(事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
平成14年8月10日05時40分
北海道宗谷岬南東方沖合
2 船舶の要目
船種船名 |
遊漁船第三十八大東丸 |
総トン数 |
4.9トン |
全長 |
14.85メートル |
機関の種類 |
ディーゼル機関 |
出力 |
213キロワット |
3 事実の経過
第三十八大東丸(以下「大東丸」という。)は、船体中央部に操舵室が設置されたFRP製遊漁兼用船で、A受審人(昭和53年3月一級小型船舶操縦士免許取得)が1人で乗り組み、釣客のKと同人の妻Mほか10人を乗せ、かれい釣りの目的で、船首0.3メートル船尾2.0メートルの喫水もって、平成14年8月10日05時00分北海道知来別漁港を発し、同漁港南東方9海里の釣り場に向かった。
ところで、知来別漁港南東約3海里にある海馬(とど)島周辺は、同島から南北方向にそれぞれ1,500メートルばかり礁脈が延びていて、水深が急に浅くなっており、高波の発生しやすい海域で、遊漁船が通航するときは、高波を受けて船体が動揺し釣客が姿勢を崩すおそれがあり、釣客に対する安全確保の措置を十分にとる必要があった。
また、A受審人は、遊漁船業を営んだのは数回で経験が浅かったが、かれい刺網やさんま流し網漁業等に従事していることから、海馬島周辺が高波の発生しやすい海域であることをよく知っていた。
一方、K釣客は、大東丸に乗るのは初めてであり、入会していた船釣りの同好会が催した釣会にM釣客とともに参加したもので、同会により割り振られた操舵室前方右舷側の釣り場所に2人で位置し、前部の3人、後部の7人と竿の用意等をした。
港口を出ると間もなく、K及びM両釣客は、速力が上昇してしぶきを浴びるようになったのでこれを避けるため船首部に移動し、最船首部となる一番魚倉のさぶたに並んで腰を下ろした。
05時20分半少し過ぎA受審人は、浜鬼志別灯台から335度(真方位、以下同じ。)3.6海里の地点に達したとき、針路を127度に定め、機関を半速力前進にかけて10.0ノットの対地速力(以下「速力」という。)で、操舵室右舷側に立って遠隔操舵により進行した。
05時33分少し前A受審人は、浜鬼志別灯台から005度2.1海里の地点に達し、海馬島北方沖合にさしかかったが、波が小さかったので高波が発生しても大したことはないと思い、速力を減じたり、船首部にいたK及びM両釣客に体を支えるように指示したり、後部の安全な場所に移動させたりするなど、釣客に対する安全確保の措置を十分にとることなく、続航した。
こうしてA受審人は、高波の発生しやすい海域に進入し、次第に船体の動揺が激しくなり、K釣客が両手を交差して危険な状態である旨を示したもののこれに気付かず、05時40分浜鬼志別灯台から042度1.8海里の地点において、大東丸は、高起した波を受けて船首が大きく上下動し、K及びM両釣客が上方に放り出されて甲板に落下した。
当時、天候は晴で風力4の東北東風が吹き、潮候は下げ潮の中央期で、波高は約1メートルであった。
A受審人は、釣客2人が上方に放り出されたことに気付かないまま06時10分釣り場に到着し、両釣客が痛みを訴えたので直ちに帰途に就き、07時05分知来別漁港に帰港した。
その結果、K釣客が背中を強打して第12胸椎破裂骨折を、M釣客が腰部を強打して第2腰椎破裂骨折を負い、それぞれ約2箇月間の入院治療を受けた。
(原因)
本件釣客負傷は、北海道知来別漁港から釣り場に向け航行中、高波が発生しやすい海域を通航する際、釣客に対する安全確保の措置が不十分で、高起した波を受けて船首が大きく上下動し、船首部の魚倉さぶたに腰を下ろしていた釣客が体を強打したことによって発生したものである。
(受審人の所為)
A受審人は、北海道知来別漁港から釣り場に向け航行中、同漁港南東方の海馬島付近で高波の発生しやすい海域を通航する場合、高波を受けて船体が大きく上下動することがあるから、船首部の釣客が負傷しないよう、減速したり、釣客に体を支えるように指示したり、釣客を後部の安全な場所に移動させたりするなど、釣客に対する安全確保の措置を十分にとるべき注意義務があった。ところが、同受審人は、波が小さかったので高波が発生しても大したことはないと思い、釣客に対する安全確保の措置を十分にとらなかった職務上の過失により、高起した波を受けて船首が大きく上下動し、船首部の魚倉さぶたに腰を下ろしていた釣客2人が上方に放り出され、甲板に背中、腰部をそれぞれ強打する事態を招き、釣客2人に第12胸椎破裂骨折、第2腰椎破裂骨折をそれぞれ負わせるに至った。
以上のA受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。