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平成15年広審第63号
件名

貨物船第十八翔洋丸機関損傷事件

事件区分
機関損傷事件
言渡年月日
平成15年9月30日

審判庁区分
広島地方海難審判庁(西林 眞、供田仁男、西田克史)

理事官
平井 透

受審人
A 職名:第十八翔洋丸機関長 海技免状:三級海技士(機関)(機関限定)
指定海難関係人
M造機株式会社造船部 業種名:船舶修理業
C 職名:M造機株式会社造船部機関係長

損害
クランク軸及び台板主軸受取付け部等が損傷

原因
主機直結潤滑油ポンプバイパス管の修理復旧後の取付け状況及び運転開始後の点検及び取付け方向の確認不十分

主文

 本件機関損傷は、入渠工事において逆止め弁を有する主機直結潤滑油ポンプバイパス管を修理した際、復旧後の取付け状況及び運転開始後の点検がいずれも十分でなかったことによって発生したものである。
 船舶修理業者の機関担当技師が、作業員から主機直結潤滑油ポンプバイパス管の逆止め弁取付け方向を相談された際、同弁の取付け方向を十分に確認しないまま復旧を指示したことは、本件発生の原因となる。
 受審人Aを戒告する。
 
理由

(事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
 平成15年1月25日21時35分
 瀬戸内海 釣島水道
 
2 船舶の要目
船種船名 貨物船第十八翔洋丸
総トン数 499トン
全長 75.52メートル
機関の種類 過給機付4サイクル6シリンダ・ディーゼル機関
出力 1,323キロワット
回転数 毎分290

