(事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
平成14年8月11日10時30分
和歌山下津港有田区
2 船舶の要目
船種船名 |
プレジャーボートラブリーオチヨ5 |
総トン数 |
12トン |
全長 |
13.10メートル |
機関の種類 |
ディーゼル機関 |
出力 |
397キロワット |
3 事実の経過
ラブリーオチヨ5(以下「ラ号」という。)は、最大とう載人員15人の2機2軸のFRP製プレジャーボートで、A受審人が1人で乗り組み、知人11人を同乗させ、船首0.7メートル船尾1.0メートルの喫水をもって、平成14年8月11日10時00分和歌山下津港海南区和歌山マリーナシティを発し、同港有田区地ノ島海水浴場(以下「海水浴場」という。)沖合に向かった。
A受審人は、平成2年8月に一級小型船舶操縦士免許を取得し、平成9年から主として釣りを目的にラ号を運航していたところ、当日には自らが経営する飲食店の従業員や常連客など総勢23人で、海水浴場でバーベキューパーティーを行う目的で、ラ号の定員の関係から2回に分けて参加者を搬送することとし、まず1便目で半数の11人を海水浴場の沖合まで運び、そこからラ号に搭載していた全長約2.5メートルのゴムボートで9人を海水浴場に上陸させ、残りの2人をゴムボートに乗せたまま沖に待機させて発航地に戻り、2便目として11人を同乗させて再度発航した。
ところで、ラ号は、船体中央部のキャビンの天井がフライングブリッジとなっており、主機の発停以外の操作及び操舵を行えるようになっていた。
また、船尾部は、船首尾線から左右に各68センチメートル(以下「センチ」という。)で喫水線下約70センチのところに、回転直径56センチの3翼一体型推進器翼の各中心があり、船尾側舷縁から約90センチ下方で喫水線上約20センチのところに、ゴムボートへ移乗するときなどに利用する、両舷にわたるトランサムステップが設備され、トランサムステップ後端と推進器翼外縁との水平距離は約110センチであった。
A受審人は、フライングブリッジで操舵操船に当たり、10時15分ごろ海水浴場の沖合に至り、風を船首に受ける態勢で行きあしを止め、水深約5メートルのところに重さ15キログラムの錨を投下し、一度入れ直したのち、錨鎖を約25メートル延出し、主機のクラッチを切って錨かきの姿勢が安定したことを確認し、同時27分和歌山下津港有田東燃ゼネラル石油シーバース灯から291度(真方位、以下同じ。)700メートルの地点で、主機をアイドリング状態のまま船首を南方に向けて錨泊を開始した。
10時30分少し前A受審人は、フライングブリッジから船尾方を見たとき、ゴムボートがいつの間にかトランサムステップに接舷され、バーベキューセット、クーラーボックス及び缶ビールなどが既に積み込まれ、同乗者O及び同Nの2人が移乗しており、1便目のときと同じ要領で、上陸の準備を始めたことを知った。
10時30分わずか前A受審人は、突然大声を聞き、声がした船尾方を振り向いたところ、移乗していた2人の姿が見えなくなっていたうえに、ゴムボートが転覆しているのを認め、同ボートから離れるために前進することとしたが、ゴムボートから離れることのみに気を取られ、落水した同乗者が推進器翼に接触することのないよう、同翼周辺における落水者の存在確認を十分に行わなかったので、落水した同乗者が推進器翼至近にいることに気付かなかった。
ラ号は、10時30分前示錨泊地点において、A受審人が主機クラッチを前進に入れたとき、船首を150度に向け、回転した推進器翼が落水した2人の同乗者に接触した。
当時、天候は晴で風力4の南風が吹き、潮候は下げ潮の中央期であった。
A受審人は、叫び声を聞いて船尾方を向いたとき、船尾付近の海面に浮いているO、N両同乗者を見て事故の発生を知り、事後の措置に当たった。
その結果、O同乗者(昭和54年12月26日生)は、救急車により病院に搬送されたが、脳挫傷により死亡し、N同乗者が約2箇月の入院加療を要する右開放性腸骨骨折、右上腕骨骨幹部骨折及び右膝外側側副靱帯損傷などを負った。
(原因)
本件同乗者死傷は、和歌山下津港有田区において錨泊中、転覆したゴムボートから離れるために前進する際、推進器翼周辺における落水者の存在確認が不十分で、落水した2人の同乗者に同翼が接触したことによって発生したものである。
(受審人の所為)
A受審人は、和歌山下津港有田区において錨泊中、転覆したゴムボートから離れるために前進する場合、2人の同乗者がゴムボートから落水したことが分かる状況であったから、落水者が推進器翼に接触することのないよう、同翼周辺における落水者の存在確認を十分に行うべき注意義務があった。しかるに、同受審人は、ゴムボートから離れることのみに気を取られ、推進器翼周辺における落水者の存在確認を十分に行わなかった職務上の過失により、落水者が同翼至近にいることに気付かず、主機のクラッチを入れ、回転した推進器翼が落水した2人の同乗者に接触する事態を招き、1人を脳挫傷により死亡させ、他の1人に右開放性腸骨骨折、右上腕骨骨幹部骨折及び右膝外側側副靱帯損傷などを負わせるに至った。
以上のA受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第2号を適用して同人の小型船舶操縦士の業務を1箇月停止する。
よって主文のとおり裁決する。