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 海難審判庁裁決録 >  2003年度(平成15年) > 転覆事件一覧 >  事件





平成15年広審第50号
件名

引船あいえん号転覆事件(簡易)

事件区分
転覆事件
言渡年月日
平成15年7月18日

審判庁区分
広島地方海難審判庁(西林 眞)

理事官
平井 透

受審人
A 職名:あいえん号船長 操縦免許:小型船舶操縦士

損害
主機冷却海水吸入管のこし器出口に破孔

原因
主機冷却海水吸入弁が閉弁されなかったこと

裁決主文

 本件転覆は、船内を無人として係留するにあたり、主機冷却海水吸入弁が閉弁されず、同海水吸入管に生じた腐食破孔から多量の海水が機関室に浸入したことによって発生したものである。
 受審人Aを戒告する。
 
裁決理由の要旨

(事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
 平成14年10月22日06時00分
 山口県由宇港
 
2 船舶の要目
船種船名 引船あいえん号
全長 11.40メートル
機関の種類 ディーゼル機関
出力 147キロワット

3 事実の経過
 あいえん号は、平成10年8月に建造された、幅3.00メートル深さ1.08メートルの鋼製引船兼作業船で、船体中央部に設置した操舵室の下層に機関室を配置し、上甲板下には同室前方に船首倉庫を、同室後部隔壁の後方両舷に燃料油タンクなどをそれぞれ設けていた。
 機関室は、長さ約4メートル高さ約1.5メートルで、中央に軽油を燃料油とする主機及び逆転減速機を据え付け、その前方にウインチ用の油圧ポンプユニットと蓄電池などを備え、主機左舷側の床板と外板の間には、船底外板に設けられたシーチェスト上に主機冷却海水吸入弁を取り付け、こし器を経て主機直結の冷却海水ポンプに至る呼び径40ミリメートル(以下「ミリ」という。)の鋼製吸入管が配管されていた。
 A受審人は、同9年5月に海洋土木業を営む海洋建設機工株式会社に入社後、翌6月四級小型船舶操縦士の免許を取得し、潜水士として潜水作業に従事するとともに、起重機台船の曳航等の目的で建造されたあいえん号に船長として1人で乗り組むようになり、機関の運転にも携わっていた。
 その後、あいえん号は、同14年に入ってから山口県玖珂郡由宇町有家地区での人工海浜造成工事に従事し、砂利を搭載したバージを工事海域の浅所に曳航する業務を続けていたところ、主機冷却海水吸入管のこし器出口付近で腐食が進行し、いつしか微小な破孔が生じて海水がわずかに漏れ出る状況となっていた。そして、同年10月21日14時40分前示作業を終えて同県由宇港に戻り、由宇港由宇1号防波堤灯台から真方位206度180メートルの地点で、既に防波堤内側に係留されていた起重機台船に、船首0.6メートル船尾1.4メートルの喫水をもって、船首右舷側ビットから2本、船尾右舷側ビットから1本の係留索をそれぞれとって右舷付けで係留した。
 係留を終えたA受審人は、操舵室のキースイッチで主機を停止し、機関室左舷側入口ハッチの直下にある蓄電池の電源スイッチを切ったのち、燃料油タンクに合計1キロリットルばかりの軽油が残り、両タンクの残量差から左舷側に少し傾斜した状態で離船することとしたが、ビルジ量に大きな変化がなく、それまで海水配管から水漏れしたことがないので大丈夫と思い、主機冷却海水吸入弁を閉弁しないまま、同日15時00分あいえん号を無人として帰宅した。
 こうして、あいえん号は、無人のまま係留されている間に、漏洩流によって主機冷却海水吸入管に生じた微少破孔が急速に拡大しながら、開弁されたままの同海水吸入弁を経て多量の海水が浸入し続け、機関室が水没して船体が左舷側に傾斜したまま沈下したところ、右舷側からとっていた係留索の緊張も加わったものか左舷側に大傾斜したため、復原力を喪失して転覆し、翌22日06時00分前示係留地点において、横転して船腹を見せているところを付近に係留していた漁船の乗組員によって発見された。
 当時、天候は曇で風力2の南東風が吹き、港内は穏やかであった。
 A受審人は、連絡を受けた人工海浜造成工事の関係会社から電話であいえん号が転覆していることを知らされ、海上保安部などに連絡を取ったうえで急いで本船に戻り、起重機台船の乗組員とともに流出油処理などの事後措置に当たった。
 あいえん号は、起重機台船により船体を吊り上げ、ハッチを閉鎖していた船首倉庫には浸水がなく、機関室がほぼ満水状態であったことから、排水作業後に同室を点検した結果、主機冷却海水吸入管のこし器出口フランジから80ミリばかりのところに直径5ないし6ミリの破孔を生じていることが判明し、最寄りの修理工場に上架したのち、主機冷却海水吸入管を新替えしたうえ、濡損した主機及び電装品などの修理が行われた。

(原因)
 本件転覆は、由宇港において、船内を無人として係留するにあたり、主機冷却海水吸入弁が閉弁されず、同弁を経て同海水吸入管に生じた腐食破孔から多量の海水が機関室に浸入し、大傾斜して復原力を喪失したことによって発生したものである。

(受審人の所為)
 A受審人は、由宇港において、係留を終え船内を無人として離船する場合、主機冷却海水管に腐食破孔などが発生しても、機関室に海水が浸入することのないよう、主機海水吸入弁を閉弁すべき注意義務があった。ところが、同人は、同室のビルジ量に大きな変化がなく、それまで海水配管から水漏れしたことがないので大丈夫と思い、主機冷却海水吸入弁を閉弁しなかった職務上の過失により、同弁を経て同海水吸入管に生じた腐食破孔から多量の海水が機関室に浸入し、大傾斜して転覆を招き、主機及び電装品等に濡損を生じさせるに至った。
 以上のA受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。





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