3 事実の経過
 第十八翔洋丸(以下「翔洋丸」という。)は、平成5年12月に進水した専ら鋼材輸送に従事する鋼製貨物船で、主機として新潟原動機株式会社(旧株式会社新潟鐵工所、平成15年2月3日付新会社として設立)が製造した6M31BLGT型と称するディーゼル機関を装備し、各シリンダには船尾側から順番号が付されていた。
 主機の潤滑油系統は、容量3キロリットルの二重底内潤滑油サンプタンクの潤滑油が、直結潤滑油ポンプ又は電動の予備潤滑油ポンプにより吸引加圧され、油冷却器、ノッチワイヤ複式こし器を通り、圧力調整弁で4ないし5キログラム毎平方センチメートル(以下「キロ」という。)に調圧されて主機入口主管に至り、シリンダごとに分岐して主軸受、クランクピン軸受及びピストンピン軸受を順に潤滑したうえピストンを冷却するほか、カム軸、伝動歯車装置、調速機などにも分流して各部を潤滑したのち、いずれもクランク室から再びサンプタンクに戻るようになっていた。また、主機運転中、潤滑油圧力が2.2キロ以下に低下すると予備潤滑油ポンプが自動始動するほか、2.0キロまで低下すると油圧低下警報装置が作動し、更に1.5キロになると保護装置が作動して主機を危急停止するようになっていた。
 ところで、直結潤滑油ポンプは、主機の船尾左舷側に配置され、右舷側に呼び径80Aの吸入管を、左舷側に同径の吐出管をそれぞれ接続し、歯車式で回転方向は一定であるものの、主機停止時にクランク軸が逆方向に遊転することがあり、このときサンプタンク取出弁が逆止め弁となっている吸入管内の圧力が上昇しないよう、吸入管及び吐出管の間に呼び径15Aでねじ込み式のバイパス管を、床板からの高さ40センチメートルばかりの位置に設けており、吐出側から吸入側への逆流を防止するためリフト逆止め弁を備えていた。
 A受審人は、同6年2月に就航した翔洋丸に一等機関士として乗り組んだのち、同9年9月から機関長に昇進して機関の運転及び保守管理に当たっていたもので、直結潤滑油ポンプにバイパス管が設けられている理由は分からなかったものの、逆止め弁を備えていることから、機関当直交代後の機関室見回りの際に、同管を触診して温度変化を点検し、吐出側から吸入側に逆流していないことを確認するようにしていたところ、同14年に入って同管吸入側の逆止め弁と接続するユニオンナット根元部付近に亀裂が生じているのを発見し、亀裂部分をデブコンと称する金属補修剤で応急処置したうえで運転を続けた。そして、定期検査工事のため、翌15年1月19日から同月25日までの予定でM造機株式会社(以下「M造機」という。)に入渠した際、主機については、全筒ピストン抜きを含む開放整備を行うものの、主軸受は上半開放のみで受検することとし、配管工事として亀裂の生じたバイパス管吸入側の新替え工事を発注した。
 指定海難関係人M造機造船部(以下「造船部」という。)は、船舶修理及び産業機械製作を主たる業務とする同社において、年間120隻ばかりの入渠工事を請け負って船舶修理を担当する部門で、翔洋丸の同工事を初めて受注し、船主としても初めてであったことから、受入れ前の打合せの際、同船の機関部関係の総括責任者として工事を担当することになったC指定海難関係人らに対して、これまでの初入渠船と同様に、本船と相談しながら注意して工事を進めるよう指導していた。
 また、C指定海難関係人は、昭和58年にM造機に入社して造船部に配属され、同61年から機関担当技師になったのち、平成14年5月に機関係長に昇進したもので、協力会社の作業員を指揮して入渠した翔洋丸の工事に取り掛かり、乗組員らとともに工事箇所及び工事内容等の現場打合せを行っているとき、すでに取外し作業が始められたバイパス管に逆止め弁が存在することを認めた。
 バイパス管を修理するよう指示された作業員は、金属補修剤の表面に取り合い関係の合いマークを付け、逆止め弁の弁蓋上部に流入方向を赤ペンの矢印で記したうえ、同管全体を取り外して配管工場に陸揚げしたが、工場内で他の作業員によってユニオンナットのねじピッチなどを確認するために同弁が外されたとき、同補修剤が剥がれ落ち、新製された吸入側を復旧するに当たり、合いマークが分からなくなったため、同弁の取付け方向についてC指定海難関係人に相談した。
 相談を受けたC指定海難関係人は、工期の半ばで主機などの復旧指揮や効力試験の準備に追われ最も多忙な時期ではあったものの、図面による調査や機関長に相談するなどして逆止め弁の取付け方向を十分に確認することなく、現場も見ないで同作業員に対して同弁の矢印が右舷側に向く方向に取り付けるよう指示したばかりか、その後の主機試運転中に復旧したバイパス管からの油漏れの有無を確認した際にも、同弁が逆方向に取り付けられていることに気付かなかった。
 一方、A受審人は、入渠期間中在船して工事の立ち会いや船内作業に当たっていたところ、同15年1月24日にバイパス管が復旧されているのを認め、翌25日に約2時間実施された係留運転及び海上試運転に立ち会ったが、ドックに任せた小配管の工事なので問題ないと思い、同管の取付け状況を点検しなかったので、逆止め弁が逆方向に取り付けられていることに気付かなかった。そして、海上試運転中に発見された補機不具合箇所の手直しのためM造機の沖合で錨泊することになり、主機を停止して造船部とともにクランク室内の点検を行ったのち、同日16時25分主機を再始動してアイドリング運転を続けた。
 こうして、翔洋丸は、A受審人ほか5人が乗り組み、補機の手直しを終えて定期検査工事が完了し、船首1.60メートル船尾3.75メートルの喫水をもって18時30分錨地を発し、積荷の目的で関門港小倉区に向かって航行を開始したところ、錨泊中からの連続した主機の運転に伴い潤滑油温度が徐々に上昇して粘度が低下したこともあって、バイパス管を経て循環する潤滑油量が増加して主機への給油量が不足したため、主軸受などの潤滑が阻害され、同軸受メタルが摩耗して同油中に混入した金属粉がこし器に付着する状況となった。
 ところが、A受審人は、機関当直者として発航直後に機関室内の見回りを行ったにもかかわらず、主機機側計器盤で潤滑油圧力計の指示値を見ただけで出渠後の機関室清掃に取り掛かり、平素のようにバイパス管を触診するなどの点検を十分に行わなかったので、同管を潤滑油が循環していることに気付かないまま、主機の運転を続けていたところ、21時00分ごろ主機の予備潤滑油ポンプが自動始動し、潤滑油圧力低下警報装置が作動したのを認めたため、こし器の逆洗を行ったところ、2キロまで低下していた潤滑油圧力がほぼ正常値の4キロに上昇したことから、同ポンプを停止して一服するつもりで操舵室に上がった。
 翔洋丸は、主機への潤滑油量がこし器の金属粉による閉塞も加わって更に不足し、4、5及び6番主軸受メタルがクランク軸に焼き付いてつれ回りを始めるとともに、再び予備潤滑油ポンプが自動始動し、操舵室の運転表示灯で気付いたA受審人が機関室に戻ってこし器を逆洗しているとき、21時35分釣島灯台から真方位304度1.0海里の地点において、潤滑油圧力低下警報に続いて主機危急停止装置が作動し、主機が自停した。
 当時、天候は曇で風力4の北東風が吹き、海上は穏やかであった。
 主機の自停を認めたA受審人は、予備潤滑油ポンプを停止したのちこし器を開放したところ、多量の金属が付着していたことから運転不能と判断し、その旨を船長に報告した。
 翔洋丸は、前示地点の水深が深くて錨泊できないため、主機を再始動して愛媛県松山港沖まで航行して錨泊したのち、翌夕来援した引船によってM造機の岸壁に引き付けられ、造船部の手により主機を点検してバイパス管の逆止め弁を逆方向に取り付けていることが発見されるとともに、精査の必要な機関部品をメーカー工場に搬入した結果、主軸受メタルのつれ回りによってクランク軸及び台板主軸受取付け部が損傷していたほか、全シリンダのピストンピン軸受が摩耗していることなどが判明し、損傷したクランク軸、台板、全主軸受メタル及び全シリンダのピストンピン軸受メタル等を新替えして修理された。
 造船部は、本件発生後、同種事故の再発を防止するため、C指定海難関係人ら担当技師を召集し、工事中に疑問点が生じたときには船側と相談するよう改めて周知徹底した。

