(事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
平成14年11月11日16時30分
愛媛県南宇和郡御荘町西岸沖合
2 船舶の要目
船種船名 |
押船瑞希 |
起重機船第28栄丸 |
総トン数 |
19トン |
1,457トン |
全長 |
15.68メートル |
50.00メートル |
全幅 |
22.00メートル |
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深さ |
3.75メートル |
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機関の種類 |
ディーゼル機関 |
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出力 |
1,176キロワット |
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船種船名 |
作業船第一栄丸 |
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総トン数 |
4.9トン |
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登録長 |
8.50メートル |
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機関の種類 |
ディーゼル機関 |
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出力 |
279キロワット |
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3 事実の経過
瑞希は、鋼製押船で、A受審人(平成元年6月一級小型船舶操縦士免許取得)が1人で乗り組み、船首1.0メートル船尾1.5メートルの喫水をもって、また、非自航型鋼製起重機船第28栄丸(以下「起重機船」という。)は、作業員5人が乗り組み、防波堤築造用ブロック2個260トンを積載して船首尾とも2.3メートルの喫水をもって、瑞希の船首を起重機船の船尾凹部に嵌合(かんごう)して長さ約66メートルの押船列(以下「瑞希押船列」という。)とし、鋼製作業船第一栄丸(以下「栄丸」という。)を起重機船の右舷側船尾部に横抱きし、平成14年11月11日08時00分愛媛県南宇和郡西海町船越を発し、同町中泊に向かった。
ところで、瑞希押船列は、栄丸を起重機船の係留及び錨泊時などの補助作業に使用しており、遠方の工事現場に向かう際には、起重機船のクレーンで吊り上げて同船上に搭載し、近くの工事現場に向かう際には、栄丸の船首に長さ5メートルで直径55ミリメートル(以下「ミリ」という。)の、及び船尾に長さ5メートルで直径30ミリの合成繊維製係船索各1本をそれぞれとって起重機船に横抱きして回航することにしていた。なお、起重機船に栄丸を搭載する際には、クレーンのブームの長さが約33メートルあり、搭載作業中に波浪などによって起重機船が動揺すると危険であるので、平穏な海域において同作業を行うようにしていた。
10時00分A受審人は、中泊の工事現場に至って錨泊待機し、13時30分からブロック据付作業を開始して15時30分に同作業を終え、起重機船は船首尾とも1.8メートルの喫水をもって、栄丸を伴った瑞希押船列を船越に向けて回航することとし、このころ南方の権現山などの山陰になっている工事現場で風力3の南西風が吹いていたことから、沖合では更に風が強く、荒天が予測されたので、栄丸に起重機船乗組員を船長として乗船させて鹿島南方の海上模様を調査させることとした。
15時40分A受審人は、伊予鹿島灯台から106度(真方位、以下同じ。)1.3海里の地点を栄丸と共に発し、栄丸は鹿島南方に向かわせ、瑞希押船列は16時00分同灯台から027度800メートルの地点に至って待機し、間もなく栄丸船長から南西の風波が強い旨の報告を受けたので、船越への回航を中止し、風下側にあたる北東方の同郡御荘町中浦に向かうことにした。
ところが、16時16分A受審人は,前示待機地点を発航するとき、北上して波浪を遮っていた鹿島から離れるに伴って波浪が高くなることが予測され、いつもと同じように栄丸を起重機船に横抱きして航行すると、周期の異なる船体動揺により船首索が切断するなど不測の事態を招くおそれがある状況であったが、横抱きした栄丸の直径55ミリの船首係船索が切断することまで思い至らず、いつもの近距離回航時の横抱きで大丈夫と思い、いったん平穏な海域に引き返して栄丸を起重機船に搭載するなど荒天準備を十分に行うことなく、栄丸の船首及び船尾に係船索各1本をそれぞれとって起重機船の左舷側船尾部に横抱きし、船長を起重機船に呼び戻したのち、機関を全速力前進にかけて6.0ノットの対地速力で、手動操舵により回航を再開して北上した。
16時22分A受審人は、伊予鹿島灯台から006度1,650メートルの地点に達したころ、針路を018度に定め、左舷船尾方から波浪を受けながら進行した。
栄丸を伴った瑞希押船列は、北上して鹿島から離れるに伴って波浪が高まり、16時25分ころには波高が1メートルないし1.5メートルとなり、栄丸は起重機船の動揺と異なった周期で、船首部を1メートルばかり上下させながら、波浪の谷に入ったときには船首索によって時々吊り下げられる状態で続航し、16時30分伊予鹿島灯台から011度1.7海里の地点において、栄丸は波浪の谷に急激に落ち込んだ衝撃によって船首索が瞬時に切断して波浪に対して横向きとなり、右舷側に大傾斜し、復原力を喪失して転覆した。
当時、天候は晴で風力6の南西風が吹き、波高は1.5メートルであった。
転覆の結果、栄丸は機関などに濡損を生じ、引揚時に船橋構造物を破損したが、のち修理された。
(原因)
本件転覆は、愛媛県南宇和郡御荘町西岸沖合において、栄丸を伴った瑞希押船列が南方の船越に向けて回航中、南西からの風波が強くて目的地を風下側の中浦に変更した際、荒天準備が不十分で、起重機船に横抱きされた栄丸が波浪の衝撃で船首索が切断して右舷側に大傾斜し、復原力を喪失したことによって発生したものである。
(受審人の所為)
A受審人は、愛媛県南宇和郡御荘町西岸沖合において、港湾作業が終了して栄丸を伴った瑞希押船列を南方の船越に向けて回航中、南西からの風波が強くて目的地を風下側の中浦に変更した場合、北上して波浪を遮っていた島から離れるに伴って波浪が高くなることが予測され、いつもと同じように栄丸を起重機船に横抱きして航行すると、周期の異なる船体動揺により栄丸の船首索が切断するなど不測の事態を招くおそれがあったから、いったん平穏な海域に引き返して栄丸を起重機船に搭載するなど荒天準備を十分に行うべき注意義務があった。しかるに,同人は、横抱きした栄丸の直径55ミリの船首係船索が切断することまで思い至らず、いつもの近距離回航時の横抱きで大丈夫と思い、栄丸を起重機船に搭載するなど荒天準備を十分に行わなかった職務上の過失により、栄丸の船首及び船尾に係船索各1本をそれぞれとって起重機船に横抱きして回航中、栄丸が波浪の谷に急激に落ち込んだ衝撃によって船首索が瞬時に切断して転覆を招き、機関などに濡損を生じさせ、引揚時に船橋構造物を破損させるに至った。
以上のA受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。
よって主文のとおり裁決する。