(事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
平成14年8月23日05時00分
鳥取県田後港北方沖合
2 船舶の要目
船種船名 |
漁船日の出丸 |
総トン数 |
4.87トン |
登録長 |
10.70メートル |
機関の種類 |
ディーゼル機関 |
漁船法馬力数 |
50 |
3 事実の経過
日の出丸は、小型底びき網漁業に従事するFRP製漁船で、A受審人(昭和50年9月一級小型船舶操縦士免許取得)が1人で乗り組み、かれいを獲る目的で、船首0.3メートル船尾1.8メートルの喫水をもって、平成14年8月22日17時00分鳥取県田後港を発し、同港北方沖合の漁場に向かった。
ところで、日の出丸は、船体やや前部寄りに操舵室が配され、後部甲板に据え付けられた引き綱巻き取り用のリールには、リール軸の両端に軸受けを介してドラムが設けられていたほか、船尾方に向かって傾斜した山型デリックが装備されていた。また、同船の底びき網漁は、リールから延出された長さ500メートルのワイヤ製引き綱に、10.5メートルの袖網に続き長さ12メートルの袋網が付いた漁網を連結し、水深100メートルばかりのところで操業するもので、揚網する際には機関を止めて漂泊し、リールにより引き綱を巻いて正船尾に漁網を引き寄せ、たまこと称するロープを袖網と袋網との継ぎ目あたりに巻き付け、デリック頂部の滑車を介して吊り上げロープの一端に取り付けたフックを降ろしてそれをたまこに引っ掛け、そのロープの片方の端をドラムで巻き込みながら漁網を後部甲板の上方まで吊り上げてから、漁獲物を取り出すというものであった。
A受審人は、18時ごろ目的の漁場に到着して操業を開始し、水深110メートルのところを等深線に沿ってほぼ東西方向にえい網を繰り返し、22時半1回目の揚網を終えて23時ごろ再びえい網を始め、翌23日03時50分2回目の揚網に取り掛かった。
05時00分少し前A受審人は、やや波浪のある状況下、船尾に引き寄せた漁網を吊り上げ始めたところ、傘の直径が1メートル前後もある大型くらげが漁網の中に大量に混入して目詰まりしているのを認め、これまでの揚網で経験したことのない過度の重量が漁網にかかった状態であったが、そのまま上方に吊り上げても問題あるまいと思い、波浪による船体動揺から漁網が振れるなどして船体の安定性を著しく欠くことのないよう、吊り上げ作業を一時中断し網目の一部を切ってくらげを取り除くなど、漁網の重量を軽減する措置を講じなかった。
こうして、A受審人は、吊り上げ作業を続行中、船体動揺で漁網が左方に大きく振れて船体が大傾斜し、05時00分田後灯台から真方位000度5.5海里の地点において、日の出丸は、北方に向首したまま、復原力を喪失して左舷側から瞬時に転覆した。
当時、天候は晴で風力3の南西風が吹き、海上には多少波があり、弱い東流があった。
転覆の結果、A受審人は、船腹の上に乗り東方に向かって漂流中のところ、08時30分僚船により発見救助され、日の出丸は、その後手配した曳船により最寄りの兵庫県浜坂港港外に引き付けられたが、15時過ぎ沈没して全損となった。
(原因)
本件転覆は、夜間、鳥取県田後港北方沖合において、やや波浪のある状況下で小型底びき網漁業の揚網時、大量の大型くらげの混入で目詰まりした漁網の吊り上げ作業を行う際、漁網の重量を軽減する措置を講じないで、同作業を続行中に漁網が振れて船体が大傾斜し、復原力を喪失したことによって発生したものである。
(受審人の所為)
A受審人は、夜間、鳥取県田後港北方沖合において、やや波浪のある状況下で小型底びき網漁業の揚網時、漁網の吊り上げ作業を行う場合、吊り上げ始めた漁網の中に大量の大型くらげが混入して目詰まりし、これまでの揚網で経験したことのない過度の重量が漁網にかかった状態であったから、同作業中に船体動揺から漁網が振れるなどして船体の安定性を著しく欠くことのないよう、吊り上げ作業を一時中断し網目の一部を切ってくらげを取り除くなど、漁網の重量を軽減する措置を講じるべき注意義務があった。しかるに、同人は、そのまま上方に吊り上げても問題あるまいと思い、漁網の重量を軽減する措置を講じなかった職務上の過失により、吊り上げ作業を続行中に船体動揺で漁網が左方に大きく振れて船体が大傾斜し、復原力を喪失して左舷側から転覆を招き、のち沈没して全損させるに至った。
以上のA受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。