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平成15年那審第18号
件名

漁船第三徳代丸乗組員負傷事件

事件区分
死傷事件
言渡年月日
平成15年8月19日

審判庁区分
門司地方海難審判庁那覇支部(上原 直、坂爪 靖、小須田 敏)

理事官
濱本 宏

受審人
A 職名:第三徳代丸船長 操縦免許:小型船舶操縦士
指定海難関係人
B 職名:第三徳代丸甲板員

損害
甲板員が右肘関節開放性骨折

原因
漁労作業(空気呼吸器用容器の安全確認)の不適切

主文

 本件乗組員負傷は、空気呼吸器用容器の安全確認が十分でなかったことによって発生したものである。
 受審人Aを戒告する。
 
理由

(事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
 平成14年8月12日23時35分
 沖縄県渡嘉敷島北方沖合
 
2 船舶の要目
船種船名 漁船第三徳代丸
総トン数 7.02トン
登録長 10.60メートル
2.40メートル
深さ 0.93メートル
機関の種類 ディーゼル機関
漁船法馬力数 120

3 事実の経過
 第三徳代丸(以下「徳代丸」という。)は、潜水器漁業に従事するFRP製漁船で、上甲板上に船首側から順に、船首甲板、前部甲板、操舵室、機関室及び船尾甲板を配置しており、前部甲板下に設けられた魚倉にはFRP製のふたがしてあった。
 徳代丸は、前部甲板上の周囲に、潜水器漁業に使用する空気呼吸器用容器(以下「ボンベ」という。)が23ないし24本を横に寝かせて転がらないように固定されており、同甲板の左舷前部にFRP製のボンベへの空気充填箱を取り付け、同箱の中には充填により熱された圧縮空気を冷却する海水が入れられていた。
 また、A受審人が行う潜水器漁業は、沖縄県那覇港西方沖合の慶伊瀬島及び慶良間列島周辺の水深10ないし20メートルの水域を主漁場とし、2日間漁業に従事し1日休むか3日間漁業に従事しては2日休むという就労形態をもって、1箇月当たり18日程従事する漁業を周年行い、専ら夜間に潜水して水中銃で魚を射って捕るもので、ボンベの空気が切れるまでの約40ないし45分間を1操業として1夜で5ないし6操業を行っていた。その間、船上には乗組員1人を配置し、ボンベ充填用空気圧縮機(以下「圧縮機」という。)によりボンベへ空気を充填する作業と、潜水者の水中電灯の明かりを頼りに船を操り、潜水者を追尾して操業後の獲物を船内へ取り入れる作業などを行わせていた。
 徳代丸は、機関室内の主機の船尾方右舷側に空気圧縮機原動機(株式会社ヤンマー製NFAD8型ディーゼル機関)を、同左舷側に圧縮機をそれぞれ配置しており、圧縮機は、機関室左舷側後部の上甲板上からホースで空気を取り入れ、圧縮した空気を前示の充填箱まで、長さ約9メートル直径11ミリメートル(以下「ミリ」という。)の高圧ゴムホースで送り、同ホースの充填口付近には、圧縮機側から順に圧力計、切換三方コック、ボンベ接続金具、切換三方コック及びボンベ接続金具と結ばれていた。
 ボンベへの空気の充填作業は、ボンベ接続金具をボンベの空気入口にセットして、ボンベの充填圧力を210キログラム毎平方センチメートル(以下、圧力の単位を「キロ」という。)までと設定して、充填口付近に備えられた圧力計が200キロを指し示す状況となった(以下「満タン」という。)ところで、三方コックを切り換えて次のボンベに流し始め、満タンのボンベの入口バルブを閉めて同金具内の圧力を大気に放出してから同金具を外すもので、ボンベ1本当たりの充填所要時間は、平均して25分ぐらいであった。
 徳代丸で使用していたボンベは、スチール製とアルミニウム合金製(以下「アルミ製」という。)があり、両方とも耐圧検査受検時の許容圧力は335キロで、スチール製ボンベが常用最高充填圧力200キロ空気容量12及び14リットル入りの2種類と、アルミ製ボンベが常用最高充填圧力220キロ空気容量8及び10リットル入りの2種類の計4種類があり、前示充填箱の右舷側の脇にボンベを立ててロープで縛り、充填により熱された圧縮空気の冷却を行わずに充填を行うこともあった。
 A受審人は、中学校卒業と同時に父親と潜水器漁を始め、父親が船内で圧縮機を使用してボンベへの空気充填を行っていたため、昭和50年4月に一級小型船舶操縦士免許を取得し、昭和53年に中古の本船を購入して船長職に就いたのちも同様に船内でボンベの空気充填を続け、使用ボンベ数の確保、ボンベの入口バルブなどが壊れた時の取替修理及びボンベ内部の掃除などを行っており、スキューバダイビングに用いるボンベには、長期間にわたって圧縮空気圧により膨張収縮を繰り返すとボンベの材質が劣化し、バルブのネジ部もしくはボンベ胴体の発錆部などを起点に破裂するおそれがあり、定期的に高圧ガス保安協会の指定した機関が行う耐圧検査などが必要であるということを知っていた。
 ところが、A受審人は、船内で圧縮機を使用してのボンベへの空気充填が禁止されていることを知らなかったばかりか、自らの圧縮機で充填する場合は、使用するボンベの耐圧検査は必要ないものと思い込んだまま同充填を繰り返していたが、ボンベ胴体部の外面腐食による破裂した例を聞いたことがなかったことから、ボンベは破裂しないものと思い、これまで定期的にボンベの耐圧検査を依頼するなどボンベの安全確認を十分に行うことなく、10年以上も使われているボンベや外面腐食が進行したボンベに空気充填を行い使用していた。
 B指定海難関係人は、中学校卒業と同時にまぐろ漁船の船員になり、平成12年7月から徳代丸に乗船して潜水器漁に従事していたもので、輪番で行うボンベへの充填作業にも慣れていたものの、同船で使用する複数のボンベに外面腐食が進行しているのを認め、その使用に不安を感じていたが、A受審人に対して、同ボンベの点検などを進言していなかった。
 こうして、徳代丸は、A受審人及びB指定海難関係人ほか3人が乗り組み、操業の目的で、船首0.4メートル船尾1.4メートルの喫水をもって、平成14年8月12日18時30分那覇港新港ふ頭小船だまりを発し、同県渡嘉敷島北方の漁場で操業を行っていた。
 B指定海難関係人は、ボンベへの空気の充填作業に就き、充填箱の右舷側で船首方を向いて、高さ590ミリ、直径188ミリ、充填圧力200キロ及び空気容量12リットル入りのスチール製ボンベに空気を充填し始め、同ボンベの外面腐食が進行しているのを認めたものの充填を続け、充填圧力が200キロになり右手でボンベのバルブを閉鎖しているとき、同日23時35分牛ノ島灯台から真方位355度1.2海里の地点において、同ボンベの胴体部が破裂した。
 当時、天候は曇で風力1の南南東風が吹き、海上は穏やかであった。
 破裂の衝撃により、充填箱やそれに入っていたアルミ製ボンベ3本など全てが吹き飛んで、船体に当たるなどして船体の一部を損傷したほか、B指定海難関係人も、船橋前通路右舷側まで吹き飛ばされ、右肘関節開放性骨折を負った。
 A受審人は、潜水に従事していた他の3人より早めに船内に上がり、右舷側で魚の選別を行っていたとき、バスッという破裂音を聞き、異常の発生を知ると共に上甲板上に怪我をして倒れているB指定海難関係人を見つけ、直ちに漁場を発して帰途に就き、手配した救急車により同人を那覇市立病院に搬送した。
 A受審人は、本件以降、船内でのボンベへの空気充填を取り止め、ボンベリース業者からボンベを借りて潜水器漁を行うこととした。

