和51年3月31日生)は、後部座席に跨って(またがって)シートバンドを握っていたところ、転覆した折りに、着用していた救命胴衣が特殊な状況によって曳航索用支柱に引っ掛かり、浮上できずに溺水状態となり、同受審人に救助されて沖縄県立中部病院に搬送されたものの、同月12日溺水に起因する急性呼吸促迫症候群により死亡した。
(原因)
本件同乗者死亡は、沖縄県浜比嘉島西岸において、水上オートバイに2人で乗って発進する際、船尾端に立てていた曳航索用支柱を取り外さなかったことによって発生したものである。
(受審人の所為)
A受審人が、沖縄県浜比嘉島西岸において、水上オートバイに2人で乗って発進する場合、船尾端に立てていた曳航索用支柱を取り外さなかったことは、本件発生の原因となる。
しかしながら、以上のA受審人の所為は、これまで同受審人に水上オートバイの操縦経験がなかったこと、水上オートバイの操縦資格と操縦経験を持つ友人達が曳航索用支柱を立てたまま無難に航走を繰り返していたこと、及び発進時に同支柱の取扱説明書に記載されていた注意事項などを確認する手段がなかったこと、また、水上オートバイが転覆した折りに、着用していた救命胴衣が特殊な状況によって曳航索用支柱に引っ掛かり、同乗者が浮上できずに溺水状態となったことなどに徴し、同受審人の職務上の過失とするまでもない。
よって主文のとおり裁決する。