(事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
平成14年11月18日11時30分
鹿児島県加計呂麻港押角地区
2 船舶の要目
船種船名 |
漁船美和丸 |
総トン数 |
4.40トン |
登録長 |
8.98メートル |
幅 |
2.47メートル |
深さ |
0.90メートル |
機関の種類 |
4サイクル4シリンダ・ディーゼル機関 |
出力 |
36キロワット |
3 事実の経過
美和丸は、昭和50年7月に進水した一本釣り漁業に従事するFRP製漁船で、上甲板下は、船首から船尾へ順に船首倉庫、魚倉、機関室及び船尾倉庫を配置し、機関室の天井にFRP製蓋を船横に2枚取り付け、その上を操舵室としていた。
主機の排気系統は、船尾排気方式で、機関室の中央部に据え付けられた主機からの排気ガス出口に、内径約80ミリメートルの鉄製排気曲管を取り付け、それにゴムホースでFRP製排気管を接続して、FRP製排気管が溶損しないよう、鉄製排気曲管に主機冷却海水管を溶接して排気ガスとともに主機冷却海水も船外へ排出させ、同海水が排気管の途中に溜まることがないように船外主機排気ガス排出口に向かって少しだけ傾斜させ、同排出口は、船尾舵軸の右舷側の海面上約15センチに配置してあった。
A受審人は、昭和58年7月29日に四級小型船舶操縦士の免許を取得して平成10年に本船を購入し、同12年から鹿児島県加計呂麻港押角地区を基地にしていたところ、同地区が湾奥に位置していたことからビニール袋などのゴミが多く、主機冷却海水吸入口にビニール袋などが付着していないかどうか、主機始動時に同海水の排水状況の点検を行っていた。
美和丸は、A受審人が1人で乗り組み、いか釣り漁の目的で、船首0.1メートル船尾1.0メートルの喫水をもって、3分ばかりの暖機を済ませたのち、平成14年11月18日09時00分押角地区を発し、主機を全速力前進にして進行中、主機始動後に、船体中央部左舷側船底にある主機冷却海水吸入口にたまたまビニールが被さったものか、主機冷却海水の通水が遮断され、鉄製排気曲管にゴムホースで接続していたFRP製排気管部が高温の排気ガスで溶損し始め、同時05分機関室天井のFRP製蓋の隙間から白煙と共に異臭が立ち上って来た。
操舵室で操船していたA受審人は、白煙と異臭を感じて即座に主機の回転数をアイドル回転まで下げると共にクラッチを切った後、機関室天井の蓋を開け機関室をのぞくと、FRP製排気管部の下部が溶損して破口を生じ、同破口から排気ガスと主機冷却海水が出ているのを認め、同排気管部を冷やすつもりで、バケツ2杯の海水をかけたところ、白煙と異臭が少なくなったので、帰港して同排気管部の修理を行うこととして、ビルジポンプを始動して機関室内のビルジの排出を行いながら、低速力で主機を運転して09時30分ごろ押角地区に戻り、船尾を北方に向け入船右舷付けで着岸させた。
A受審人は、出漁を諦め帰航中に溶損により生じた破口から主機冷却海水が機関室内に出ているのを認めていたが、主機排気ガス排出口が海面より上にあることから、波浪による船体の動揺などで同排出口から海水が逆流することはないものと思い、同破口にウエスなどを当てるなどして海水浸入防止の措置をとらなかった。
こうして、美和丸は、10時35分ごろA受審人が溶損したFRP製排気管部の修理について打ち合わせをするため、美和丸を無人にしていたところ、波浪による船体の動揺や他船の作るうねり等を船尾から受け、主機排気ガス排出口が海面下に沈み、沈む度に海水が逆流し、逆流した海水が溶損により生じた破口を経て浸入し、次第に機関室内に滞留するようになり、11時30分奄美瀬戸埼灯台から真方位210度2.5海里の地点において、船尾が海面に没した。
当時、天候は曇で風力2の北風が吹き、潮候は下げ潮の末期であった。
その結果、主機、補機及び充電機などに濡れ損を生じ、後日、主機等を換装した。
(原因)
本件遭難は、鹿児島県加計呂麻港押角地区において、主機船尾排気管のFRP製排気管部が高温の排気ガスにより溶損し、同排気管部に破口を生じたまま本船を無人にする際、海水浸入防止の措置が不十分で、波浪による船体の動揺などで主機排気ガス排出口から逆流した海水が、同破口を経て機関室内に多量に浸入したことによって発生したものである。
(受審人の所為)
A受審人は、鹿児島県加計呂麻港押角地区において、航行中に主機冷却海水の通水が遮断され、FRP製排気管部が高温の排気ガスにより溶損して、同排気管部に破口を生じたまま本船を無人にする場合、波浪による船体の動揺などで主機排気ガス排出口から海水が逆流すると、同破口を経て機関室内に浸入するおそれがあったから、同破口にウエスなどを当てるなどして海水浸入防止の措置をとるべき注意義務があった。ところが、同人は、主機排気ガス排出口が海面より上にあったことから、波浪による船体の動揺などで同排出口から海水が逆流することはないものと思い、海水浸入防止の措置をとらなかった職務上の過失により、主機排気ガス排出口から逆流した海水が同破口を経て機関室内に多量に浸入し、主機、補機及び充電器などを濡れ損させるに至った。
以上のA受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。
よって主文のとおり裁決する。