(原因)
 本件乗組員負傷は、潜水器漁業に従事する際、空気呼吸器用容器の安全確認が不十分で、沖縄県渡嘉敷島北方漁場において、外面腐食が進行していた同容器に空気を充填中、空気充填圧力により同容器が破裂したことによって発生したものである。
 空気呼吸器用容器の安全確認が十分でなかったのは、船長が、定期的に同容器の耐圧検査などを依頼しなかったことと、乗組員が、空気呼吸器用容器に外面腐食が進行しているのを認めた際、船長に対し、同容器の点検を進言しなかったこととによるものである。

(受審人等の所為)
 A受審人は、潜水器漁業に従事する場合、空気呼吸器用容器に外面腐食が進行すると、空気充填圧力により同容器が破裂するおそれがあったから、定期的に空気呼吸器用容器の安全確認を十分に行うべき注意義務があった。ところが、同人は、それまで空気呼吸器用容器の破裂した例を聞いたことがなかったことから、同容器は破裂しないものと思い、これまで定期的に同容器の耐圧検査を依頼するなど空気呼吸器用容器の安全確認を十分に行わなかった職務上の過失により、沖縄県渡嘉敷島北方漁場において、外面腐食が進行していた同容器に空気を充填中、空気充填圧力により同容器が破裂する事態を招き、充填作業に携わっていた乗組員に右肘関節開放性骨折を負わせるに至った。
 以上のA受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。
 B指定海難関係人が、空気呼吸器用容器に外面腐食が進行しているのを認めた際、船長に対し、同容器の点検を進言しなかったことは、本件発生の原因となる。
 B指定海難関係人に対しては、勧告するまでもない。

 よって主文のとおり裁決する。





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