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平成14年那審第58号
件名

漁船幸丸乗組員死亡事件

事件区分
死傷事件
言渡年月日
平成15年8月28日

審判庁区分
門司地方海難審判庁那覇支部(小須田 敏、坂爪 靖、上原 直)

理事官
平良玄栄

受審人
A 職名:幸丸船長 操縦免許:小型船舶操縦士

損害
甲板員が窒息死

原因
漁労作業(波浪中における転落防止)の不適切

主文

 本件乗組員死亡は、波浪中における転落防止の措置が十分でなかったことによって発生したものである。
 受審人Aを戒告する。
 
理由

(事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
 平成14年6月28日16時30分
 沖縄県尖閣諸島東方沖合
 
2 船舶の要目
船種船名 漁船幸丸
総トン数 9.49トン
全長 15.79メートル
機関の種類 ディーゼル機関
出力 300キロワット

3 事実の経過
 幸丸は、主に延縄(はえなわ)漁業に従事するFRP製漁船で、昭和55年2月に一級小型船舶操縦士免許を取得したA受審人及び甲板長と甲板員Tの3人が乗り組み、操業の目的で、船首0.8メートル船尾1.8メートルの喫水をもって、平成14年6月20日10時00分沖縄県糸満漁港を発し、翌々22日同県尖閣諸島東方沖合の漁場に到着して操業を繰り返していた。
 ところで、幸丸は、まぐろ延縄漁船として建造された幅2.75メートルの和船型全通甲板漁船で、上甲板上に船首から順に船首甲板、前部甲板、機関室、操舵室及び船尾甲板を配置しており、船首甲板と機関室前端から操舵室後端にかけてのブルワーク頂部とに、それぞれ高さ約0.5メートルの中間横棒付き鋼管手すり(以下「手すり」という。)を設けていた。一方、前部甲板下に魚倉を配し、同甲板上の前部右舷舷側近くにラインホーラ、中央部左舷舷側近くに氷箱及び機関室の船首側側壁中央部に揚魚用ブームなどをそれぞれ装備しており、前部甲板を投揚縄作業などの場所として使用していたことから、同甲板上55センチメートルの両舷ブルワーク頂部に、それぞれ手すりを設けていなかったものの、左舷側のブルワーク上には手すりに替わるロープを張り、専ら右舷側で同作業を行っていた。
 また、A受審人は、投縄作業を終えたところで投縄開始地点付近に戻り、約1時間漂泊したのち、揚縄作業に備えてラインホーラに経験豊かな甲板長を、その船尾側に2航海目のT甲板員をそれぞれ配し、ゆっくりとした速力で幹縄の端を示す旗竿に近づいたところで、鈎棒(かぎぼう)を持った甲板長に旗竿の引き寄せとラインホーラを用いて幹縄の巻き上げとを、T甲板員に旗竿の引き上げと幹縄などの収納とを行わせており、投揚縄作業時の安全対策として、甲板上にかますを敷き詰めて滑り防止措置をとっていたものの、作業動作の邪魔になるなどの理由から、作業用救命衣の着用を指示していなかった。
 A受審人は、同月28日16時20分、当日3回目の揚縄作業に取り掛かることとし、尖閣諸島黄尾嶼の島頂から153度(真方位、以下同じ。)10.6海里の地点を発進し、針路を旗竿に向かう315度に定め、いつものように機関を微速力前進にかけ、2.5ノットの対地速力で手動操舵により進行した。
 発進したとき、A受審人は、甲板長がラインホーラの船尾側に立ち、T甲板員がTシャツに防水性胸付きズボンを着用し、長靴を履いた姿で揚魚用ブームの脇に立っているのを認めるとともに、左舷正横付近からやや高い波浪を受ける態勢となったことを知ったが、船体がさほど大きな横揺れを生じる状況ではなかったことから、まさか乗組員が海中に転落することはあるまいと思い、海上経験の少ない同甲板員に対して舷側近くに移動するときなどには、船の動揺を見計らうとともに、不意の動揺に備えて手すりなどを掴むように指示するなど、波浪中における転落防止の措置を十分にとることなく続航した。
 T甲板員は、機関室の船首側囲壁に身体を預けるようにして待機していたところ、右舷船首近距離のところに旗竿を認めたため、その引き上げに備えて舷側近くに移動しようとしたとき、船の動揺を見計らうことも、不意の動揺に備えて手すりなどを掴むこともしていなかったことから、16時30分黄尾嶼の島頂から153.5度10.2海里の地点において、幸丸が折からの波浪に同調して大きく動揺したとき、身体のバランスを崩し、声を発する間もなく海中に転落した。
 当時、天候は曇で風力3の南南西風が吹き、付近の海域には南西方から寄せる波高1.5メートルのうねりがあった。
 甲板長は、船首方に向いたまま、接近する旗竿に気をとられていたため、T甲板員が海中に転落したことに気付かず、旗竿まで約15メートルの距離となったとき、同甲板員に旗竿の引き上げ準備を促そうと船尾方に振り返ったところ、右舷船尾付近の海面上にT甲板員の頭部を認め、直ちにA受審人にこのことを知らせた。
 A受審人は、幸丸の操船に専念していたところ、甲板長からの知らせでT甲板員が海中に転落したことを初めて知り、急いで幸丸を右転させて浮遊している同甲板員に近づき、救命浮環を投げるなどして甲板長とともに救助作業を行い、16時40分ごろ意識不明の同甲板員を船内に収容し、心臓マッサージなどを施すとともに海上保安庁に救助を要請した。
 T甲板員(昭和29年10月12日生)は、来援した海上保安庁のヘリコプターで沖縄県石垣市の病院に搬送されたが、同日20時10分溺水による窒息死と検案された。

(原因)
 本件乗組員死亡は、沖縄県尖閣諸島東方沖合において、やや高い波浪が寄せる状況下で操業する際、転落防止の措置が不十分で、海上経験の少ない乗組員が不意の船体動揺により身体のバランスを崩し、海中に転落したことによって発生したものである。

(受審人の所為)
 A受審人は、沖縄県尖閣諸島東方沖合において、やや高い波浪が寄せる状況下で操業する場合、海上経験の少ない乗組員に対して舷側近くに移動するときなどには、船の動揺を見計らうとともに、不意の動揺に備えて手すりなどを掴むように指示するなど、転落防止の措置を十分にとるべき注意義務があった。しかるに、同受審人は、船体がさほど大きな横揺れを生じる状況ではなかったことから、まさか乗組員が海中に転落することはあるまいと思い、転落防止の措置を十分にとらなかった職務上の過失により、海上経験の少ない乗組員が不意の船体動揺により身体のバランスを崩し、海中に転落して死亡するに至った。
 以上のA受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。

 よって主文のとおり裁決する。





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