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平成15年門審第31号
件名

貨物船新住宝丸乗組員死傷事件

事件区分
死傷事件
言渡年月日
平成15年7月15日

審判庁区分
門司地方海難審判庁(長谷川峯清、安藤周二、千葉 廣)

理事官
上中拓治

受審人
A 職名:新住宝丸船長 海技免状:三級海技士(航海)

損害
機関長が心臓破裂により死亡、船長が左足中足骨骨折

原因
荷役等(船倉内)作業の不適切

主文

 本件乗組員死傷は、鋼材輸送時における船倉内作業の危険に対する判断が適切でなかったことによって発生したものである。
 受審人Aを戒告する。
 
理由

(事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
 平成14年4月17日11時35分
 紀伊水道
 
2 船舶の要目
船種船名 貨物船新住宝丸
総トン数 199トン
全長 57.57メートル
機関の種類 ディーゼル機関
出力 661キロワット

3 事実の経過
 新住宝丸は、鋼材輸送に従事する船尾船橋型の鋼製貨物船で、船体中央部に長さ31.35メートル幅7.50メートル及び深さ4.40メートルの船倉1個を設け、A受審人及び船舶所有者の代表者の実弟である機関長Iほか1人が乗り組み、岡山県倉敷市の川鉄物流株式会社(以下「川鉄物流」という。)水島サービスセンターでH形鋼471.522トンを積み、船首2.60メートル船尾3.60メートルの喫水をもって、平成14年4月16日15時10分水島港を発し、千葉県浦安市の同社浦安流通センターに向かい、20時00分から23時20分まで鳴門海峡北側で潮待ちをして同海峡を通航後、翌17日00時30分兵庫県福良港に投錨仮泊し、06時30分抜錨して発進した。
 ところで、川鉄物流は、川鉄運輸、川鉄倉庫両株式会社が、同6年7月1日に海上輸送業等の目的で合併して設立された会社で、鋼材輸送時における航海の安全、作業の安全、品質保証及び能率向上を確保するため、薄板、厚板、鋼管、条鋼及び溶材各製品別の積付要領等を定めた国内鋼材積付作業基準を作成し、これに従って製品の積付を行っていた。
 また、川鉄物流は、H形鋼を船舶に積み付ける際には、原則としてばら積みあるいは2本のH形鋼の平行するそれぞれの2辺(以下「フランジ」という。)上部にその間に挟まれた1本のH形鋼のフランジを乗せる形状(以下「結束」という。)で奇数本を並べ、それぞれその自重で移動を抑制するとともに、万棒と称する45ミリメートル(以下「ミリ」という。)ないし75ミリの木製角材を適宜の長さとして使用し、積付け時の高さや隙間(すきま)の調整及び固定(以下「保定」という。)を行っていたが、航海中に万棒が外れて不測の荷崩れ等が発生したときには、直ちに報告すること及び船倉に立ち入らないことなどを代理店経由で各船に指導周知していた。
 発航前に積み付けられたH形鋼(以下、単位をミリとしてその表示を「ウェブ高さ×フランジ幅」とする。)は、中型と称する150×150、175×175、190×197、294×200及び346×174が、工場から出荷時にすべて2段ないし3段として結束用番線によって束ねられた長さ6メートルないし13メートルの製品(以下「結束製品」という。)で、その重量が合計444.125トン、並びに大型と称する300×300、350×350、400×400及び900×300が、長さ7メートルないし16メートルのばら積み製品で、その重量が合計27.397トン、総合計1,463本471.522トンであった。
 川鉄物流は、A受審人が立会いのもと、中型H形鋼を船倉の船首尾両隔壁からそれぞれ約2メートル離して舷側から舷側まで船の長さ方向に、倉底から高さ約2.3メートルまで平らに7段積み上げ、8段目から上方を前後左右各3ブロックとして結束製品を3段積み上げ、船首尾方向の中央列各ブロックの左右両舷側の隙間に、それぞればら積み製品を積み付けた。なお、同社は、同中央列右舷側に設けた約1.4メートルの隙間の、船体中央ブロック部に350×350を、船尾側中央ブロック部の船体中心線寄りに900×300を2列に並べて落とし込み、その右舷寄りに400×400を上下2段に積み上げた。
 このとき、川鉄物流は、A受審人から大型H形鋼の左右に隙間があって船体の動揺で傾斜するおそれがあるとの申出を受け、傾斜防止の目的で、上下2段とした400×400の上方に、11段目として3本の400×400を結束して積み付けるとともに、船尾側中央ブロックと900×300との間に、通常より大きな90ミリ角の万棒を縦に数本打ち込んだ。
 こうして、A受審人は、発進後自ら単独の船橋当直に就いて紀伊水道に向かい、07時00分沼島灯台から276度(真方位、以下同じ。)6.4海里の地点で、針路を140度に定め、機関を半速力前進にかけ、7.5ノットの速力(対地速力、以下同じ。)で、折からの南南西風によって左方に3度圧流されながら、手動操舵によって進行し、間もなく同当直を一等航海士に引き継いで降橋した。
 新住宝丸は、和歌山県全域に強風波浪注意報が発表されている状況の下、南西寄りの強風と波高約3メートルの波浪とにより左右に10度ばかり横揺れしながら続航した。
 11時25分A受審人は、番所鼻灯台から299度10.4海里の地点で、I機関長から積荷が揺れている旨の報告を受け、第2甲板左舷側にある船尾側船倉出入り口から積荷の状況を確認したところ、船体の動揺が繰り返されているうちに前示90ミリ角の万棒が外れ、11段目として積み付けられた3本のH形鋼の結束が緩み、そのうちの船体中心線寄りの1本が左舷側に傾斜しているのを認めた。
 11時30分A受審人は、番所鼻灯台から298度9.8海里の地点で、I機関長が安全靴、ヘルメット等の安全具を装着し、傾斜したH形鋼を万棒で保定すると言って船倉内に立ち入ろうとするのを認めたとき、鋼材輸送時に乗組員が船倉内で保定作業を行うと、船体の動揺によって積荷が不測の荷崩れや傾斜を生じてこれに巻き込まれたり、挟撃されたりするおそれがある状況であったが、川鉄物流の専用船として継続して用船されるためには積荷に傷を付けてはならないことや、傾斜したH形鋼の下に万棒を差し込んで積荷の揺れを抑えることは短時間で行うことができるものと思い、同機関長が船倉内に入るのを制止して直ちに同社に積荷の状況を連絡のうえ、最寄りの港に入港して積荷を保定し直させる措置をとるなど、船倉内作業の危険に対して適切に判断することなく、船橋当直者に連絡しないまま、同機関長の後に続いて船倉内に立ち入り、2人で保定作業を始めた。
 11時35分少し前A受審人は、右舷側の中央、船尾側両ブロック間の幅約500ミリの空間に入り、左舷側に傾斜した400×400の右舷側下部に万棒を差し込み終え、I機関長が船体中央ブロックと900×300間の幅約300ミリの空間に入り、船体の動揺に合わせて傾斜した400×400の左舷側下部に万棒を差し込もうとしたとき、折からの強風と波浪とによって船体が大きく動揺し、11時35分番所鼻灯台から296.5度9.2海里の地点において、自らの左足が傾斜した400×400の右舷側のH型鋼と右舷側中央ブロックとの間に挟まれ、同機関長が左舷側に傾斜した900×300と船体中央ブロックとの間に挟撃された。
 当時、天候は雨で風力4の南南西風が吹き、潮候は下げ潮の中央期に当たり、発生地点付近の海域には波高約3メートルの波浪があった。
 A受審人は、大声で一等航海士に事故の発生を知らせ、同航海士とI機関長の救出に取り掛かったが果たせず、海上保安庁に通報して救出を依頼し、同庁の指示を受け、自ら操船に当たって最寄りの田辺港に急行し、13時00分同港に入港して同機関長を救出した。
 その結果、I機関長(昭和15年2月28日生、五級海技士(機関)免許受有)は、和歌山県田辺市紀南総合病院に搬送されたが、既に心臓破裂により死亡しており、A受審人は、約3週間の入院加療を要する左足中足骨骨折等を負った。

