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 海難審判庁裁決録 >  2003年度(平成15年) > 死傷事件一覧 >  事件





平成15年神審第33号
件名

遊漁船第十六新幸丸釣客負傷事件

事件区分
死傷事件
言渡年月日
平成15年8月8日

審判庁区分
神戸地方海難審判庁(相田尚武、甲斐賢一郎、中井 勤)

理事官
佐和 明

受審人
A 職名:第十六新幸丸船長 操縦免許:小型船舶操縦士

損害
釣客1人が第11胸椎圧迫骨折

原因
旅客(航走時の釣客)の安全措置不十分

主文

 本件釣客負傷は、航走時の釣客に対する安全措置が十分でなかったことによって発生したものである。
 受審人Aを戒告する。
 
理由

(事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
 平成14年4月27日06時15分
 京都府丹後半島東方沖合
 
2 船舶の要目
船種船名 遊漁船第十六新幸丸
総トン数 18トン
全長 21.88メートル
機関の種類 ディーゼル機関
出力 728キロワット

3 事実の経過
 第十六新幸丸(以下「新幸丸」という。)は、平成4年11月に進水した、最大搭載人員20人の一層甲板型のFRP製小型遊漁船で、甲板上は船首側から船首甲板及び前部甲板となっており、船体中央部から船尾寄りにかけて船室及び操舵室が配置され、その後方は船尾甲板となっていた。
 新幸丸の前部甲板は、長さ3.35メートル幅3.80メートルで、その中央部に6枚のいけす用さぶたが設けられ、同さぶたに沿わせて長さ約2.4メートル幅約0.4メートル高さ約0.5メートルのベンチ形釣座が左右にそれぞれ設置され、同釣座から約0.6メートル隔てた両舷側に高さ0.8ないし1.0メートルのブルワークが設けられていた。
 新幸丸は、平成12年8月31日交付の一級小型船舶操縦士免状を有するA受審人が1人で乗り組み、釣客U及び同Nほか11人を乗せ、遊漁の目的で、船首0.8メートル船尾1.5メートルの喫水をもって、同14年4月27日05時50分京都府養老漁港を発し、経ケ岬(きょうがみさき)西方の釣り場に向かった。
 A受審人は、発航前に入手した気象情報により風浪の強まることが予測されたので、港外に出て主機回転数を毎分1,500の全速力前進にかけて間もなく、前部甲板の釣座に腰掛けて釣り道具の準備をしていたU及びN釣客ほか2人と舷側にいた釣客に対して、操舵室の窓から身を乗り出して船室に入るよう促し、そのことが伝わらなかったものの、船体動揺が小さかったことから前部甲板に4人を乗せたまま、手動操舵により東行した。
 新幸丸は、06時03分過ぎ丹後鷲埼灯台東方において、針路を転じて北上し始めたところ、船首方向からの風浪を受けて船体が大きく縦揺れするようになったことから、主機回転数が毎分1,500から1,300に減じられ約15ノットの速力で進行中、A受審人がいったん同回転数を更に減じ、前部甲板で釣座から下りて釣座とブルワークに掴まっていた(つかまっていた)釣客に対し、スピーカーで船室に入るか後方へ移動するよう勧めたが、そのことが伝わらなかったため、釣客の移動が行われないまま、再び増速して約15ノットの速力で続航した。
 A受審人は、06時11分半丹後鷲埼灯台から022度(真方位、以下同じ。)1.9海里の地点に至り、針路を新井埼(にいさき)東方に設置された定置網沖合に向く011度に定めたとき、船体動揺が激しくなり、前部甲板の釣客が引き続き同甲板にしゃがみ込み、釣座とブルワークにしがみついていることを知ったが、この程度の船体動揺では大事に至ることはないものと思い、減速して自動操舵に切り替えたうえ、自ら同甲板へ赴いて釣客を船室や船尾甲板に移動させるなど、安全措置を十分にとることなく、前部甲板に釣客を乗せたまま進行した。
 こうして、新幸丸は、船首方向からの風浪を受け、船首が2メートルほどの縦揺れを繰り返しながら前示の針路及び約15ノットの速力で続航中、06時15分丹後鷲埼灯台から018度2.9海里の地点において、船首部が更に大きく上下に動揺したとき、前部甲板右舷側前方で身体を支えていたN釣客が跳ね上げられ、後方で同様に身体を支えていたU釣客の背中に激突した。
 当時、天候は晴で風力5の北北東風が吹き、付近海上には波高約2メートルの波浪があった。
 A受審人は、N釣客の叫び声で事故発生を知り、行きあしを止め、前部甲板に赴いてU釣客が負傷したことに気付き、携帯電話により救急車の手配にあたるとともに最寄りの京都府新井漁港へ入航した。
 その結果、U釣客は、全治3箇月の通院加療を要する第11胸椎圧迫骨折を負った。

(原因)
 本件釣客負傷は、京都府丹後半島東方沖合において、釣り場に向けて北上中、船体動揺が激しくなり、前部甲板にいた釣客が釣座から下りて同甲板で身体を支える状況となった際、釣客に対する安全措置が不十分で、同甲板に釣客を乗せたまま続航し、船首部が大きく上下に動揺したとき、跳ね上げられた前方の釣客が後方の釣客に激突したことによって発生したものである。

(受審人の所為)
 A受審人は、釣り場に向けて北上中、船体動揺が激しくなり、前部甲板にいた釣客が釣座から下りて同甲板にしゃがみ込み、釣座とブルワークにしがみついていることを知った場合、そのまま続航すれば釣客が転倒して危険な事態を生じるおそれがあったから、減速して自動操舵に切り替えたうえ、自ら同甲板へ赴いて釣客を船室や船尾甲板に移動させるなど、安全措置を十分にとるべき注意義務があった。しかるに、同人は、この程度の船体動揺では大事に至ることはないものと思い、自ら前部甲板へ赴いて釣客を船室や船尾甲板に移動させるなど、安全措置を十分にとらなかった職務上の過失により、前部甲板に釣客を乗せたまま続航し、船首部が大きく上下に動揺したとき、跳ね上げられた前方の釣客を後方の釣客に激突させる事態を招き、同釣客の胸椎を圧迫骨折させるに至った。
 以上のA受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。

 よって主文のとおり裁決する。





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