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 海難審判庁裁決録 >  2003年度(平成15年) > 機関損傷事件一覧 >  事件





平成15年那審第3号
件名

漁船盛丸機関損傷事件(簡易)

事件区分
機関損傷事件
言渡年月日
平成15年9月30日

審判庁区分
門司地方海難審判庁那覇支部(上原 直)

理事官
濱本 宏

受審人
A 職名:盛丸船長 操縦免許:小型船舶操縦士

損害
プロペラ軸の折損

原因
プロペラ軸の点検不十分

裁決主文

 本件機関損傷は、プロペラ軸の点検が十分でなかったことによって発生したものである。
 受審人Aを戒告する。
 
裁決理由の要旨

(事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
 平成14年5月17日18時30分
 鹿児島県請島南方沖合
 
2 船舶の要目
船種船名 漁船盛丸
総トン数 1.66トン
登録長 7.10メートル
機関の種類 4サイクル3シリンダ・ディーゼル機関
出力 8キロワット

3 事実の経過
 盛丸は、昭和55年1月22日に進水した主として一本釣り雑漁業に従事するFRP製漁船で、船体中央部に機関室を配し、その船尾側に操舵室を設け、操舵室から主機全体と船尾管までのプロペラ軸が点検できるようになっていた。
 主機の動力伝達系統は、プロペラ軸の船首側に取り付けられた組立形軸継手フランジ(以下「プロペラ軸継手フランジ」という。)を、クランク軸のフランジに6本のボルト・ナットで連結し、主機の動力をプロペラに伝達していた。
 ところで、プロペラ軸継手フランジの構造は、プロペラ軸が長さ2.3メートル直径36ミリメートルで、その先端がテーパー状になっていて、そのテーパー部にキーを間に挟んでプロペラ軸をプロペラ軸継手フランジに入れ、先端部からカップリング・ナットをクランク軸前進回転と逆の、いわゆる逆ねじに締め込むようになっていた。
 A受審人は、昭和51年10月22日に二級小型船舶操縦士(5トン限定)の免許を取得し、盛丸に単独で乗り組み、鹿児島県古仁屋港を基地として、同県加計呂麻島やその周辺の島々間で、5月下旬から7月にかけてさわら釣り漁を、8月から翌年5月中旬までの間に、伊勢えびの素潜り漁に従事し、年に2回ほど上架して船体の保守整備を行い、たまにプロペラ軸のペンキ塗り作業のため自らプロペラ軸継手フランジを外してプロペラ軸を抜き出していたが、本船進水以来、プロペラ軸を新替えしたことがなかった。
 ところで、A受審人は、経年によるプロペラ軸へ掛かる繰返し曲げ応力のため、フレッチングによる摩耗部からプロペラ軸継手フランジはめ合い部のキー溝端付近にいつしか亀裂が生じていたが、同軸復旧の際、プロペラ軸継手フランジを取り付け、クランク軸のフランジに6本のボルト・ナットで慎重に連結しているから、プロペラ軸に亀裂など生じることはないものと思い、整備業者に頼んでカラーチェックをするなどしてプロペラ軸の点検を十分に行わなかったので、そのことに気付かなかった。
 こうして、盛丸は、平成14年5月17日16時00分古仁屋港を発し、請島南側の漁場に至り伊勢えびの素潜り漁を始め、波浪を生じる状況となってきたので、凪いでいる島陰に主機を全速力前進にかけて移動中、前示のプロペラ軸に生じていた亀裂が進行し、18時30分皆津埼灯台から真方位226度9.5海里の地点において、プロペラ軸が、プロペラ軸継手フランジはめ合い部のキー溝端付近で、軸心にほぼ直角に折損し、急に主機の回転音が高くなった。
 当時、天候は曇で風力2の南東風が吹き、潮候は上げ潮の初期であった。
 A受審人は、プロペラ翼が落ちたと思い、潜ってみるとプロペラ軸が少し船尾側に飛び出しており、その後、機関室をのぞき主機の動力伝達系統を点検したところ、プロペラ軸継手フランジはめ合い部のキー溝端付近でプロペラ軸の折損を認めた。
 盛丸は、通信手段がなかったことから、錨を打って待機していたが、風向が変わり走錨漂流していたところ、瀬戸内漁業協同組合から捜索依頼を受けた巡視船により、翌々19日07時30分発見され、僚船により古仁屋港に曳航された。

(原因)
 本件機関損傷は、主機の運転管理にあたる際、プロペラ軸の点検が不十分で、漁場を移動中、経年による繰返し曲げ応力のためプロペラ軸に生じた亀裂が進行したことによって発生したものである。

(受審人の所為)
 A受審人は、主機の運転管理にあたる場合、経年による繰返し曲げ応力のため、プロペラ軸に亀裂などが生じていないかどうか、整備業者に頼んでカラーチェックなどをさせ、同軸の点検を十分に行うべき注意義務があった。ところが、同人は、同軸復旧の際、プロペラ軸継手フランジを取り付け、クランク軸のフランジに6本のボルト・ナットで慎重に連結しているので、プロペラ軸に亀裂が生じることはないものと思い、整備業者に頼んでカラーチェックをさせるなどしてプロペラ軸の点検を十分に行わなかった職務上の過失により、漁場を移動中、プロペラ軸継手フランジはめ合い部のキー溝端付近で、繰返し曲げ応力により生じた亀裂が進行して軸心にほぼ直角に同軸を折損させ、僚船に曳航されるに至った。
 以上のA受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。





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