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平成15年仙審第9号
件名

プレジャーボート誠奈丸転覆事件

事件区分
転覆事件
言渡年月日
平成15年7月10日

審判庁区分
仙台地方海難審判庁(勝又三郎、吉澤和彦、内山欽郎)

理事官
熊谷孝徳

受審人
A 職名:誠奈丸船長 操縦免許:小型船舶操縦士

損害
船体が破損、のち解撒

原因
磯波の危険性に対する配慮不十分

主文

 本件転覆は、磯波の危険性に対する配慮が不十分で、その発生海域への進入を中止しなかったことによって発生したものである。
 受審人Aの小型船舶操縦士の業務を1箇月停止する。
 
理由

(事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
 平成14年10月19日11時30分
 新潟県阿賀野川河口沖合
 
2 船舶の要目
船種船名 プレジャーボート誠奈丸
総トン数 1.69トン
登録長 8.00メートル
1.70メートル
深さ 0.57メートル
機関の種類 ディーゼル機関
出力 29キロワット

3 事実の経過
(1)誠奈丸
 誠奈丸は、昭和48年5月にFRP製漁船として竣工したのち、平成14年6月にA受審人が購入して中間検査受検後にプレジャーボートとして再登録されたもので、船体前半部の上甲板下に、船首から順にシーアンカー、錨及び同索等を格納した物入れ、燃料タンク、救命浮環及び救命胴衣等を格納した物入れ並びに右舷側に扉を取り付けたキャビン及び機関室を、船尾部に物入れをそれぞれ設置していたほか、上甲板上の中央よりやや後方に後壁のない操舵室を設け、その天井頂部に航海灯を取り付けたマストを備えていた。
(2)新潟港
 新潟港は、外港及び港がある東区と西区に区分され、東区が阿賀野川河口の北東方約5.5海里のところに、西区が同河口の南西方約2.7海里のところにそれぞれ位置し、両区とも北西方寄りの風浪を遮蔽するように各々防波堤が設置されていた。
(3)阿賀野川河口付近の状況
 阿賀野川は、新潟県北部を西方に流れて日本海に面した新潟港の外港に注いでいる河川で、その河口は、両岸から堆積した砂によってやや狭められ、その沖合も堆積した砂で遠浅の浅海域を成しているうえ、北方に向いていることから、北方寄りの風が連吹すると、そのうねりが浅海域にしばしば大きな磯波を発生させる地形になっていた。
(4)A受審人
 A受審人は、平成14年5月四級小型船舶操縦士の免許を取得し、同年6月に誠奈丸を購入したもので、その後10回ほど同船で釣りに出かけた際に操船したが、その内7回は阿賀野川河口付近に白波が立っていたので、同河口から約1,000メートル上流に設置されている新潟空港誘導灯付近で行い、外港で釣りをしたのはいずれも凪のとき3回で、同川河口沖合に白波があるときは外港には出ず、浅海域での磯波は経験していなかったものの、その発生について注意を払っていた。
(5)本件発生に至る経緯
 誠奈丸は、A受審人が1人で乗り組み、友人5人を乗せ、あじ釣りの目的で、船首0.3メートル船尾1.1メートルの喫水をもって、平成14年10月19日08時10分阿賀野川河口から6.7キロメートル上流左岸の係留地を発し、新潟港外港の釣り場に向かった。
 09時00分A受審人は、新潟港東区西防波堤灯台から233度(真方位、以下同じ。)2.2海里の釣り場に至り、全員が救命胴衣を着用したのち、錨泊して釣りを始めたが、発航にあたり新聞に掲載された天気予報を読み、当日午後から波浪が高くなることが報じられていたのを知っていた。
 10時30分ころA受審人は、友人達と共に陸風を受けながら釣りを続けていたところ、風向が次第に北方寄りに変わり、その後風力も増勢してきたのを感じ、沖釣りに慣れている同乗者から風力が増してきたので帰航を促されたこともあり、帰ることとして釣り道具を片付け、機関をかけながら揚錨し、11時11分少し前同釣り場を発進し、針路を阿賀野川河口沖合に向く240度に定めて手動操舵とし、機関を回転数毎分1,500の前進にかけ、10.8ノットの対地速力(以下「速力」という。)とし、折からの風浪を右舷側に受けながら進行した。
 11時26分少し過ぎA受審人は、阿賀野川口灯台から024度1.0海里の地点に達したとき、左舷方650メートルの海浜に打ち付けている磯波の模様を観察し、それまでの風向と風力から同川河口沖合の浅海域に磯波が発生し、その波頭が砕けているのを認めたが、この程度の波高のものであれば何とか通過することができるものと思い、磯波の危険性に対して配慮することなく、沖合を西行し新潟港西区に一時入港するなどして浅海域への航行を中止せず、同一針路で続航した。
 11時28分A受審人は、浅海域の磯波の状況が変わらなかったが、依然同海域の航行を中止せず、同時29分半阿賀野川口灯台から347度1,160メートルの地点に達したとき、一気に河口を通過しようとして、機関を回転数毎分2,000に上げ、14.4ノットの速力とし、針路を206度に転じて進行中、誠奈丸は、右舷前方から来襲した船幅を超える高さの磯波を受けて左舷側にあおられ、11時30分阿賀野川口灯台から337度1,000メートルの地点において、次の高波高の磯波で左舷側に大傾斜して復原力を喪失し、原針路のまま転覆した。
 当時、天候は曇で風力4の北北西風が吹き、潮候は上げ潮の末期で、阿賀野川河口沖合には北方寄りの風による磯波が発生していた。
 転覆の結果、誠奈丸は、1回転して復原したのち海岸に打ち上げられたが、重機を使用して砂浜に引き上げ中、船体が破損したので解撤された。また、A受審人と友人5人は、海中に投げ出されたが、いずれも無事に海岸に泳ぎ着いた。
 
(原因)
 本件転覆は、新潟県新潟港外港において、風向の変化と風力の増勢により釣りを止めて阿賀野川上流の係留地に帰航するにあたり、同川河口沖合に至って浅海域にうねりによる高波高の磯波が発生しているのを認めた際、磯波の危険性に対する配慮が不十分で、その発生海域への進入を中止することなく進行し、船幅を超える磯波を右舷方から受け、大傾斜して復原力を喪失したことによって発生したものである。

(受審人の所為)
 A受審人は、新潟県新潟港外港において、風向の変化と風力の増勢により釣りを止めて阿賀野川上流の係留地に帰航するにあたり、同川河口沖合に至って浅海域にうねりによる高波高の磯波が発生しているのを認めた場合、西区に一時入港するなどして浅海域への航行を中止すべき注意義務があった。しかしながら、同人は、この程度の波高の磯波であれば何とか通過することができるものと思い、浅海域への航行を中止しなかった職務上の過失により、そのまま浅海域へ進入し、高波高の磯波を右舷方から受けて誠奈丸を転覆させ、自らと友人5人が海中に投げ出されるに至った。
 以上のA受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第2号を適用して同人の小型船舶操縦士の業務を1箇月停止する。

 よって主文のとおり裁決する。





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