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 海難審判庁裁決録 >  2003年度(平成15年) > 乗揚事件一覧 >  事件





平成15年那審第14号
件名

旅客船フェリーくだか乗揚事件

事件区分
乗揚事件
言渡年月日
平成15年9月25日

審判庁区分
門司地方海難審判庁那覇支部(小須田 敏、坂爪 靖、上原 直)

理事官
平良玄栄

受審人
A 職名:フェリーくだか船長 海技免状:六級海技士(航海)(履歴限定)

損害
両舷の推進器翼及び推進器翼ブラケットに曲損

原因
操船(低速力航行)不適切

主文

 本件乗揚は、水深が浅い水路を航行する際、低速力で航行しなかったことによって発生したものである。
 受審人Aを戒告する。
 
理由

(事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
 平成14年4月14日15時05分
 沖縄県久高島徳仁港
 
2 船舶の要目
船種船名 旅客船フェリーくだか
総トン数 49トン
全長 28.20メートル
機関の種類 ディーゼル機関
出力 1,169キロワット

3 事実の経過
 フェリーくだか(以下「くだか」という。)は、沖縄県久高島の徳仁港と同県沖縄島金武中城港安座真地区との間を、1日2往復の定期航路に従事する2機2軸を備えた単胴V底一層甲板型旅客船兼自動車渡船で、A受審人ほか2人が乗り組み、乗客40人及び車両2台を乗せ、船首1.2メートル船尾1.7メートルの喫水をもって、平成14年4月14日15時00分徳仁港を発し、金武中城港安座真地区に向かった。
 ところで、徳仁港は、久高島南西岸に位置しており、港口付近の干出さんご礁域に幅40メートル、長さ約320メートル、水深3メートルないし4メートルの浅い水路(以下「久高水路」という。)が設けられていた。また、久高水路は、沖縄県がくだかの就航に備えて同水路の拡幅工事などを行ったものの、久高水路出口付近のほぼ中央部に当たる、久高島灯台から292度(真方位、以下同じ。)220メートルの地点に、水深2.6メートルの孤立岩礁(以下「暗岩」という。)が存在していた。
 くだかは、約20年間にわたり前示定期航路で運航していた総トン数19トンの貨客船の代船として建造され、平成14年4月10日に就航したもので、航海速力14.0ノットで航行すると、船尾トリムが停泊状態よりも約3度増大することから、大潮の低潮時付近で波浪による動揺が予想される状況下では、十分な余裕水深を確保することができるよう、久高水路を低速力で航行する必要があった。
 A受審人は、昭和51年にくだかの運航管理会社であるH海運合名会社に入社し、その後前示貨客船の船長として運航に従事しており、徳仁港から金武中城港安座真地区に至る水路状況を十分に承知していたうえに、平成5年6月に六級海技士(航海)の免許を取得していたことから、くだかの専任船長として運航に携わることとなったもので、就航前の訓練航海及び就航後の運航経験から、航海速力で航行すると船尾トリムが一段と増大することも承知していた。
 A受審人は、単独で出航操船に当たり、入船右舷係留していた専用岸壁の北側水域で、いつものように右回頭したのち、久高水路入口に向けてゆっくりと進行し、15時04分久高島灯台から230度130メートルの地点で、手動操舵のまま針路を328度に定め、機関を極微速力前進にかけて6.0ノットの対地速力で、同水路に沿ってそのほぼ中央部を続航した。
 A受審人は、15時05分少し前久高水路出口付近に達したとき、やや高い波浪による縦揺れを感じるようになったが、大潮の低潮時を既に約1時間も過ぎていたことから、航海速力航行による船尾トリムの増大が生じても、十分な余裕水深を確保することができるものと思い、同水路出口を航過するまで低速力で航行することなく、航海速力に増速して進行した。
 このため、くだかは、原針路のまま、14.0ノットの航海速力となった直後、15時05分久高島灯台から292度220メートルの地点において、波浪による縦揺れに航海速力航行時の船尾トリムの増大が加わり、余裕水深が著しく減少して船尾船底部が暗岩に乗り揚げ、これを乗り切った。
 当時、天候は晴で風力5の南東風が吹き、潮候は上げ潮の初期に当たり、付近には波高約1メートルの波浪があった。
 乗揚の結果、両舷の推進器翼及び推進器軸ブラケットに曲損を生じたが、のちいずれも修理された。

(原因)
 本件乗揚は、沖縄県徳仁港の港口付近において、大潮の低潮時付近でやや高い波浪が生じている状況下、水深の浅い久高水路を航行する際、低速力で航行しなかったことによって発生したものである。

(受審人の所為)
 A受審人は、沖縄県徳仁港の港口付近において、大潮の低潮時付近でやや高い波浪が生じている状況下、水深の浅い久高水路を航行する場合、波浪による縦揺れに航海速力航行による船尾トリムの増大が加わると、余裕水深が著しく減少するおそれがあったから、同水路出口を航過するまで低速力で航行すべき注意義務があった。しかるに、同受審人は、大潮の低潮時を既に約1時間も過ぎていたことから、航海速力航行による船尾トリムの増大が生じても、十分な余裕水深を確保することができるものと思い、低速力で航行しなかった職務上の過失により、余裕水深を著しく減少させて暗岩への乗揚を招き、両舷の推進器翼及び推進器軸ブラケットに曲損を生じさせるに至った。
 以上のA受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。

 よって主文のとおり裁決する。





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