(事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
平成14年9月4日20時20分
津軽海峡西口
2 船舶の要目
船種船名 |
漁船第八輝丸 |
総トン数 |
6.2トン |
全長 |
16.12メートル |
全幅 |
3.70メートル |
深さ |
1.19メートル |
機関の種類 |
ディーゼル機関 |
出力 |
330キロワット |
3 事実の経過
第八輝丸(以下「輝丸」という。)は、平成2年1月に進水した、いか一本釣り漁業に従事する一層甲板型FRP製漁船で、上甲板下が船首方から順に、船首タンク、4区画の魚倉、機関室、船員室、舵機庫及び倉庫となり、上甲板上の船体中央部から船尾甲板にかけて、操舵室、機関室囲壁及び船員室を配列し、舵機庫の左舷側に蓄電池を、後部に集魚灯用安定器をそれぞれ収納していた。
機関室は、船体中央部後ろ寄りに位置し、同室後部に主機が据え付けられ、主機両側にA重油の燃料タンクを設け、主機動力取出軸の右舷側に交流電圧225ボルト容量20キロボルトアンペアの主発電機と操舵機用油圧ポンプを、左舷側に直流電圧24ボルト容量1.5キロワットの充電用発電機をそれぞれ配置して、いずれも同取出軸によりベルトで駆動され、同取出軸の前端には交流電圧225ボルト容量100キロボルトアンペアの集魚灯用発電機を配置して、エアクラッチを介して駆動されるようになっていた。このほか、主発電機の右舷側に空気圧縮機を、集魚灯用発電機の左舷側後方に同発電機冷却用の移動式通風機を、前部左舷寄りにソナーをそれぞれ配していた。
操舵室は、機関室前半部の上方にあり、操舵室後壁の中央部に縦220ミリメートル(以下「ミリ」という。)横300ミリのガラス製の機関室覗き窓があって、機関室後部の主機及び燃料タンクを見渡せるようになっていたが、操舵室床板の下方となる主機駆動の各機器は見えなかった。
主発電機は、株式会社精工社製作所製の4F-15C型と称する、外形寸法が径340ミリ長さ620ミリの静止自励自動電圧調整器付のもので、回転子軸がケーシング両端の転がり軸受(以下「玉軸受」という。)で支えられる構造となっていて、同軸受として両シールド型単列深溝玉軸受を装着していた。
主発電機の電路は、充電用発電機及び集魚灯用発電機の各電路とともに操舵室床板を貫通して同室内の主配電盤に導かれ、主発電機用主スイッチを経て作業灯に給電するほか、集魚灯用発電機との電源切替えスイッチを操作することにより機関室通風機、散水ポンプ、いか釣り機及びシーアンカー巻取り機にも給電することができるようになっており、これら電路にはキャブタイヤケーブルが用いられていた。
A受審人(平成7年2月一級小型船舶操縦士免許取得)は、竣工時から船長の父親とともに甲板員として乗船し、同7年3月に自ら船長となって、機関の保守運転管理にも当たり、夜間の操業時を除き、燃料節減のため、いか釣り機への給電を主発電機から行っていた。
ところで、主発電機は、性能上、磁力を発生する回転子と電気を発生する固定子との間隙が小さく、玉軸受の衰耗が進行して破壊すると、回転子軸が偏心して回転子が固定子に接触し、両子表面の各巻線が擦れ合って発火することがあり、同8年11月上旬昼いか漁の操業中、現装と同型の旧主発電機が玉軸受の衰耗により出火したが、早期に発見したことから消火器で消し止められ、現装の中古発電機に換装されたのち、玉軸受が一度も取り替えられずに運転されていた。
A受審人は、同14年7月中旬ごろから主発電機の玉軸受が異音を発し始めたことを認めたが、まだ、それほど異音が大きくないので大丈夫と思い、修理業者に依頼して玉軸受を取り替えるなど、速やかに同機を整備することなく運転を続けたので、玉軸受の衰耗が進行する状況となった。
輝丸は、A受審人が単独で乗り組み、操業の目的で、船首1.0メートル船尾1.3メートルの喫水をもって、9月4日14時30分小泊漁港下前地区を発し、15時30分ごろ小泊岬南西方沖合の漁場に至り、主機回転数を毎分800として、主発電機からいか釣り機9台に給電しながら昼いか漁の操業中、18時30分同一漁業協同組合所属の第二十八海宝丸(以下「海宝丸」という。)から火災発生の無線連絡を受け、同船を救助するため直ちに操業を中止し、主機を回転数毎分2,500の全速力前進にかけて小泊岬北灯台西方16海里の海域に向かった。
こうして、輝丸は、19時19分ごろ海宝丸の近辺に至り、主機回転数を毎分800として主発電機を運転し、機関室通風機を排出側にかけ、船首作業灯1灯を点灯し、船首を西方に向けて漂泊しながら、海宝丸の監視を続けていたところ、主発電機玉軸受の衰耗が進んで遂に破壊し、回転子軸の軸心が大きく偏心して回転子が固定子に接触しながら運転が続けられるうち、同発電機が発火して電路に燃え移り、20時20分小泊岬北灯台から真方位285度15.6海里の地点において、機関室が火災となった。
当時、天候は晴で風力4の北西風が吹き、海上にはうねりがあった。
船首で海宝丸の様子を見守っていたA受審人は、船首作業灯が消灯し、しばらくして主機の運転音が急に小さくなったことから船尾方を振り向いたとき、操舵室後方から多量の黒煙が立ち上がっていたので同室に急行し、機関室覗き窓から同室内を見たところ、主機はすでに止まり、機関室全体が炎で包まれ操舵室の下方から火炎が上がっているのを認め、気が動転し、血圧が上がって気分が悪くなり、火災発生の通報も消火作業もできないまま船首に避難し、輝丸の異状に気付いて駆け付けた僚船により救助された。
輝丸は、来援した巡視船による放水消火活動が行われたが、操舵室及び船員室などに延焼し、翌5日01時05分沈没した。
(原因)
本件火災は、主発電機の玉軸受が異音を発した際、同機の整備が不十分で、玉軸受が衰耗したまま運転が続けられ、回転子軸の軸心が大きく偏心し、回転子が固定子に接触して発火したことによって発生したものである。
(受審人の所為)
A受審人は、主発電機の玉軸受が異音を発したのを認めた場合、玉軸受の衰耗が進行して破壊すると、回転子軸が偏心して回転子が固定子に接触するおそれがあったから、両子表面の各巻線が擦れ合って発火することのないよう、修理業者に依頼して玉軸受を取り替えるなど、速やかに同機を整備すべき注意義務があった。しかるに、同人は、まだ、それほど異音が大きくないので大丈夫と思い、速やかに同機を整備しなかった職務上の過失により、玉軸受が衰耗したまま運転を続け、回転子が固定子に接触して主発電機が発火し、電路に燃え移って火災を招き、全焼して沈没させるに至った。
以上のA受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。
よって主文のとおり裁決する。