(事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
平成15年2月25日07時00分
大阪港大阪区
2 船舶の要目
船種船名 |
貨物船第十八新栄丸 |
総トン数 |
448トン |
全長 |
49.96メートル |
機関の種類 |
ディーゼル機関 |
出力 |
478キロワット |
回転数 |
毎分290 |
3 事実の経過
第十八新栄丸(以下「新栄丸」という。)は、平成4年4月に進水した、石材輸送に従事する鋼製貨物船で、A受審人ほか3人が乗り組み、約700トンの砕石を積載し、船首3.00メートル船尾4.10メートルの喫水をもって、平成15年2月24日15時00分大阪港大阪区に向け和歌山下津港を発し、同日18時30分大阪南港南防波堤灯台南方海域に至り、荷役待機の目的で錨泊を始めた。
主機は、株式会社松井鉄工所が製造した、ML628GSC-29型と称する過給機付4サイクル6シリンダ・ディーゼル機関で、各シリンダには船首側から順番号が付され、燃料油として専らA重油を使用し、1箇月当たり約400時間運転されていた。
主機付過給機(以下「過給機」という。)は、石川島汎用機械株式会社が製造した、VTR201-2型と称する排気タービン過給機で、主機シリンダカバー列の最後部に取り付けられ、各シリンダの排気を1ないし3番及び4ないし6番シリンダの2群に分けた排気集合管が上下に配列し、それぞれ車室に接続されていた。
過給機の車室は、排気集合管が接続された排気入口囲、タービン車室及び渦巻室によって構成され、これらのうち排気の流路であり、高温となる鋳鉄製の排気入口囲及びタービン車室には、いずれも主機冷却清水が通水されるようになっており、それらの熱交換面(以下「車室水冷壁」という。)の排気及び同清水による腐食及び浸食を避けることができないので、取扱説明書には、使用開始後2年以上の期間を経過したものについては、6箇月ごとに車室水冷壁の肉厚を点検し、3ミリメートル以下にまで衰耗していることが認められた場合、速やかに当該車室を新替えすべき旨が記載されていた。
ところで、主機冷却清水系統は、機関室下段に設置された電動冷却清水ポンプによって加圧された同清水が、入口主管に至って各シリンダ及び過給機車室へと分岐し、それぞれ各部を冷却したあと再び出口主管で合流し、清水冷却器を経て同ポンプに戻る循環経路をなし、一部の同清水が出口主管から主機右舷上部に設置された容量400リットルの清水膨張タンクに導かれて同ポンプ吸入側に予圧を与える配管を有し、同タンクには、ほぼ80パーセントの水位を維持するよう、必要に応じて雑用清水系統から清水が補給されていた。
過給機は、就航以来約2年ごとに実施されていた法定検査工事に合わせて開放され、ロータ軸受新替などの整備が行われていたものの、車室については製造時のまま継続使用されており、平成12年5月に実施した定期検査工事においても、車室に外観上特段の異常が認められなかったことから、車室水冷壁の肉厚計測が行われることなく現状のまま復旧され、運転が再開された。
A受審人は、車室水冷壁の肉厚が使用時間の増加につれて衰耗することを取扱説明書を読むなどして承知していたので、同壁の肉厚が耐用限度に近づいていることを推認し、平成15年3月の第1種中間検査工事の際には車室を新替えする予定としていたところ、2月上旬から清水膨張タンクの水量減少傾向が顕著となるとともに、主機を始動した直後の排気が白く変色し始めていることを認めたが、次回検査工事が間近に迫っており、それまで大事に至ることはあるまいと思い、修理業者に依頼するなどして同壁の肉厚の衰耗状態についての点検を行わなかったので、肉厚が衰耗した同壁のうち、排気入口囲水冷壁の下位排気集合管接続部に近い部位に小破孔が生じ、冷却清水が排気側に漏洩(ろうえい)していることに気づかないまま運転を続けていた。
こうして、新栄丸は、錨泊中、いつしか車室水冷壁の小破孔が拡大して多量の冷却清水が4ないし6番シリンダの排気集合管を逆流し、折しも開弁時期にあたっていた5番シリンダの排気弁を経て同シリンダ内、更にクランク室に浸入する状況となっていたところ、2月25日06時55分着岸準備のため、A受審人が冷却清水ポンプなどの主機関連補機を始動し、全ての指圧器弁を開放した状態で空気運転を行おうと始動空気を通気した瞬間、07時00分大阪南港南防波堤灯台から真方位211度1,300メートルの地点において、5番シリンダの指圧器弁から冷却清水が噴出した。
当時、天候は晴で風力1の南東風が吹き、海面状態は平穏であった。
その結果、新栄丸は、主機クランク室内の点検が行われ、システム油に多量の冷却清水が混入し、同油の性状が著しく劣化していることが判明したことから、主機の運転を断念し、僚船により兵庫県家島港に引き付けられたのち、過給機排気入口囲を新替えするなどの修理が行われた。
(原因)
本件機関損傷は、主機冷却清水によって冷却され、使用期間が長期となった車室が組み込まれた主機付過給機において、同清水量の減少傾向が顕著となり、合わせて主機を始動した直後の排気が白く変色した際、車室水冷壁の点検が不十分で、同壁に小破孔が生じた状態のまま運転が続けられるうち、同破孔が拡大したことによって発生したものである。
(受審人の所為)
A受審人は、主機冷却清水によって冷却され、使用期間が長期となった車室が組み込まれた主機付過給機において、同清水量の減少傾向が顕著となり、合わせて主機を始動した直後の排気が白く変色していることを認めた場合、車室水冷壁が排気及び冷却清水による腐食や浸食を受け、その肉厚が衰耗していることを推認していたのであるから、同壁の破孔の有無を確認できるよう、修理業者に依頼するなどして同壁の状態を十分に点検すべき注意義務があった。しかるに、同人は、間近に迫った中間検査工事中に同車室の新替を予定していたこともあり、それまで大事に至ることはあるまいと思い、同点検を行わなかった職務上の過失により、肉厚が衰耗した車室水冷壁の一部に小破孔が生じていることに気づくことなく運転を続け、やがて拡大した破孔から排気集合管を逆流した多量の冷却清水が主機クランク室に浸入し、システム油の著しい性状劣化を招き、主機を運転不能とさせるに至った。
以上のA受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。