(事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
平成14年4月24日20時30分
伊良湖水道
2 船舶の要目
船種船名 |
貨物船星洋丸 |
総トン数 |
499トン |
全長 |
75.5メートル |
機関の種類 |
過給機付4サイクル6シリンダ・ディーゼル機関 |
出力 |
735キロワット |
回転数 |
毎分230 |
3 事実の経過
星洋丸は、平成8年2月に進水した、全通二層甲板船尾機関型の鋼製貨物船で、主機として阪神内燃機工業株式会社が製造した、LH34LAG型と呼称する、最大出力1,618キロワット回転数毎分300のディーゼル機関が、計画出力735キロワット同回転数230(以下、回転数は毎分のものとする。)に出力制限のうえ、登録されたものを装備していた。
主機は、トランクピストン型機関で、鋳鉄製の機関台板、シリンダブロックで組み立てられ、同ブロックにシリンダライナが直列に挿入され、機関台板の主軸受でクランク軸を受け、連接棒が大端部と分割された組立型であった。また、就航後、年間の運転時間が概ね4,000時間で、航海中には、いつしか出力制限を超えて245回転ほどで運転されるようになっていた。
クランクピン軸受は、いわゆる三層完成メタルが用いられ、上下に二分割された鋳鋼製の軸受冠に収められてクランクピンを受け、片舷2本ずつの軸受ボルトとナットで締め付けられていた。
連接棒は、小端部にピストンピンメタルを収め、T字形の下端が上部軸受冠の上面と突き合わされ、片舷2本ずつの連接棒取付ボルト(以下「連接棒ボルト」という。)で締結されていた。
連接棒ボルトは、首下部分が連接棒の孔と合うリーマ形状で、ねじが上部軸受冠に植え込まれるもので、規定のトルクで連接棒を締め付けた後、回り止めとして片舷2本の頭部に針金が通されて8の字に綴られていた。
星洋丸は、平成12年3月3日定期検査のためN造船株式会社(以下「N造船」という。)に入渠し、補機その他の整備と併せて主機の全シリンダのピストン抜き整備が行われた。
N造船は、修繕船関係の業務全般を担当技師に担当させ、作業計画を立案・監督させるほか、実際の整備作業については、主機、補機などに分けて協力会社の作業員に行わせる体制をとっていた。
主機は、同月6日に法定の開放検査を受けた後、直ちに主機の組立てが開始されたが、2番シリンダの連接棒ボルト4本のうち、右舷船首側の連接棒ボルトが合いマークの位置まで締付角度の余地を残したまま、回り止めの針金が綴られた。
B指定海難関係人は、星洋丸の機関関係の整備を担当し、主機全体の組立てと掃除が終了し、クランク室に潤滑油が張り込まれた時点で、組立状況を確認する際、合いマークを自ら確認するなど連接棒ボルトの締付け確認を十分に行わなかった。
星洋丸は、出渠後運転を開始したが、主機の2番連接棒ボルトのうち右舷側の1本が、締付力がわずかに不足したまま運転されるうち、締付座面にフレッチング摩耗を生じ、更に締付力が低下して同ボルトが徐々に緩んだので、左舷側の2本の連接棒ボルトが過剰な応力を受け、疲労して首部に亀裂を生じた。
A受審人は、星洋丸の建造後、一等機関士としてあるいは機関長として数ヶ月ずつ乗り組んだのち、同13年10月から再び機関長として乗船し、機関の運転と整備全般に従事していたところ、それまで行われたクランク室点検で金属片など落下物が見つかったことを聞いたことから、翌14年2月にクランク室点検を行い、落下物の有無を確認したほか、ついでに全体の様子を見回したものの、締付けの点検は1年に一度行えばよいと思い、テストハンマーによって緩みがないか確認するなど、連接棒ボルトを十分に点検しなかった。
こうして、星洋丸は、A受審人ほか3人が乗り組み、廃プラスチック850トンを載せ、船首2.33メートル船尾3.95メートルの喫水をもって、同年4月24日17時15分名古屋港を発し、主機を回転数毎分245にかけて岩手県宮古港に向かったところ、主機2番シリンダの左舷側連接棒ボルトの亀裂が進展して2本とも切損し、残った右舷側の2本の連接棒ボルトに大きな曲げ応力が加わり、20時30分伊良湖岬灯台から真方位133度3.8海里の地点で、右舷側の2本の同ボルトも続けて破断し、大端部から離れた連接棒が振れ回ってシリンダブロックを突き破り、大音を発した。
当時、天候は晴で風力2の南東風が吹いていた。
星洋丸は、直ちに船橋での操作で主機の回転が下げられ、機関監視室で日誌の整理などに当たっていたA受審人が主機のハンドルを下げ、停止後、シリンダブロックの2番クランク室周辺が破損して連接棒が分離している状態を認め、主機が運転不能であることを船長に報告した。
星洋丸は、名古屋港に引きつけられ、のちシリンダブロックと、2番シリンダのピストン、連接棒、シリンダライナ、吸排気弁腕、プッシュロッドなど損傷部が取り替え修理された。
B指定海難関係人は、本件後の損傷記録などを参考にして、連接棒ボルトの合いマークの管理を確実に行うよう指示し、また、整備作業後の確認作業を自ら行うよう改めた。
(原因)
本件機関損傷は、主機の運転管理に当たり、クランク室点検に際して、連接棒ボルトの点検が不十分で、同ボルトの緩みが進行するまま運転が続けられたことによって発生したものである。
造船所の整備管理者が、入渠時のピストン抜き整備に際して、組立て後、連接棒ボルトの締付け確認を十分に行わなかったことは、本件発生の原因となる。
(受審人等の所為)
A受審人は、主機の運転管理に当たり、クランク室点検をする場合、連接棒ボルトの緩みを見過ごさないよう、テストハンマーによって緩みがないか確認するなど、同ボルトを十分に点検すべき注意義務があった。しかるに、同人は、1年に一度行えばよいと思い、連接棒ボルトを十分に点検しなかった職務上の過失により、同ボルトの一本が緩んでフレッチング摩耗を生じていることを見過ごし、ほかの同ボルトに亀裂を生じ、運転の継続で同亀裂が進展する事態を招き、疲労して同ボルトが次々に折損してピストン、シリンダライナなど主要部に損傷を生じさせるに至った。
以上のA受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。
B指定海難関係人が、主機の組立てを終わった後、作業者が説明する内容について重要部の状況を確認した際、各シリンダの連接棒ボルトの締付けを十分に確認しなかったことは、本件発生の原因となる。
B指定海難関係人に対しては、本件後、作業者とともに確認作業を自ら行うよう改めたことに徴し、勧告しない。
よって主文のとおり裁決する。