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平成15年神審第39号
件名

引船鳳竜丸乗組員負傷事件(簡易)

事件区分
死傷事件
言渡年月日
平成15年8月20日

審判庁区分
神戸地方海難審判庁(中井 勤)

理事官
杉崎忠志

受審人
A 職名:鳳竜丸機関長 海技免状:四級海技士(機関)(機関限定・履歴限定)

損害
機関長が顔面、上半身に火傷等

原因
電気設備(鉛蓄電池に対する外部火点の発生)の防止措置不十分

裁決主文

 本件乗組員負傷は、鉛蓄電池に対する外部火点の発生を防止する措置が不十分で、同電池が爆発したことによって発生したものである。
 受審人Aを戒告する。
 
裁決理由の要旨

(事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
 平成14年4月22日10時20分
 舞鶴港
 
2 船舶の要目
船種船名 引船鳳竜丸
総トン数 98トン
全長 29.95メートル
機関の種類 ディーゼル機関
出力 551キロワット

3 事実の経過
 鳳竜丸は、鋼製引船で、A受審人が機関長としてほか2人と乗り組み、発電所建設用空気ダクトを積載した長さ70メートル幅25メートルの台船を曳航し(えいこうし)、船首2.6メートル船尾2.8メートルの喫水をもって、平成14年4月18日17時10分愛媛県東予港を発し、夜間航海を経て同月21日10時30分舞鶴港第3区に至り、荷役待機の目的で錨泊を始めた。
 機関室は、その主要寸法が長さ約8メートル幅約6.8メートル高さ約5メートルの上下2段となった構造で、主機が下段のほぼ中央に据え付けられ、上段船首側に両舷にわたる長さ4.5メートル幅1メートルの通路、同通路の両舷及び船首側にそれぞれ鋼製扉を有した外部及び居住区に通じる出入口、並びに天井には開閉可能な天窓が設けられていた。
 また、台船には、航海灯が両舷及び船尾に設置され、それぞれ12ボルト40ワットの電球が取り付けられており、同船のほぼ中央部に格納された鉛蓄電池(以下「蓄電池」という。)2個を並列に接続してそれらの電源とし、周囲の明るさを検知して自動的に開閉するスイッチを介し点灯するようになっていた。
 蓄電池は、日本電池株式会社が製造した、GET-130F51型と呼称する、端子電圧12ボルト容量130アンペア時のもので、ケーシング上部に充放電用陽極及び陰極ターミナル、並びに電解液補給用として6個の液口栓が取り付けられ、同栓には充電中に発生する水素ガス等の排出口が開けられていた。
 ところで、蓄電池は、電解液の補充などの保守が適正に行われており、夜間航海を終えると、次の航海に備えるため、鳳竜丸の機関室において1個につき約24時間の充電が繰り返されていた。
 一方、充電器は、セルスター工業株式会社が製造した、CC-2200DX型と呼称する、入力電源を電圧100ボルトの単相交流とし、定格出力を電圧12又は24ボルト電流12アンペアとする直流を選択して取り出すことができるもので、蓄電池の前記ターミナルへ容易に接続できるよう、端部にクリップを取り付けた充電用電線を介して充電するようになっていた。そして、取扱説明書には、充電中に爆発の危険があるガスが発生すること、充電完了時期を電解液の比重値によって判断すること、及び充電器の電源を遮断せずに前記クリップを取り外すと、同ターミナルで発生する電気火花が前記ガスに引火し、蓄電池が爆発するおそれがあることなど、取扱上の注意事項が記載されていた。
 鳳竜丸は、錨泊を始めたとき、船内電源を機関室外に設置されたディーゼル機関を原動機とする交流発電機に切り替え、外気温度が比較的低かったことから、2台ある機動通風機を停止し、外部に通じる開口部については、同室上段通路左舷側出入口扉が開放されただけであったので、同室内の換気が良好に行われない状態で錨泊を続けることとなった。
 4月21日13時00分A受審人は、機関室上段通路の右舷寄りに台船から2個の蓄電池を搬入し、そばに置いた充電器を用いてそれらのうち1個の充電を開始したところ、翌22日10時15分液口栓を開放して電解液の比重を測定すると、充電終止状態を示す値に上昇していたので充電を終了することとし、充電中には多量の水素ガスが蓄電池から発生するので、充電器の電源を遮断せずに充電用電線のクリップを取り外すと、同ターミナルで発生する電気火花が同ガスに引火し、蓄電池が爆発するおそれがあることを承知していたが、引き続いて充電を開始する予定であった別の蓄電池の準備に気をとられ、充電器の電源を遮断することなく充電用電線の取り外しにかかった。
 こうして、鳳竜丸は、充電を終えた蓄電池内及びその周辺に多量の水素ガスが滞留している状況のもと、A受審人が最初に蓄電池の陰極側充電用電線のクリップを取り外したところ、10時20分舞鶴港ミヨ埼灯台から真方位127度1,200メートルの前記錨泊地点において、陰極側ターミナルで生じた電気火花の水素ガスへの引火により、同電池が爆発し、同人は、船首側の出入口扉から居住区に退避したが、浴室前に至って横向きに倒れた。
 当時、天候は晴で風力3の西風が吹き、周囲の海上は平穏であった。
 その結果、鳳竜丸の機関室などに損傷が生じなかったものの、A受審人は、顔面及び上半身に火傷及び裂傷を負い、これを発見した船長が救助を依頼した巡視船などにより最寄りの病院に搬送され、治療を受けた。

(原因)
 本件乗組員負傷は、蓄電池の充電完了直後、充電用電線を同電池の陰極側ターミナルから取り外す際、外部火点の発生を防止する措置が不十分で、同ターミナルで発生した電気火花により、付近に滞留していた水素ガスに引火し、同電池が爆発したことによって発生したものである。

(受審人の所為)
 A受審人は、蓄電池の充電完了直後、充電用電線を同電池の陰極側ターミナルから取り外す場合、充電中には多量の水素ガスが発生するのであるから、同ガスに引火することがないよう、充電器の電源を遮断したのちに同電線を同ターミナルから取り外すなど、外部火点の発生を防止する措置をとるべき注意義務があった。しかるに、同人は、引き続いて充電を開始する予定であった別の蓄電池の準備に気をとられ、外部火点の発生を防止する措置を十分にとらなかった職務上の過失により、同ターミナルで電気火花を生じさせ、充電を終えた同電池の爆発を招き、同人が顔面及び上半身に火傷及び裂傷を負うに至った。
 以上のA受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。





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