(事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
平成13年3月24日10時00分
長崎県櫛漁港
2 船舶の要目
船種船名 |
漁船第七海幸丸 |
総トン数 |
14トン |
全長 |
19.50メートル |
機関の種類 |
過給機付4サイクル6シリンダ・ディーゼル機関 |
出力 |
375キロワット |
回転数 |
毎分2,000 |
3 事実の経過
第七海幸丸(以下「海幸丸」という。)は、昭和63年10月に進水した、いか一本釣り漁業に従事するFRP製漁船で、主機として三菱重工業株式会社が製造したS6A2-MTK型と呼称するディーゼル機関を装備し、操舵室に主機の回転計、潤滑油圧力計、冷却清水温度計や冷却清水温度上昇警報装置等が組み込まれている計器盤及び遠隔操縦装置を備え、各シリンダには船首側を1番とする順番号が付されていた。
主機の冷却は、間接冷却方式で、清水冷却器と容量80リットルの膨張タンクの間に連絡管があり、直結駆動の冷却清水ポンプの吸引管が同冷却器に接続されていて、同ポンプに吸引された冷却清水が、潤滑油冷却器、シリンダブロック、シリンダヘッド及び排気集合管等に送られ、各部を冷却したのち同タンクに戻る経路で循環していた。
ところで、主機のシリンダヘッド締付けボルトは、ねじの呼び径20ミリメートル(以下「ミリ」という。)のクロムモリブデン鋼製六角ボルト6本で、それぞれシリンダヘッドの貫通穴に挿入のうえ、シリンダブロック上面の同ボルト穴に締め込まれ、シリンダヘッドとシリンダブロックとを接合するようになっていた。シリンダライナは、長さ300.6ミリ内径150ミリの円筒の上端がフランジを成し、シリンダヘッド下側のシリンダブロックに嵌合(かんごう)されており、外側とシリンダブロックとの間に冷却清水通路が設けられ、同通路の水密のため、合成ゴム製Oリングがフランジ下部に装着されていた。また、取扱説明書には、シリンダヘッド締付けボルトを締め付ける際の規定トルクは40キログラムメートルであることが記載されていた。
A受審人は、昭和49年10月一級小型船舶操縦士の免状を取得し、平成7年4月海幸丸を購入以来、自ら船長として乗り組み、操船のほか主機の運転保守にあたり、シリンダライナ等の開放整備を行わないまま、周年にわたり対馬周辺海域から山口県や島根県沖合に至る漁場を移動して操業を続け、全速力前進航行時及び集魚灯用発電機駆動時には主機をそれぞれ回転数毎分1,300及び1,800にかけ、毎月300時間ばかり運転していた。
ところが、主機のシリンダブロック冷却清水通路は、5番シリンダのシリンダライナフランジ下部に腐食が生じ、前示Oリングによる水密が阻害され、冷却清水が腐食部から漏洩してシリンダヘッド下部を伝わりシリンダブロック左舷側に滴下する状況になった。
しかし、A受審人は、長崎県櫛漁港を根拠地とし、操業を繰り返しているうち、同13年1月上旬機関室を見回り、主機の5番シリンダのシリンダヘッド下部に冷却清水の漏水を認めた際、シリンダヘッド締付けボルトを締め付ければ応急的に漏水を止められるだろうと思い、業者による冷却清水漏洩箇所の調査を行わなかったので、シリンダブロック冷却清水通路の腐食部に気付かず、同漁港で同ボルトの規定トルクを超える増締めをしたときに締め過ぎとなり、腐食部を起点とする亀裂が発生した後、これがシリンダブロックのシリンダヘッド締付けボルト穴に沿ってシリンダライナフランジ嵌合部に進行し、漏水が増加したものの、冷却清水を随時補給して運転を続けた。
こうして、海幸丸は、主機の冷却清水が著しく漏洩し、その補給を頻繁に要するようになって運転を維持することが困難な事態に陥り、船首0.6メートル船尾2.0メートルの喫水をもって、櫛漁港に係留中、点検の目的で、業者が5番シリンダのシリンダヘッドを取り外したところ、3月24日10時00分対馬長崎鼻灯台から真方位311度3,850メートルの係留地点において、シリンダブロック上面に貫通している亀裂が発見された。
当時、天候は晴で風はなく、潮候は下げ潮の初期であった。
その結果、海幸丸は、のち主機を換装した。
(原因)
本件機関損傷は、主機冷却清水がシリンダブロック冷却清水通路の腐食により漏洩する状況下、冷却清水漏洩箇所の調査が不十分で、シリンダヘッド締付けボルトが増し締めされて締め過ぎとなったことによって発生したものである。
(受審人の所為)
A受審人は、操船のほか主機の運転保守にあたり、冷却清水がシリンダブロック冷却清水通路の腐食により漏洩する状況下、シリンダヘッド下部に漏水を認めた場合、漏水をもたらしている異状があるから、これを見落とさないよう、業者による冷却清水漏洩箇所の調査を行うべき注意義務があった。しかし、同受審人は、シリンダヘッド締付けボルトを締め付ければ応急的に漏水を止められるだろうと思い、業者による冷却清水漏洩箇所の調査を行わなかった職務上の過失により、同冷却清水通路の腐食部に気付かず、同ボルトの規定トルクを超える増締めをして締め過ぎとなる事態を招き、シリンダブロックに亀裂を発生させるに至った。
以上のA受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。
よって主文のとおり裁決する。