(原因)
 本件機関損傷は、入渠工事において逆止め弁を有する主機直結潤滑油ポンプバイパス管を修理した際、復旧後の取付け状況及び運転開始後の点検がいずれも不十分で、運転を続けるうち同管に逆方向に取り付けられた同弁を経て潤滑油が循環し、主機への給油量が不足して主軸受などの潤滑を阻害したことによって発生したものである。
 船舶修理業者の機関担当技師が、作業員から主機直結潤滑油ポンプバイパス管の逆止め弁取付け方向を相談された際、同弁の取付け方向を十分に確認しないまま復旧を指示したことは、本件発生の原因となる。

(受審人等の所為)
 A受審人は、入渠工事において逆止め弁を有する主機直結潤滑油ポンプのバイパス管を修理させた場合、同弁が逆方向に取り付けられて主機への給油量が不足することのないよう、主機試運転中などに同弁の取付け状況を点検すべき注意義務があった。ところが、同人は、ドックに任せた小配管工事なので問題ないと思い、同弁の取付け状況を点検しなかった職務上の過失により、同弁が逆方向に取り付けられていることに気付かず、バイパス管を潤滑油が循環して主機への給油量が不足したまま運転を続け、主軸受などの潤滑阻害を招き、クランク軸、台板及び主軸受メタルなどを損傷させるに至った。
 以上のA受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。
 C指定海難関係人が、作業員を指揮して主機直結潤滑油ポンプバイパス管を修理させるに当たり、同員から逆止め弁取付け方向を相談された際、図面による調査や機関長に相談するなどして同弁の取付け方向を十分に確認しないまま復旧を指示したことは、本件発生の原因となる。
 C指定海難関係人に対しては、確認を怠ったことを反省し、本件後は細かいことでも船側と相談するよう努めている点に徴し、勧告しない。
 造船部の所為は、本件発生の原因とならない。

 よって主文のとおり裁決する。





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