(原因)
 本件乗組員死傷は、東京湾に向けて紀伊水道を南下中、船倉内に積載したH形鋼の結束に緩みが生じた際、鋼材輸送時における船倉内作業の危険に対する判断が不適切で、乗組員が船倉内に立ち入り、船体の動揺により傾斜したH形鋼と隣接したH形鋼との間に同乗組員が挟撃されたことによって発生したものである。

(受審人の所為)
 A受審人は、東京湾に向けて紀伊水道を南下中、船倉内に積載したH形鋼の結束に緩みが生じ、乗組員が保定すると言って船倉内に立ち入ろうとするのを認めた場合、鋼材輸送時に乗組員が船倉内で保定作業を行うと、船体の動揺により積荷が不測の荷崩れや傾斜を生じてこれに巻き込まれたり、挟撃されたりするおそれがあったから、乗組員を制止し、直ちに輸送会社に積荷の状況を連絡のうえ、最寄りの港に入港して積荷を保定し直させる措置をとるなど、船倉内作業の危険に対して適切に判断するべき注意義務があった。ところが、同受審人は、同社に継続して用船されるためには積荷に傷を付けてはならないことや、H形鋼の下に万棒を差し込んで積荷の揺れを抑えることは短時間で行うことができるものと思い、船倉内作業の危険に対して適切に判断しなかった職務上の過失により、乗組員と2人で船倉内に立ち入って保定作業を始め、折からの強風と波浪とにより船体が大きく動揺すると同時に結束が緩んだH形鋼とその下部の大型H形鋼とが傾斜し、それぞれに隣接するH形鋼との間に自らと乗組員が挟撃される事態を招き、乗組員が心臓破裂により死亡し、自らが約3週間の入院加療を要する左足中足骨骨折等を負うに至った。
 以上のA受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。

 よって主文のとおり裁決する。





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