(事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
平成14年6月18日03時30分
備讃瀬戸 櫃石島西方沖合
2 船舶の要目
船種船名 |
漁船金本丸 |
総トン数 |
10.93トン |
登録長 |
13.20メートル |
機関の種類 |
ディーゼル機関 |
漁船法馬力数 |
120 |
3 事実の経過
金本丸は、主として2月1日から6月30日までの間、備讃瀬戸におけるいかなごを対象とした袋待網漁業に従事する、船体中央部に操舵室を配してその後方にリールウインチを設けたFRP製漁船で、A受審人(昭和49年11月一級小型船舶操縦士免許取得)が甲板員である妻と2人で乗り組み、漁具の補修及び洗浄の目的で、船首0.5メートル船尾1.0メートルの喫水をもって、平成14年6月18日03時00分岡山県下津井漁港を出港し、同漁港の南方に位置する櫃石島沖合に向かった。
袋待網漁業は、袋網とその網口の両脇に袖網が付いた底曳網状の漁網を海底に敷設し、潮流によって回遊する魚類を捕獲する敷網漁業の一種で、漁網の長さが約225メートルあり、各袖網には太さ14ミリメートル長さ約100メートルのワイヤロープが2本ずつ連結され、同ロープの先端を片袖ごと1個のシャックルで止め、これに一爪錨の錨索が繋がれていた。
そして、揚網時には錨索を外してワイヤロープの先端をリールウインチに係止し、同ロープに続いて漁網を同ウインチに巻き取り、漁具が長大で陸上に広げるのが難しいことから、その補修と洗浄は、潮回りが操業に適さない時期を選び、沖合に出て実施されていた。
03時05分A受審人は、櫃石島の西方沖合に着き、同島西岸に沿って流れる微弱な潮流に抗して船首を北北西方に向け、リールウインチのブレーキを緩めたうえで船尾から袋網の先端を海中に投入し、舵と機関を種々使用して、船首方向と船位をほぼ一定に保ちながら、潮流の流れに委ねて同網、袖網及びワイヤロープの順に繰り出し、甲板員を同ウインチ後方の左舷側に立たせ、漁網や4本の同ロープが絡んだりもつれたりしないようにこれらをさばかせ、自身は同ウインチ後方の右舷側に立ち、操船の傍ら損傷箇所を点検して補修作業を行った。
03時30分少し前A受審人は、下津井港一文字防波堤灯台から真方位167.5度1.0海里の地点で、補修作業が終わりかけたとき、ワイヤロープの延出を止めると、海中の各ワイヤロープの張り具合が均一でないことから、強く緊張した1本に引かれて船首方向が偏し、同ロープが後部甲板上で振れ回るおそれがあったが、ワイヤロープの振れ回りは大きくないものと思い、甲板員に対してリールウインチ側方の安全な位置に退避するよう十分に指示することなく、同ウインチのブレーキをかけたところ、最も左舷側のワイヤロープが緊張し、03時30分前示の地点において、金本丸は、船首が大きく左方に偏し、同ロープが船尾方向から左舷後方に一気に振れ、甲板員が同ロープに強打された。
当時、天候は曇で風はほとんどなく、潮候は上げ潮の末期であった。
その結果、甲板員が右大腿骨顆上骨折を負った。
(原因)
本件乗組員負傷は、備讃瀬戸の櫃石島西方沖合において、漁具の補修作業中、船尾から海中に繰り出したワイヤロープが後部甲板上で振れ回わるおそれがあった際、同甲板上の甲板員に対する安全な位置への退避の指示が不十分で、同甲板員が左舷方に振れた同ロープで強打されたことによって発生したものである。
(受審人の所為)
A受審人は、備讃瀬戸の櫃石島西方沖合において、甲板員と共に漁具の補修作業中、船尾から海中に繰り出したワイヤロープの延出を止める場合、強く緊張した同ロープに引かれて船首方向が偏し、同ロープが後部甲板上で振れ回るおそれがあったから、同甲板上の甲板員に対し安全な位置に退避するよう十分に指示すべき注意義務があった。しかし、同受審人は、ワイヤロープの振れ回りは大きくないものと思い、後部甲板上の甲板員に対し安全な位置に退避するよう十分に指示しなかった職務上の過失により、同甲板員が船首の左偏に伴い船尾方向から左舷後方に一気に振れたワイヤロープに強打され、右大腿骨顆上骨折を負うに至った。
以上のA受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。